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その先へ 56

お話に入る前に……。
この度の豪雨による被害に遭われました皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
こちらに足を運んで下さっている読者様にも被害はなかったかと案じております。
まだまだ大変な時間を過ごされていることと思いますが、皆様がどうかご健康でご無事でありますように……。





下げていた頭を戻した牧野さんの弟───進さんは、副社長や美作専務、そして私に、ケースから取り出した名刺を手渡した。

「おまえまで弁護士だったとは……」

渡されたものに目を落としながら副社長が呟く。
その名刺には、大手法律事務所の名が記されていた。

「アポイントメントもなしに、こんな時間に申し訳ありません。それと改めまして、今回は、皆様に多大なご迷惑をお掛けしましたこと、依頼人に成り代わりましてお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」

笑みを消した真剣な表情で、今度は深く頭を下げた弟さんに、直ぐに副社長が反応を示す。

「弟、頭上げろ。助けられたことはあっても、迷惑なんて掛けられた覚えねぇよ。とにかく座れ」

「そうだぞ。気にすることなんて何もないからな」

副社長の後に美作専務も続いた。

「そう言って頂けると…………、本当にありがとうございます」

真剣だった顔に安堵が浮かび、ホッとしたように口許を緩めた。
失礼します、そう言って進さんがソファーに身を沈めるなり、食い付き気味に副社長が訊いた。

「牧野はどうしてる?」

「表面上は落ち着いています。色々と思うところはあるでしょうけど、覚悟もしていましたからね。昨夜は一晩中、姉と話をしました。それで今日、早速向こうの弁護士のところに行ってきたのですが、前田先生は蓮見田との契約を解除するようです」

「あの弁護士が?」

確認した副社長に「ええ」と進さんが頷いた。

「まだ、正義も希望もあった頃に救った、あの時の女の子とは対峙は出来ないと仰って……」

13年前。
前田弁護士が牧野さんと会っていなければ、牧野さんの人生は、あの日で閉ざされていたかもしれない。
それが何の因果か、よりによって蓮見田側の弁護人になっていたとは、牧野さんにしてみれば複雑な心境だったろう。
自分を救ってくれた人が蓮見田の脅迫には黙したままで、そんな彼に、何故止めに入らないのか理解に苦しむ、と言った、昨日の牧野さんの心の内が窺い知れる。
しかし、こうして顧問弁護士を辞めるとならば、前田弁護士にもまだ良心が残されていたのだと、少しは牧野さんの気持ちも救われると言うものだ。

「ですので、話の窓口がなくなったものですから、蓮見田守に直接会って来ました。本人と会って冷静でいられるか少しだけ不安でしたけど、あの顔を見たら……。
道明寺さんですよね? お陰で冷静になれました」

蓮見田守の顔が腫れ上がっていたのだろう。
あれだけ容赦なしに殴られたのだから、相当、悲惨な状態なのは間違いない。
殴った張本人は「まだ足んねぇよ」と忌々しげに吐き捨て会話を続けた。

「会ったんなら、向こうがどうなったか知ってるな?」

「はい」

副社長の指すものは、午後になって調査部から齎らされた蓮見田の新情報についてだ。
首を傾げ、副社長と進さんを交互に見る様子から察するに、美作専務はまだ知らない様だが、口を挟むべきではないと判断したのか、二人の会話の成り行きを黙って聞いていた。

「牧野にはもう伝えたのか?」

「いえ、帰ってから直接話した方が良いと思いまして」

同調するように副社長が顎を強く引く。

「これでアイツの気持ちが固まるかもな。そもそも牧野は、これ以上、戦わなくてもいいって思ってたろ。迷ってたんじゃねぇのか?」

副社長の隣では、美作専務が驚いた表情を見せ、

「お見通しでしたか」

進さんはニッコリと笑った。
大事にはせず、裁判で争うつもりはない、と言うことだろうか。

「牧野が考えそうなことだ」

事も無げに言う副社長に、緩ませていた口許を正した進さんが問いかけた。

「道明寺さん?」

「なんだ」

「直球で窺います。道明寺さんは、姉のことをどう思っていますか?」

曇り一つない真っ直ぐな進さんの視線が副社長を射ぬく。
その視線をしっかりと受け止めた副社長は、迷いも見せずに言い切った。

「愛してる。世界一大切な女だ」

「でも傷物ですよ?」

「なに?」

進さんの返しに副社長の眼が険しくなる。
それでも進さんは怯むことなく、交わる目線を反らしもせず、発言を覆すことも止めることもしなかった。

「男に手込めにされたと、世間は偽善や好奇の目で見るかもしれない」

「何が言いてぇ。その言い方も気に入らねぇな」

「全てを知って、道明寺さんの気持ちも揺らいだんじゃないですか? それが普通です。僕が弟だからって遠慮は要りませんし、建前も要りません」

「普通? だったら、その普通ってやつがおかしいだろ。何で俺の気持ちが揺れなきゃなんねぇんだよ。理解出来ねぇな。アイツに今以上に惚れることはあっても、それ以下はねぇ」

