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Lover vol.45


 Lover vol.45


「改めて先輩、ご結婚おめでとうございます!」

「つくし、おめでとう!」

「おめでとう、つくし」

私の部屋に集合した女四人。
それぞれがソファーに腰を落ち着かせるなり、桜子、滋さん、優紀、と輪唱のように祝いの言葉が続く。

――――全く以て、めでたいとは程遠い結婚なのに、何がぬけぬけとおめでとう、よ。

元はと言えば、美作さんを始めとする友人たちが余計なことをしたせいで、司と再会する羽目になったし、延いては結婚するまでに至ってしまったのに。

人の気も知らない友人たちを、恨めしげにジロリと睨む。
結婚は政略的なもので、妻の肩書も職業と一緒、役職名よ!と、今となっちゃ割り切ってはいるけれど、それでも、

「好きでした結婚じゃないし、誰かさんたちがお節介焼かなきゃ、再会もせずに結婚しないで済んだんだけどね!」

文句の一つは言っときたいところだ。
過ぎたこととはいえ、一連の流れを作り出したいつものメンバーに不満がないわけじゃない。どころか、腹の底に溜まっていると言ってもいい。
それを消化させようと、こうして休みの日に全員を邸に呼んでみた。余計なことをしてくれた仲間たちへ、きっちり『お仕置き』をするために。

そうとは知らずに、笑みを交わし合う三人の女友だち。
後回しの男性陣は一旦司に任せ、まずは女性陣からってことで自分の部屋に引っ張ってきたわけだけど、何事も知らぬが仏。リラックスしていられるのも今のうちだと、心の中で忍び笑う。

――――見てなさいよ。皆まとめてそれなりの仕返しはさせてもらいますからね!

思わず口元が緩みそうになるが、次の瞬間、それは見事に固まった。

「そうは言いますけど先輩、なんだか生き生きしてません? 悪妻なんか目指しちゃったりするぐらいですもの」

「なっ!⋯⋯なな、なんで、それを!」

最後の一言で『生き生き』への抗議は丸っと飛び、息が止まりそうになる。驚きすぎて目だって見開く。
そのキーワード『悪妻』

⋯⋯どうして!?

だって、悪妻を目指していることは、誰にも言っていない。
だいたいが、そんなもの声高に宣言するもんじゃない。

なのに、どうして桜子が知ってるのよ!

「やだ先輩、そんな驚かないでくださいよ。みーんな知ってますよ? 仲間や道明寺家の人は勿論、邸で働く方々まで。みんなが知っているのに気づかないなんて、流石は鈍感を地で行く先輩です」

桜子がクスッと笑う。小悪魔的な表情で。
その顔を見ながら血の気が引く。

――――みんなが知ってるって、そんな馬鹿な!

それって、凄く恥ずかしい話なんじゃないだろうか。
ひとり悪妻計画を立てながら、実は、周囲にダダ漏れだったなんて。
そんなのも気づかずに私は、一端に悪妻を気どったりなんかしちゃってたわけ!?

居た堪れなくてテーブルに突っ伏したくなるが、テーブルが低すぎるやら、ソファーから離れてるやらでそれもできず、身体を硬直させるしかない。

思い返してみれば、メイドさんやSPの人たちに、柔らかい眼差しで見守られていたり、遠回しに励まされたことがなくはなかった。
たとえば、ブランド買い漁り計画失敗のときとか⋯⋯。
あれは、ブランド品を買えなかったそのものよりも、もっと本質的な部分で慰められていたのではないか。悪妻を気取りながら空回りする、憐れな私を見て⋯⋯。

――――恥ずかしすぎる。

羞恥で火照った顔を両手で覆いたい。
だが、そんな仕草を見せるのも恥の上乗せになるような気がして⋯⋯。

「バ、バレたなら仕方ないわね。楽しむも何も実は私、正真正銘の悪妻だから」

引くに引けず悪妻街道を突っ走ってみるが、

「あー、はいはい。付き合うのも面倒なんで、そういうの要りませんから」

眉一つ動かさない桜子に、可哀想なほどぞんざいにあしらわれた。

「ちょっ、桜子! 少しは信じなさいよっ!」

「それより、やっぱり先輩には道明寺さんなんですね」

人の話は聞かずに好き勝手に言う桜子に噛み付く。

「なに訳のわかんないこと言ってんのよ! 不満タラタラだから、悪妻なんか目指す羽目になってんでしょうが!」

剥きになりすぎたせいで、悪妻を目指していると、うっかり自らバラしてしまうが、そこは桜子。宣言どおり本気で面倒くさいらしく、全くの素通りで指摘すらせず、別の方向から突いてくる。

