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Lover vol.48


 Lover vol.48


「つきたてのお餅がこんなに美味しいなんて知らなかったよ。つくし、またやろうね!」

男性陣がぐったりする中、際立って元気な滋さんは、美味しいを連呼しては顔を綻ばせ、一体、幾つのお餅を食べたことか。
お餅の旨さだけではなく、餅つき自体をすっかり気に入ってしまった滋さんは、実は自分でもお餅をついてみたかったと言う。

「今回は、折角つくしが仕返ししようって頑張ってたからさ、成功させてあげたくて遠慮したけど、次は滋ちゃんが餅つく係ね!」

⋯⋯滋さん。あなたもお仕置きの対象者で、しかも失敗に終わったんですが。

どうしてだか、お仕置きされる側から自分だけを排除している節がある滋さん。その微妙な気遣いに、もう笑うしかない。

何事も楽しみに変換できて人懐っこい滋さんは、今度は、ガーデンラウンジのソファーに座るお義父さまたちのところへと行き、朗らかに話かけている。
男性陣とは大違いだ。

男性陣は体力を消耗したせいか口数が減り、食欲もあまりないようで、一口サイズに丸めたお餅を1、2個食べた程度。
つきたてのお餅は、滑らかで伸びが良くて本当に最高なのに、この贅沢を満喫しないなんて勿体ない。
あんなに不満オーラを漂わせていた桜子でさえ、「美味しい」って喜んでくれたのに。

その桜子が特に気に入ったのが草餅で、勿論それは、裏庭で摘んできたよもぎを使用したもの。
予めペースト状にしたものをもち米と合わせて作った草餅は、風味豊かでかなりの絶品だった。添えたあんことの相性も抜群に良い。

楽しみに待っていたお義父さまも穏やかな笑みを浮かべて満足そうだし、お義母さまも、見頃がピークを迎えた桜の木を眺めながら、「こういうのも悪くないわねぇ」と楽しんでもらえたようだ。

使用人全員にも振る舞い、誰しもが美味しいものが齎す幸福に包まれて和気あいあいとしている中、目立ってどんよりしているところがある。男性陣が纏まって座っている一角だ。
花の4人組と言われている彼らのファンが見たら、びっくりの萎れ具合じゃないだろうか。

アラサーになっても一向に衰えない美貌と引き締まった体躯。
一挙一動が常に注目の的で、キラキラオーラを無駄に撒き散らかしている彼らだが、今日に限っていえば、それがない。消えた。
いや、ファンならば、この気怠そうな姿すら、色っぽく映るのかもしれないけれど。

キラキラオーラも、色っぽさも全く以て興味がない私は、花の男子より自然の草花を眺める方が好き。
もっと言えば、それ以上に美味しいものに興味をそそられてしまう、花より団子。
というわけで、ハンキングチェアに揺られながら、最後にもう一つだけお餅を口に運び味わう。

少しだけ固くなってしまったお餅をモグモグと咀嚼しながら、『つきたてはもっと美味しかったのになぁ、少ししか食べないなんてホント勿体ない』と、ブツブツ心で嘆きながら、私の正面、大きなテーブルを囲んだ椅子に座る彼らに目を向けた。

腰を叩く西門さんに、「⋯⋯疲れた」と椅子に身を預け嘆息する美作さん。

「つくし楽しかったか?」
「うん。満足。気が済んだ」

餅がつき終わった直後は、こうして私のご機嫌伺いをしてきた司だったけど、一段落した今は、首をコキコキと鳴らしている。
重力に任せ、適度な力加減で行うのが正しいお餅のつき方なのに、みんなはそれを力業でやってのけたのだから、あちこちの筋肉や関節が悲鳴を上げているのかもしれない。

類も疲労困憊なのか、テーブルの上で頬杖をつき、遠くを見つめて、ぽわ~んとしている。

けれど類の場合、『ぽわ〜ん』が通常運転のような気も!?