強い口調で断じた。
怒りを燻らせる副社長の鋭い眼差しを、真意を推し量るようじっと見た進さんは、次の瞬間には、嬉しそうに表情を笑み崩した。
それを見た副社長は、怪訝に眉を寄せている。

「進、司に裏表はねぇぞ。白か黒、そこに嘘はない」

ふんわりと笑って口を添えた美作専務に「はい」と、通りの良い声で返した進さんは、

「やっぱり道明寺さんは僕が思ってた通りの人でした。すみません。試すような真似をして」

副社長に頭を下げた。
進さんは、敢えて辛辣な言葉を選んだのだろう。
そうまでしても副社長の本心を知り得るために。

「僕の言ったことは、残念ながら存在する一握りの世間の目であり、何より被害者自身が、そういう目で自分を評したりもします。姉もその一人です。
僕は、そんな姉の弁護人ではありますが、それ以前に、弟として姉の代弁者になりたかった。
姉の気持ちを尊重しながらも、一方で僕は、こんな日が来ることを、ずっと願っていたんです」

「……代弁者?」

意味を確かめるように、副社長が言葉を重複させる。

「はい。だからこうして、頑固がより強固になった姉の意思に反して、内緒で今日はここに伺いました。
決して本音を語らない、貴方への想いを明かさないだろう姉に代わって。
僕の知っている姉の全てを、道明寺さんにお伝えしたくて……」

やはり牧野さんは副社長を……。
進さんの告白に全てを知る。
牧野さんが覚悟という名のもとに覆ってしまっただろう、隠した本心を伝えるために、こうして進さんはやって来たのだ。
厳しい言葉を投げつけたのも、伝えるのに相応しい相手か否か。副社長を信じていながらも、姉を思えばこそ最終確認が必要だった、弟の愛情の深さ故だ。

副社長は、苦しそうにきつく目を閉じた。
それは、気持ちを封印した牧野さんの苦しみを感じているように見えた。

「なるほどな」

美作専務が、何度か小さく頷く。

「そう言うことなら俺は席を外すよ。牧野の想いを俺まで勝手に訊くわけにはいかないからな。司にちゃんと教えてやってくれ。頑固なおまえの姉貴の話を」

「はい。俺は後で姉にボコボコにされるでしょうけど、それも覚悟の上です」

僕から俺に自称を変えた進さんは、茶目っ気たっぷりに笑い、素の人柄を窺わせる。

「有り得るな。アイツのパンチや蹴りは相当なもんだから、まともに喰らわないよう上手く逃げろよ?
それと牧野には、猛獣の餌やりは暫く引き受けるから安心しろ、そう伝えておいてくれ」

澄んだ笑みで、はい、と進さんが返すと、美作専務は立ち上がった。
副社長の肩を二度ほど叩き「じゃあな」と部屋を出て行く。
私も二人にコーヒーを入れて、美作専務に続いた。
副社長と牧野さんを案じて来てくれたに違いない進さんに、二人の幸せを託すように祈りを込め、お辞儀をして部屋を後にした。

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長くなりそう且つ、時間を要しそうなので、予定外に一旦ここで区切ります。
これで最終話までプラス一話増えてしまいますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

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  • Posted by 葉月
  •  4

Comment 4

Fri
2018.07.13

-  

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2018/07/13 (Fri) 06:28 | REPLY |   
Sat
2018.07.14

-  

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/07/14 (Sat) 08:04 | REPLY |   
Sun
2018.07.15

葉月  

コメントありがとうございます!

ス******* 様

今回もお付き合い下さり、ありがとうございます!

進くんに何より先に尋ねたいことは、やはりつくしのことですよね。
表面上は落ち着いてはいても、心中は様々な思いが駆け巡っていることと思います。
しかし、何年も掛けて心に決めた覚悟は、そうそう覆せるものでもなく、進くん曰く、頑固が強固になったと言っておりますから、それを崩すには司の存在なくしては有り得ないと思います。
進くんも、それが分かっていて幸せになって欲しいからこそ、司の元にやって来ました。
司に取って、本当に辛い時間になると思います。
ですが、全てを知らずしては先には進めませんので、試練の時として、司くんには受け止めて貰わねば!
それを受け止められるだけの器もありますし、強い男ですからね!
蓮見田の新情報も次回で明らかに……。
予定ではあと2話で完結を迎えます。
あくまで予定ですが(汗)、どうか二人の幸せを見届けてやって下さいませ!

コメントありがとうございました!

2018/07/15 (Sun) 00:05 | EDIT | REPLY |   
Sun
2018.07.15

葉月  

コメントありがとうございます!

ふ******** 様

こんばんは!
コメント頂けて良かったです!
あれから大丈夫だったかと、ずっと心配しておりました。
名前を見た時、ホッと安堵が……。

お話も読んで下さり、ありがとうございます!
つくしにとっての最強の味方、進くんがつくしの想いを引き下げ登場です。
何を伝えるのか、また蓮見田がどうなったのか、次回で語られます。
司くんにとっては苦しい時間となりますが、つくしと幸せになる道をきっと見つけて動き出してくれるはずです。
その時まで、あともう少し。
最後まで見届けて頂けたら幸いです!

コメントありがとうございました!

2018/07/15 (Sun) 00:10 | EDIT | REPLY |   

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