「だって先輩、全然違うじゃないですか」
「⋯⋯何がよ」

何を言い出すのか、真っ直ぐに見つめてくる桜子に警戒心を強める。

「昔、付き合っていた男たちへの塩対応と、道明寺さんへの対応、全く違いますよ?」

「それは言えてるかも!」

ニコニコと滋さんまで合いの手を入れてくるもんだから、二人に向けて不満をたっぷり込めて言い切った。

「そんなことありませんから!」

「自分じゃわからないものなのかもしれませんね。じゃあ、思い出させてあげますね。たとえばですね――――」

「言わなくていい!」

確かに止めた。
碌なこと言わないと想像がつくから即座に止めたのに、桜子についている耳は飾りもんなのか、フル無視で良く回る口を止めようとしない。

「道明寺さんと別れたあとに初めて付き合った男性のときのことです。先輩と二人で街をブラブラしていた時、バッタリその彼と会いましたよね? 腕に女の子をぶら下げ、鼻の下を伸ばしていた彼に。
その時に先輩、なんて言ったか覚えてます?『あー、どうもー』ですよ? 感情を全く乱さないフラットな声で」

そこに居たから挨拶しただけ⋯⋯、なんですけども⋯⋯。

誰にも聞かせない心の内での弁明。なのに言葉尻が窄んでしまうのは、桜子がどこを責めてくるのか警戒が解けないからだ。

「すれ違ったあと、お気楽にこうも言っていましたよね。
『新しい彼女できたんだね。私と別れるって儀式を忘れてるみたいだけど、まいっか』って。
彼氏が女連れて歩いてるのに、どんだけ淡白な発言なんですか」

――――いや、私も忙しくて連絡怠ってたし、お互い様かなぁって。

「普通は、怒り狂うところでしょ? すれ違ったあと振り向いたら、その彼氏さん、あまりの先輩の素っ気なさに呆気に取られてましたよ?」

「そんなこと言われましても⋯⋯」

「また別の男には、『俺と仕事どっちが大事?』って訊かれて何て答えましたっけ?」

「それは――――」

「迷いもせずに、仕事って言い切ったんでしたよね」

人に訊ねておきながら桜子が答えるとは、どんな身勝手か。
当時から、根掘り葉掘り訊かれては答えてしまっていた私も悪いが、それにしても人の過去バナを良く覚えているものだ。
女の常套句のような科白を、まさか男性に言われようとは思わず、気持ちが思いっきり仰け反った、遠い昔話。
これは女性でも男性に言うべきものじゃないと学習しながらも、顔には出さずに答えた記憶がある。

「訊く方も訊く方でくだらない男ですけど、間髪入れずに『仕事』と即答する女にも問題有りだと思いません?」

「いやいや、嘘偽りなく答えたんだから、そこは誠実って言って」

「誠実対応してフラレてちゃ世話ないですよね」

確かに、答えた途端に別れ話を切り出された。
でも寧ろ、こっちから言う手間が省けてホッとしたんですが、何か。

「一日で別れた男性には、『もっと女性らしいかと思ったけど、想像と違ったよ』って言われましたよね?」

「うん、まぁ」

付き合うことになって、その流れでデートとなり映画を観ることになった。
けれど、観終わって外に出ても、特段弾むでもない会話。それを補うように意味なく街をフラフラと歩き、やがて適当に見つけたカフェに入るや否や言われた科白だ。
恐らく、向こうが勧めてきた恋愛映画を蹴って、私がヤクザ映画を選んだのが面白くなかったんだと思う。
だって、作られた恋愛映画よりよっぽど面白いし。サイコーだし、任侠映画。

「まぁ、じゃありませんよ。『早めに気付いて良かったですねー』って、まるで他人事のような冷めた返しをしたのは誰でしたっけ?」

⋯⋯私です。
ついでに言えば、そのあと直ぐに運ばれてきたケーキにルンルンでパクついたら『そういうとこだよ!』と何故だが相手は憤慨し、千円札をテーブルに叩きつけて帰っていったっけ。

「どの男もろくでもないですし、色んな男と付き合ってみろって煽った私たちも悪いですけどね。にしたって、何を言われても感情を乱さず、初めから男に期待なんかしていません、って態度で興味なさげな対応を貫いていたのが、先輩という人なんです!」

