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Lover vol.47



 Lover vol.47


お義父さまの存在をチラつかせるなり沈黙した三人。
女性陣には『お義母さま』の名を借りたのだから、男性陣には『お義父さま』の名を。
ちゃんと平等を図る私は優しいと思う。誰も褒めてくれないから自画自賛してみる。
それに嘘は言っていない。

お義父さまには今朝、『友人たちと餅をついて草餅作りますから、楽しみにしていてくださいね』と、伝えてある。

お義父さまは、それはそれは喜ばれて、出来上がりの連絡が来るのを、今か今かと書斎で楽しみに待っていらっしゃるはずだ。

「ふーん、そんなに嫌なんだ。じゃあ、しょうがないよねぇ。楽しみにしていたお義父さまには申し訳ないけど、連絡入れて諦めてもらわなくちゃ。西門さんも美作さんも類も、みんな手伝うのが嫌みたいなんです、って伝えるね」

しょんぼり言いながら、今にもお義父さまに掛けんばかりにスマホを弄りだせば、「⋯⋯牧野てめぇ」苦虫を噛み潰したような顔で、西門さんが苦々しく呟く。
そして、次の瞬間。

「だーーーーーっ!!」

意味なく喚いた。

「やりゃあいいんだろうがよ、やりゃあよ! ったくよ!」

地団駄踏みそうな勢いで自棄糞気味に言うが、そこまで嫌なものでも、巨大権力を持つ道明寺総帥を敵に回す勇気はないらしい。

「なんだって俺たちがこんなことを⋯⋯」

「仕返しですよ、仕返し。私たちが宝探しの旅を計画したもんだから、先輩ったら根に持ってるんですよ、きっと」

項垂れて嘆く美作さんに答えたのは桜子で、私の意図を正しく汲み取っているところは流石だ。
それを聞いていた西門さんが、今度は司に噛みつく。

「司! おまえのために手を尽くしてやった俺らが、おまえの嫁に脅迫されるとか理不尽じゃねぇかよ! ボケっとしてねぇで、少しは俺らを助けようとは思わねーのか!」

「アホか。俺がつくしに逆らえるはずねぇだろうが。諦めて大人しくつくしの言うこと聞け」

「このヘタレがっ! おまえの嫁、悪妻失敗したくせして、究極の鬼嫁じゃねーかっ!」

ひっ! 
やっぱり悪妻化計画バレてる!
しかも失敗してることまで!!
出来ることなら東京の裏側まで穴を掘り、今すぐにでもダイブして、大西洋の大海原に逃げ込みたい!

思わず悲鳴を上げそうになるのを何とか堪え、羞恥で赤らんでるかもしれない顔をツンと上げて強気を装う。
臼に向かって顎をしゃくるような仕草をすれば、気づいた司が直ぐに動いた。

「何をどうすりゃいいかわかんねぇけど、とにかく、つべこべ言わずにやるぞ」

西門さんの太腿に蹴りを入れて臼の方へと押し出し、

「牧野がほっぺにチューしてくれるなら、俺、頑張ってもいいよ」

本気か冗談かわからないことを言い出す類のことも、首根っこを掴んで引き連れて行く。
鋭い眼差し一つで美作さんをも動かし、男性陣が臼の周りに集まったところで蒸したもち米が運ばれてきて、臼に投入された。

「坊っちゃん方、まずは杵で、もち米を潰すところから始めますよ」

指導者はタマ先輩。
みんなが慣れるまでは、返し手もやってくれるらしい。

ジャンケンで負けた美作さんから始まった餅つきは、揃いも揃って喧嘩が強く体力もあるくせして、口から出てくるのは、重いだ辛いだ何だのと、不満ばかり。⋯⋯全く、諦めの悪い人たちだ。
特に西門さんは、

「このもち米を牧野だと思ってやりゃあ良いんだな」

なんて酷いことを言いながら、杵を高く持ち上げては、怨みを晴らすように餅に叩きつける荒々しさだ。
そればかりか、

「腰痛ぇーっ! 俺の大事な腰が使い物にならなくなったらどうしてくれんだよ! 牧野っ、おまえ優紀に謝っとけよ!」

要らぬことまで言う始末で、耳まで真っ赤になってしまった優紀にしてみれば、予想外の貰い事故。
恋人の不用意な発言こそが優紀にとってはお仕置きみたいなもので、私の仕返しなんて可愛いくらいじゃないだろうか。私も同情してしまう。
だから、これ以上優紀を追い込むのは忍びなくて『だったら、優紀が上になればいいんじゃ⋯⋯』と咄嗟に出かかった言葉は急いで呑み込んだ。


