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Lover vol.46


「桜子⋯⋯、おまえ、一体何があってそんな姿に⋯⋯」

美作さんが愕然とした表情で桜子を見る。
美作さんだけじゃない。庭に引っ張り出してきた男性陣の誰しもが、唖然と立ち尽くしている。
みんなが向かう視線の先は、主に桜子。
抜きん出て桜子の姿がボロボロだからだ。
ジャージー姿の桜子は、髪がほつれ、肩は落ち、いつものシャンとした姿はどこにもない。

「⋯⋯どうもこうもありませんよ。先輩に嫌がらせされたんです。この私が畑仕事とか⋯⋯、ホントあり得ないですから」

恨み節にキレがないのもまた珍しい。
畑仕事という名のお仕置きが覿面に効いたようで、傍で見ていた私はニンマリと口の端をつり上げ、心の内側で偉そうに呟いてみる。

――――今回はこれくらいで勘弁してやろう、と。



 Lover vol.46



世間が騒がしくて外出する気にならなくなった私に、『外に出ずとも楽しめる趣味を見つけたらどうだい?』と提案してきたのは、タマ先輩だった。
何が良いか敷地内を散歩しながら思案していると、はたと思いついた家庭菜園。
ヨモギを摘み、それを食する。これが思いの外楽しかったから、思い浮かんだのかもしれない。

でも、それには原点がある。
子供の頃の田舎での記憶だ。
お盆になると家族で祖母の家を訪れるのが毎年の恒例行事で。私と進は、それが楽しみでしかたなかった。

都会の子供からすれば田舎は遊びの宝庫。
おもちゃなんてものはない。公園にあるような遊具もない。あるのは自然だけ。
その自然が、私たち子供を飽きさせない。

裏山を探検したり沢蟹を取ったり。野ウサギを見つけては追いかけ回したりして。
クヌギの木に蜂蜜やアルコールに漬けたバナナを仕掛ければ、翌朝には、カブトムシやクワガタだって取り放題だ。

夏でも冷たい川遊びも沢山した。
どこが深くて流れが早いのかを熟知しているおばあちゃんが、私たちに危険がないよういつだって笑顔で付き合ってくれて、傍らでスイカを冷やしながら、疲れるまで遊んだっけ。

ジリジリと照りつける夏の太陽を全身に浴びて汗をかけば、水分補給代わりに祖母の畑のきゅうりをもいで、そのまま齧り付く。
スーパーに並んでいるような形の良いものじゃなく、くるりと丸みを帯びたきゅうりは、売っているものよりも味が濃くて瑞々しくて、何もつけなくても充分美味しかった。
他にも祖母の畑には沢山の野菜が育っていた。
艶々のトマトを丸ごと齧ったり、おやつには、おばあちゃんに茹でてもらったトウモロコシを食べたりして⋯⋯。
大人になった今でも、祖母の畑に勝る野菜を、私は知らない。

毎日毎日、日が暮れるまで遊び回り、小麦色に焼けた子供の頃の自分。
その傍には、目尻を下げて優しく見守る、おばあちゃん。

今でも鮮明に思い出せる。――――あの遠い夏の日を。
宝石箱をひっくり返したような、キラキラと輝いていた日々。大切な、大切な、幼き日の思い出。

多分、そんな夏の記憶があったから、私は家庭菜園を無意識のうちに結びつけたのだと思う。


そうして始まった野菜づくりの場所は、ヨモギが生息している裏庭に決め、そこで土を耕し、種を撒き、苗を植えていった。
野菜づくりは思っていた以上に楽しくて、自分で育てた野菜で料理をしたり、ぬか漬けにしたら、どんなに美味しいだろうか。そんな想像をしたら、何かを植えたそばからまた別のものを植えたくなって、その衝動は止まらなくなった。

そうこうしているうち気づけば、家庭菜園の枠を飛び越え、畑と呼ぶのに相応しいものが出来上がってしまい、そろそろ打ち止めにしないと、管理が大変そうな域に達している。
敷地が有り余っているのを良いことに、少しばかり調子に乗りすぎたかもしれない。

メイドさんやSPさんなんかは、見るに見かねて手伝いを申し出てくれるほどで。けれど、本来の彼らの仕事じゃないのに、甘えるわけにはいかない。
自分が好きで始めたことで、優しい人たちに迷惑は掛けられない。
これが、いつも自分を振り回しす仲間からの申し出ならば、日頃の迷惑返しで喜んで手伝わせるところだけど。

まぁ、あの人たちが、そんな申し出をしてくるわけがないし、そもそも畑仕事を手伝うなんてありえない。そんなことさせたら、単なる嫌がらせだと思われるだけ。

そう思ったときだった。ふと『嫌がらせ』のキーワードが、私の別の思考を刺激した。

もしや、これは使えるんじゃないの?
私を巻き込み好き勝手してくれる仲間たちへの仕返しとして。
だって、桜子たちに畑仕事とか、あり得なさすぎて最高でしょ!
たまには私が反撃して、みんなを振り回したっていいはずよ!