ビシッと人差し指を突きつけられ下された己の人物評。

「それがですよ? 今までの男には塩対応なのに、道明寺さんとなると、悪妻目指すくらい熱くなるんですから」

「だって、嫁失格の烙印を押されたら離婚できるかもしれないじゃない!」

「無人島からの帰りの船でだって、道明寺さんに派手に噛み付いてましたしね」

「そりゃ、あっちが好き勝手に言ってくるから――」

「つまり」

人の抗議を聞き流した桜子は、ズバリと言い切った。

「道明寺さん相手だと、いつだって先輩は引きずられてしまうんです。先輩の感情がね」

「それは相手が――」

非常識人だからよ!と続けようとした言葉も飲み込まれる。

「昔だってそうです。ひっそりと学園生活を送ろうとしていたはずが赤札まで貼られ、結局は戦っちゃってますしね。
そういうわけですから、道明寺さんとの相性は悪くないと思いますよ? 
瀧本さんとの結婚だったら、きっとこうはなってなかったでしょうし、諦めて淡々としたつまらない生活を送っていたはずです。でも道明寺さんとなら、何だかんだで賑やかに毎日を過ごせているんですから、これで良かったんですよ」

滔々と持論を語った桜子は、けれど、急に真面くさった顔を作った。

「でももし、どうしても道明寺さんとやっていけないと限界が来て別れたくなったら、私が手を貸します。その選択が先輩の幸せに繋がるのなら、誰を敵に回したって、そのときは私が絶対に助けますから」

その顔は、リズム良く私を追い詰めていた、さっきまでの顔とは全く異なっていて。
嘘も偽りもなく、本気で心配してくれているのが伝わってきたから⋯⋯。
私は、後輩からの深い想いに、大人しくコクンと頷いた。

「だから、あまり美作さんを虐めないやってくださいね? あんなメール送って、本当に禿げちゃいますよ」
「⋯⋯え?」

突然に転じた話題。
真面目ぶった表情だって、もう消えている。
それどころか、桜子が怖い。
笑っているのに、何だか怖い。

「美作さんは、私が長期戦で狙っている攻略対象なんです」

「⋯⋯もしかして、桜子。あんた、美作さんのこと⋯⋯」

「ええ、好きですよ。だから私がイジメたいんです。私だけが、ね」

イジメたいって、あんた⋯⋯。

口元に弧を描き、狙いを定めたように目を細める、ハンター桜子。

知らなかった。桜子が美作さんを想っていたなんて。
知らなかった。好きだという想いと、イジメたいという屈折した感情が共存するだなんて。

「それにしても素敵な部屋ですよね。テラスもあるし」

立ち上がった桜子が窓際に行く。

「先輩、あっち、なんか増築でもしてるんですか?」

テラスに身を乗り出し東の方向を見ながら訊いてくる桜子に、早口で適当に答えた。

「何か造ってるみたいだけど、よく知らなくて」

東の角部屋の側の敷地で、数日前から突然工事が始まったが、答えたとおり何の工事だかは知らない。
そんなものよりも興味があるのは、今しがたの桜子の発言だ。
桜子が外に興味を示しているのを良いことに、他の友人たちにコソコソと訊ねる。

「ねぇ、知ってた? 桜子が美作さんをって話」

「いや全く」

滋さんが答え、優紀も首を振っている。

「だよねぇ」

どうやら自分だけが気づかなかった、というわけではないらしい。

「ところで、つくし。あきらくんのことイジメてたの?」

可笑しそうに滋さんが訊いてくる。

「うん。ちょっとだけ八つ当たり的なメールを連続的に⋯⋯。いやー、桜子の気持ちも知らずに、桜子には申し訳ないことしちゃったなぁ」

「申し訳なく思う相手が違うような⋯⋯」

優紀から遠慮がちな指摘が入るが、滋さんの声がそれを打ち消した。

「だったら、謝罪兼ねて桜子にプレゼントでも送ってあげたら?」

「プレゼント? でも何を?」

「そりゃ決まってんじゃん! イジメたいって言うんだから、鞭と縄と蝋燭で決まりでしょ」

「なるほど!」

納得した私に、

「絶対に違うと思う!」

またしても優紀から今度は強めの突っ込みが入るが、後輩が想いを寄せる相手に嫌がらせをした手前、詫びのプレゼント案を選択。
『鞭に縄に蝋燭』と、脳内メモにしっかり書き込んでおく。

どこで買えば良いかを相談したかったけど、外から室内に興味を移した桜子がウロウロと部屋を歩き回りはじめたために、この話題は一旦お預け。

「このアルコーブベッドも素敵ですね」

次に桜子が興味を持ったのは、ベッドだ。私のお気に入り空間でもある。

「うん。お籠りしてるみたいで、気に入ってるんだよね」

壁を窪ませて作りあげた空間のアルコーブベッドは、広いこの部屋において、ちょっとした隠れ家的な感じの狭さで、とても気持ちが落ち着く。

「ところで先輩?」

桜子が振り返り私を見る。

「なに?」

「この部屋の一体どこに離婚届を隠してるんです?」

「なっ、なんでそれを! どうして何でもかんでも筒抜けなのよっ!」

離婚届の存在までも把握済みだなんて、なんだってそんなことまで知っているのか。
私のプライバシーはどこ行った!