そんな類に、メイドさんが戸惑ったように近づき声をかけた。

「あの⋯⋯、花沢さまにお届けものなのですが」

呼ばれて振り返った類の顔に、パッと屈託のない笑みが咲く。

「お、来た来た!」

頬杖を解き、嬉しそうに手を伸ばしてメイドさんから受け取ったものは、銀色の保温バッグ。すかさず中身を取り出した類は、もう保温バッグは用無しとばかりに、ポイッと背後に放り投げた。⋯⋯雑だ。

中身は食べ物だろうか。

みんなの視線が類に集まる。
隣にいた司は、類が取り出したものを覗き込み、そして声を上げた。

「おまっ、これメープルのフルーツグラタンじゃねぇかよ!」

「うん。牧野がチューしてくれないから、代わりに大好きなフルーツグラタンで癒やされようと思って、メールで頼んでみた」

「当たりめぇだ。チューなんかさせるか! つーか、」

司は、疑わしそうに目を細める。

「うちはデリバリーやってねぇのに、なんでこんなもんがメール一本で届くんだよ」

「俺のフルーツグラタン愛がホテル側に伝わったのかも。流石はメープルだよね」

⋯⋯え。メープル、デリバリーやってないの?
じゃあ、なんでここに?

司と同じく疑問が浮かぶ。

「んな馬鹿な」

吐き捨てた司が、少し離れた場所にいるお義母さまを見る。
こんなことあり得るのか? と問い訊ねるような目で。

「新しいサービスでも始めたのかしら。花沢さんの思いに応えられたのなら良かったわ」

お義母さまがサラリと返せば、司は眉を寄せ、潜めた声を出した。

「有り得ねぇ。ワンマン経営のババァが知らねぇサービスだと? ババァの許可がねぇ過剰サービスは、社員にとっちゃ命取りだ。簡単にそんなことするかよ。⋯⋯おい、類。おまえ、一体どんな手使いやがった」

「うん? 別に何も」

確かに。司が言うのも尤もだ。
私でも思う。お義母さまが知らないことなんてあるの? と。

「裏で何やってんだか⋯⋯。俺は時々、おまえが怖いよ」

類を見ながら美作さんが言う。本音だろうと思われる、気持ちの籠もった声音だった。
司も知らなくて、お義母さまも把握していないことをケロリとやってしまっているのだから、美作さんが慄くのも無理はない。

純粋無垢な見た目に反して、大胆な行動をする類。
さっき、お義父さまやお義母さまがいらしたときには、F3を一括りで見てしまったけれど、身を正したのも、お辞儀をしたのも、あくまで礼儀としての一環であって、実はこの人、全く動じていなかったんじゃないだろうか。
事実、お義父さまもお義母さまもいるこの場所で、こうしてみんなから注目されているというのに、全く以て緊張感はゼロ。
どころか、

「いただきまーす」と愛らしく言った類は、

「うん、やっぱり美味い」

子供のような無邪気な笑顔で、フルーツグラタンを頬張っている。
みんなの視線など、まるで眼中にない。

⋯⋯マイペースすぎる。



「ねぇねぇ、つくし!」

幸せそうな類を眺めていたところで呼ばれ、振り向いた。戻って来た滋さんだ。

「焼き鳥食べたい! 食べてみたい!」

なるほど。お義父さまから、みんなで焼き鳥を食べた話を訊いてきたってわけか。
にしても、

「滋さん、あんなにお餅食べたのに、まだ食べれます?」

「余裕、余裕! 焼き鳥は別腹!」

「いやいや、デザートじゃないんですから」

滋さんの底なし胃袋に苦笑いだ。

「焼き鳥なら俺も喰う」

猜疑に満ちた目を惜しみなく類に向けていた司まで、焼き鳥に反応する。

仕方ない。滋さんは言ったら聞かないだろうし、司はあまりお餅を食べていない上に、そのお餅を仕上げてくれた功労者のひとりだ。多少の褒美はあげてやってもいいかもしれない。
司が味を保証する焼き鳥ならば、今度こそF3だって食べるかもしれないし。
まぁ、類に限っていえば、フルーツグラタンでお腹を満たしているから怪しいけれど。

「了解! じゃあ、直ぐに用意しますね!」



厨房の方たちの協力もあって、言葉どおり準備は比較的直ぐに整った。が、いざ焼き始めるとなると、そうはいかない。

「これ、6本しか焼けないんだった」

焼きながら、ポツリと呟きが落ちる。

小さい家庭用の焼き鳥機。
一度に焼ける量は決まっている。
これだけの人数がいるのに、全員が満足する分だけの焼き鳥が出来上がるには、一体どれほどの時間がかかるのやら。⋯⋯ちょっと面倒かも。