そうと決まれば、私の行動は早かった。
打ち止めとなる最後の苗を桜子たちと一緒に植えるために、これまでにないくらい土の状態を良いものしようと労力を注ぎまくり、栄養満点の土壌が出来上がった結果――――。

「なんであんなにミミズがいるんですか。ホント信じらんない」

まだ文句が言い足りないらしい桜子の言うとおり、畑にはミミズがわんさかといた。
これこそが、栄養が行き渡り土が元気である証拠。そして、私の汗と涙の結晶でもある。
ミミズを増やしたいがために、一体どれほどの汗水を垂らしたことか。
それもこれも女性軍を怖がらせたい、その一心でだ。

お陰で私の狙いどおり、恐怖に陥れることに成功した。
土を掘り、顔を出したミミズを見るなり噴出した悲鳴。
悲鳴が収まれば文句を吐いて、またミミズと遭遇しては悲鳴を上げるということを繰り返した桜子は、遂には気力体力ともに擦り減ったらしく、顔には疲労が色濃く浮かんでいる。
悲鳴を上げようが、文句を言われようが、最後の一苗まできっちりと植えさせのだから、そりゃぐったりもするだろう。

優紀も文句こそ付けなかったものの、ミミズには顔を青くさせていた。

けれど、一つだけ誤算があった。
滋さんが全く怖がらないという、とんでも誤算が。
それどころか、楽しんで率先して働いてくれるもんだから、滋さんに限って言えば、この作戦は失敗。
『もっと何か植えようよ!』とノリノリで、寧ろ、滋さんの体力に合わせていたら、こっちがお仕置きにあっているようなものだ。立場が逆転してしまう。そんなの私の身が保たない!

考えあぐねた私は、可愛い我が身を案じ、滋さんに対してのお仕置きは早々に諦めた。

「しかもこの人、素手でミミズ摘むんですよ! 女性としてあり得ないですから!」

片やよっぽど不満が溜まっていると見える桜子は、私のことを「この人」呼びし、指を差す。
それに反応したのが美作さんで、まるで恐ろしいものでも見る目つきで、私から距離を取り一歩後退った。

あ、そっか。
美作さんって潔癖症だったっけ。

「ダンゴ虫も触ったけど」

と申告すれば、また一歩足を引く。

この反応、間違いない。桜子の話を聞いて、私を汚れ物認定したと思われる。
そんな様子に悪戯心がむずむずと疼く。
わざと触れてやろうと、ミミズに触った手を伸ばして⋯⋯、けれど直ぐに思い直し手を下ろした。

いけない、いけない。美作さんをイジメて良いのは桜子だけ。
さっき桜子に見咎められたばかりだというのに、うっかり忘れて美作さんをイジメてしまうところだった。

私が手を下ろしたことで、あからさまにホッとした様子の美作さん。
でも甘い。イジメとお仕置きは全くの別物。男性陣には男性陣用のお仕置きを用意してある。
抜かりなく準備したそれを早速決行すべく、

「アレをよろしくお願いしまーす!」

近くにいた使用人の方に声をかければ、待ってましたとばかりにきびきびと動いてくれる。
事前に打ち合わせし、協力体制はばっちりだ。

何が始まるんだ、とソワソワする仲間たちを余所に、道明寺家の人々はてきぱきと用意し、それは庭の中心部にドンと置かれた。

「なんだアレ」

司が不思議そうに首を傾げる。
お坊ちゃんにはわかるまい。

「臼と杵よ。これでお餅をつくの」
「⋯⋯餅?」

道明寺家の倉庫に眠っていたことすら知らないだろう司は、説明してもいまいちピンとこないようだ。

手入れがきちんとなされた欅の高級な臼と杵は、邸内探索をしている時に偶然見つけたもの。
折角あるのに使わない手はない。
幸いなことに、男手はこんなにもいるわけだし。

「俺、テレビで見たことある」

流石はテレビっ子。意外にもご存知だったらしい。
類だけじゃない。西門さんも、伝統を重んじるお家柄のせいか知っているようで、常識人の美作さんもまた然り。
でも全員経験はないはず。

「ってことで、餅つき大会をはじめまーす! 男性陣4人で、お餅をついてね!」

「はぁ?」
「嘘だろ」
「⋯⋯嫌」

声高に宣言すれば、三者三様の不満が返ってくる。
口を噤んでいるのは司だけで、珍しく文句も言わずにお利口さんだ。
お利口さんは置いとくとして、不満が来るのは想定内。
でもこちらには、奥の手がある。効果抜群のあの手が⋯⋯。

「えー、折角つきたてのお餅が食べれるって喜んでたのになぁ」

「知るかっ!」

西門さんが叫び、続けて抗議の声を上げようとしたのか、美作さんが口を開きかけたところで付け加えた。

「お義父さまが」

「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」

そよぐ風が途切れれば、支配したのは静寂。
お義父さまの存在をチラつかせただけで、三人は仲良く揃って沈黙した。

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  • Posted by 葉月
  •  2

Comment 2

Sat
2023.07.29

-  

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2023/07/29 (Sat) 06:53 | REPLY |   
Mon
2023.07.31

葉月  

き✤✤ 様

手作り野菜、美味しいですよね!
野菜本来の味が濃くて、売っているものとは一味違うような気がします。

今回の夏の思い出シーンは、私の子供の頃の記憶でもありまして、夏になると田舎に行き、祖母の畑の野菜を従兄弟たちと食べたなぁ、と懐かしみながら書いておりました。

私も大嫌いな黒光りG以外なら、虫は案外平気な方です。
寧ろ子供の頃は、虫大好きっ子で、ちょっと変な子だったかも(^_^;)
お嬢様育ちの桜子には、ダンゴ虫すら恐怖の対象だったでしょうね。

次はF4編!
引き続き、よろしくお願いいたします。

コメント、ありがとうございました!

2023/07/31 (Mon) 19:27 | EDIT | REPLY |   

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