桜子に涼し気に言われ愕然とする。が、それも一時。
振り返ってみれば、揃いも揃って情報収集に長け、人のプライバシーにズカズカと土足で踏み込むのは昔から。
司との再会こそが、その最もたるものだとも言える。

そうだった。
桜子の告白で一瞬目的を忘れていたが、そんな仲間たちだから、今日は来てもらったんだった。

――――お仕置きをするために。

「どこに隠してあるかは秘密よ! そんなことより、今日はみんなに付き合ってもらいたくて来てもらったの」

瞬時に自分を立て直し、本来の目的を遂行するため立ち上がると、ウォークインクローゼットにみんなを誘う。

「みんな、こっちに来てこれに着替えて」

「どうしてです?」

「いいからいいから!」

訝しむ桜子を急き立てクローゼットに押し込み、着替えのジャージーを渡す。

「服が汚れちゃうかもしれないから、念のためにね。ほらほら、結婚祝いだと思って私の楽しみに付き合ってよ。お義母さまにも報告したら喜んでくださってたし」

不審がる桜子の眉間の皺は増々深まるばかりだ。だが、『お義母さま』の名の威力は絶大である。
その名が出た以上、迂闊なことは言えないと思ったのか、桜子から拒否の言葉は出てこない。
流石はお義母さま。名だけで相手を黙らせる圧があるようだ。

実際には⋯⋯、

『今日は、友達に畑仕事を手伝ってもらおうと思ってるんです』
『それは良かったわね。友達と会うのも久しぶりでしょうから、楽しんで』
『はい、ありがとうございます!』

お義母さまとは今日の予定を話したに過ぎず、深い意味などない。
だけど、そんなことを知らない桜子は、勝手にお義母さまが関係していると解釈したらしく、渋々ながらもジャージーに袖を通した。
一番面倒な桜子さえクリアしてしまえばあとはスムーズで、滋さんも優紀も素直に従ってくれる。

着替え終わるなり意気揚々とみんなを引き連れ裏庭を目指せば⋯⋯。





「きゃー! ミ、ミミズが! 助けてー、先輩! きゃーーっ! なんでこんなにいるのーっ! いやーーっ!」

「ふふふふふ」


ひっそり笑う私の読みどおり、10分もしない内に桜子の悲鳴が響き渡った。

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  • Posted by 葉月
  •  4

Comment 4

Fri
2023.07.21

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2023/07/21 (Fri) 14:38 | REPLY |   
Fri
2023.07.21

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2023/07/21 (Fri) 17:54 | REPLY |   
Fri
2023.07.28

葉月  

き✤✤ 様

つくしちゃんの元カレたちは、揃いも揃って碌でなし。
塩対応されても仕方ないですよね。
なんでこんな男性たちと付き合ったのかと首を傾げたくなるところですが、きっと誰でも良かったのかもしれませんね。

と、つくしはさておき⋯⋯。

塩対応、機会は未来で、待ち受ける。←何故か五七五調(;・∀・)
ってことも無きにしも非ずですし、人生何があるかわからないので、「旧」ではなく、気持ちは「現」で参りましょう!!

コメント、ありがとうございました!

2023/07/28 (Fri) 22:31 | EDIT | REPLY |   
Fri
2023.07.28

葉月  

ク✤✤ 様

桜子、私も大好きです。
芯があって情に厚くて、頭の回転だって早くて。でも、ちょっとだけ捻くれていて。
大切な人のためならばヒール役をも厭わない桜子は、本当にカッコいい女性だと思います( ´∀`)

そんな桜子に生き生きしていると指摘されても、気づかない鈍感つくし。
無理やり婚なのに全く悲壮感がなく、ウキウキとお仕置きまで企てちゃっております。
どんなお仕置きが待ち受けているのか、次回もどうぞお付き合いくださいませ。

コメント、ありがとうございました!

2023/07/28 (Fri) 22:32 | EDIT | REPLY |   

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