あっちが痛い、こっちが痛い、もう疲れた、と騒がしいことこの上ないが、それでもコツを掴んだのかリズム良く餅がつかれていく。

タマ先輩に教わりながら、返し手も滋さんや桜子に代わった。
それを見届けた私と優紀が、餅の和え物を用意しようと動けば、

「牧野! 石鹸で手を3回は洗えよ! その後に消毒もしろ!」

目敏く飛んできた潔癖症の声。
相変わらず私を汚れ物認定しちゃってくれている。

――――言われなくても洗うつもりでいたのに。

ムッとして、無言で美作さんに近づく。
左右の手のひらをパッと広げて見せ、「うわっ」と飛びかかる真似をすれば、「うおっ!」美作さんは面白いほど肩を跳ねさせ、体をよろめかせた。

一度ならず二度までも人を汚れ物扱いするとは失礼しちゃう。
桜子に申し訳ないと思いつつも、温厚だと自称する私だって流石にムッとする。ちょっとくらいの脅しは大目に見てほしい。

美作さんの情けない格好を見て溜飲を下げた私は、鼻歌を刻みながらその場を離れ、手をきっちり3回洗って消毒もしてから準備に取り掛かった。

きな粉に黒ゴマ、大根おろし、納豆。そして、あんこ。
あんこだけは手抜きして、浅草にある老舗の和菓子屋さんから調達したものを使う。
他は、すり下ろしたり、砂糖や醤油で味を整えたりと、それぞれをボウルに仕込んでいく。

全ての準備が整い暫くすると、

「これくらいで良いでしょうかね。坊っちゃん方、出来上がりましたよ」

付きっきりで捏ね具合を見てくれていた先輩から出されたOKサイン。
途端に汗を拭う男性陣の顔に安堵の色が広がった⋯⋯が。


――――おっと、いっけなーい。私ったら、言うの忘れてた。


白々しく内心で呟いた後で、今度はきちんと声に乗せる。

「慣れてきたところで、次は草餅をついてもらいまーす!」

伝え忘れていたせめてものお詫びに、満面の笑みで言ってみるが、反してみんなの表情は優れない。
西門さんなんかは、殺気立っている、と言っても良いかもしれない。
美作さんは膝に両手をつきガックリしているし、類は両手足を投げ出し芝生の上で伸びている。お利口さんだったはずの司でさえ、「マジかよ」と天を仰いだ。

「だって、お義父さまに草餅作りますね、って言っちゃったし」

「⋯⋯⋯⋯おい、鬼嫁。おまえ、わざと俺たちに、その事前情報渡さなかったろ」

西門さんの鋭い指摘に内心で頷く。――――はい。そのとおりです。

だって、一回じゃつききれないもち米を用意しちゃったし、それを先に言ったらモチベーション下がるでしょ?
それに、お義父さまが心待ちにしてる草餅から取りかかったら、何だかんだ言い逃れをして、二回目のトライはしてくれないかもしれないじゃない。
何より、一回だけのお仕置きじゃ、私の気が済みません!!

つらつらと述べられるだけの言い分はあるが、それを言葉にする前に、第二弾のもち米が運ばれてきた。

「ほらほら、熱いうちに取りかからないとね! ではでは、第二弾も頑張って参りましょう!」

ハイテンションな声に返ってくるのは、言葉にならずの唸り声か。
そんな中、司が硬い声で訊いてくる。

「つくし、おまえも喰いてぇのか? 草餅ってヤツ」

「もちろん!!」

即答すれば、

「⋯⋯わかった。ヤローども、つくしのために働けーっ!」

「ったく、嫁の尻に敷かれやがって、てめぇはどこまでヘタレなんだー!」

西門さんの声が鼓膜を揺らす。
これだけ大声が出せるのなら、まだまだ余力があるってことで、第二弾も大丈夫でしょ。
というか、余力がなかろうが、やらざるを得ない状況になるわけで。
だって⋯⋯⋯⋯。

「お義父さまー、お義母さまー! こっちですよー! お餅出来上がりましたー!」

ご本人登場なら動くしかないでしょ?