でも、仕方ないか。

椅子を引っ張り出してきて焼き鳥機の正面を陣取った司と滋さんから、期待の籠もった目を向けられていては、今更投げ出すわけにもいかない。
それに、お餅をつくことに比べたら、大した労力を使うわけでもない。
のんびり気長に焼いていこう。

「良い匂いだね」

そこへ、香ばしい匂いに誘われたのか、お義父さまが傍にいらした。

「大量に焼けないので少し時間かかりますけど、お義父さまたちの分も用意しますからね。待っててくださいね」

「ありがとう。待つのは構わないよ。だが、こんなことなら、あれだけでも先に搬入――――」

「ばっ、親父っ!」

突然、声の出力を大にした司が立ち上がり、お義父さまの言葉の先を断ち切った。

ん⋯⋯? 何事?
搬入?⋯⋯って何それ。

首を傾げて司を見る。

「いや、何でもねぇよ、気にすんな」

瞬時に笑みを貼り付けた司は、手を伸ばして誤魔化すように私の頭を撫でてくる。その笑顔が胡散臭い。
司が答えないならばと、もう一方の当事者、お義父さまに目を移せば、

「ああ、何でもないよ。向こうで焼き鳥の出来上がりを楽しみに待っているとしよう」

⋯⋯逃げた。

怪しい。怪しすぎる。
この親子、絶対に何か隠している。
けれども、それが何なのか皆目見当もつかない。

一体、なんのことなんだろう。

手元の串を回しながら悶々と考える。
あの怪しさ、ただ事じゃない気がする。
けれど、考えたところで答えは出ない。

やがて全員に焼き鳥が行き渡り、F3を含めたみんなが嬉しそうに頬張る姿を見ているうちに、司たちへの疑惑なんてものは、すっかり頭から抜け落ちていた。



――――その忘れていたものの答えが判明したのは、それから2ヶ月後のことだった。


「ひっ!!」

私は、疑惑の正体を前にして、絶句する。
東側で何やら工事をしていたのがその正体で。ずっと隠すように覆われていたブルーシートが取っ払われ、突如として姿を現した建物。

道明寺邸には似つかわしくない、和風のこじんまりとした造りであるこれが一体何なのか。一発で説明できるアイテムが風に揺れている。

それは⋯⋯、


【やきとり つくし】


黒字で印字された、軒先にぶら下がる赤提灯だった。

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  • Posted by 葉月
  •  4

Comment 4

Fri
2023.08.04

-  

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2023/08/04 (Fri) 06:00 | REPLY |   
Fri
2023.08.04

春の嵐  

悪妻作戦も間違いなくコントですね。(笑)しかし半端ないですね。
流石道明寺家!屋台でもなくお庭に焼き鳥屋!こんなお店が町に出たら間違いなく行列のできる焼き鳥屋さんですね。いやいや全国展開してしまうのか?何処を見てもつくしの提灯が町を賑やかすかも!

2023/08/04 (Fri) 07:34 | REPLY |   
Tue
2023.08.08

葉月  

き✤✤ 様

吹き出さず何よりでした(;・∀・)
道明寺家の雰囲気にはそぐわない、突然姿を現した赤提灯です。
どれだけ焼き鳥気に入っちゃったんですかね。

私も断然塩です。
せせり、良いですねぇ!
私は、レバーも好きで、特に白レバーにビールでクイッと行きたい派です!
書いているうちに私も食べたくなってしまいました。
このお話は、ちょいちょい飯テロ回がありますので、読者様側も書いている私も、空腹時には要注意かもしれません(¯―¯٥)

コメント、ありがとうございました!

2023/08/08 (Tue) 19:59 | EDIT | REPLY |   
Tue
2023.08.08

葉月  

春✤✤ 様

何やら赤提灯をぶら下げた店らしきものが、道明寺邸に出現しちゃいました(*´艸`*)
全国展開しようものなら、繁盛間違いなしですね。
司が時折顔出せば、老いも若きも全国から押しかける女性客で溢れ返るかもです。
果たして、この店らしきものはどうなるのか!? ということで、次回もよろしくお願いいたします!

コメント、ありがとうございました!

2023/08/08 (Tue) 20:01 | EDIT | REPLY |   

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