建物の向こうからやって来るのは、お義父さまとお義母さま。
最初のお餅の仕上がりに合わせてふたりを呼ぶよう、メイドさんに頼んでおいたのだ。
今日は珍しくふたり揃ってお休みなのだから、草餅だけと言わず、つきたての白いお餅も是非とも味わって楽しんでもらいたい。

ふたりの姿を見つけて声をかければ、即座に反応したのは言わずもがなの三人で。だらしなかった姿勢を素早く正し、続けてふたりに向かってお行儀良くお辞儀をする。

そして予想どおり、不満の不の字すら言わずに餅をつき始めた、三人とプラスお利口さん。
それも、感心するほどの機敏な動きで、第一弾よりもスピードがアップしている。もう力業で何とかしようという勢いだ。
別の見方をすれば、ただ自棄になっているだけなのかもしれないけれど⋯⋯。

ともあれ、お義父さまとお義母さまの存在は絶大だと、沁み沁み思う。
普段、桁違いのお金を稼ぐF3を、こうして無給で大人しく働かせてしまうのだから。

圧倒的存在感を放つ道明寺家のツートップが見守る中、黙々と草餅をつく四人。

赤札を貼られた地獄の日々を思えば、F4を扱き使える日が来ようとは、なんて感慨深いんだろうか。
実に感慨深くて泣けてくる――――なーんてことは勿論なく。

「どうしよう。ニヤニヤが止まらない」

気分が良すぎて本音をポロリと溢せば、気づいた桜子と優紀が、引き攣った顔で私を見ていた。

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  • Posted by 葉月
  •  6

Comment 6

Tue
2023.08.01

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2023/08/01 (Tue) 22:01 | REPLY |   
Wed
2023.08.02

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2023/08/02 (Wed) 11:42 | REPLY |   
Wed
2023.08.02

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2023/08/02 (Wed) 20:26 | REPLY |   
Thu
2023.08.03

葉月  

ク✤✤ 様

今日も明るい道明寺家です(*^^*)

F4に餅つきをさせるなんて、つくしぐらいじゃないでしょうか。
きっと司父&母も、穏やかな気持ちで休日を満喫してくれていることと思います。

ク✤✤さん、奇遇ですね。
私も切ない系を書きたくてウズウズしております(*´艸`*)
別の話を同時進行で書くのがあまり得意じゃないので「Lover」が終わってからとなりますが、次は切ない話で行こうと思っています。
既にある程度のプロットも頭の中で出来上がっておりますので、お披露目まで、もう暫くお待ちくださいね!

コメント、ありがとうございました!

2023/08/03 (Thu) 22:22 | EDIT | REPLY |   
Thu
2023.08.03

葉月  

き✤✤ 様

つきたてのお餅、美味しいですよね!
やっぱり、きな粉推しなんですね(*´艸`*)笑
私も、きな粉と、大根おろしに七味を落として食べるのが好きです。
黒ごまはすって、砂糖とひとつまみの塩を加えて、おはぎのような感じで食べるのですが、これってノーマルな食べ方じゃないんですかね。
納豆は、私も旦那と結婚してから知りました。納豆好きには好評みたいですよ!
生憎と私は、ご飯に納豆をかけるのも無理で、納豆はキムチを混ぜたものをそのまま食する以外口にできないものですから、納豆餅を味わったことがないのですが(^_^;)
納豆が苦手でなければ、ぜひ一度お試しを!

コメント、ありがとうございました!

2023/08/03 (Thu) 22:23 | EDIT | REPLY |   
Thu
2023.08.03

葉月  

あ✤✤✤ 様

本当に暑いですよね。
毎日、外に出るたびに体力を奪われ、ぐったりしています。
危険すぎる毎日ですが、お互い水分補給を欠かさずに、過酷な夏を乗り切りましょうね!

お話の中では、こんな猛暑よりも前の春の季節で、道明寺家では、お仕置きがてらの餅つきが開かれております。
桜子たち女性陣にも、お仕置きのあとのお餅は、格別に美味しく感じていただけるんじゃないかと思います。

そして、あ✤✤✤さんの予想ですが、当たらずも遠からずでして、流石、わかっていらっしゃる٩( ᐛ )و
キィー、が近々待ち受けております。
次回以降で判明しますので、引き続きお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

コメント、ありがとうございました!

2023/08/03 (Thu) 22:24 | EDIT | REPLY |   

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