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Lover vol.41



 Lover vol.41



「つ、つ、つか、つか、つか――――つかっち!」



叫びのあとに広がるのは、時が止まったような静寂。
色を失くした道明寺の顔からは、表情というものがゴッソリと抜け落ちている。

しかし⋯⋯。

幾許かの沈黙のあと、それは一気に爆ぜた。

「ふ、ふ、ふざけんなーーっ! 仮にも夫に変なあだ名付けんじゃねぇっ!」

「煩いわね! 良いから司は黙って食べなさいよね!」

「てめっ⋯⋯ぉ?⋯⋯お、おぅ!」

怒鳴り声に混ぜ込み名前を呼べば、途端に満面笑顔になる単純男。

「つくしも沢山喰え」

すっかりご満悦になった道明寺は、シェフたちに他にも何か持って来るよう命じ、私がせせりを頬張るのを見届けてから、漸く焼き鳥を口にした。

「お、イケるな、これ」

勝ち誇ったように顎をツンと上げて言う。

「どうよ。バカにしたもんじゃないでしょ?」

「おぅ。ワサビも合う」

素直に焼き鳥の旨さを受け入れた道明寺は、殊の外気に入ったようだ。

お義父さまも、お義母さまも、みんな嬉しそうに表情を綻ばせて食べている。
老いも若きも貧乏も大金持ちも、美味しいものの前ではみんな平等、人に笑顔を齎してくれる。
プロが揚げた本格的天ぷらまで運ばれてきて、勿論、私もくしゃりと破顔しっぱなしだ。

海老に、穴子に、桜えびのかき揚げ。
それに春の山菜といえば、これぞキングオブキングのタラの芽と、女王であるコシアブラまで。
程なくして焼き鳥も、ハツにレバーにちょうちんと、次々と運ばれてきた。

豪勢な食事を前に一瞬だけ浮かぶのは「ブタ化」の文字。
でも、昼食は抜いた。3時のオヤツだって食べていない。
宴に向けて帳尻は合わせたのだから大丈夫⋯⋯なはず。
そう、自分に都合のよい言い訳を与え、胃袋にどんどん収めていく。

食べながら、適度な会話を挟んだり、『司』呼びを何度となく強要されたり。
お陰でこの短時間で、名前で呼ぶのにもすっかり慣れてしまった。

途中、実は司がセロリ嫌いだったのも発覚し、無理して食べていたのかと知った私が、有名な中国料理店にある『セロリー麺』を食べたら好きになるかもよ? と提案したのがまずかった。

セロリはセロリだろ、と信じない司に「絶対に気にいるわよ!」とムキになったのも更にまずい。

「だったら、その店連れてけよ」

「良いわよ、絶対に美味しいって言わせてみせるから!」

「決まりだな。落ち着いたら、その店でデートな」

「⋯⋯⋯⋯へ?」

⋯⋯デート、ですと?

早まった、と思ったときにはもう遅い。

「まさか今更、なかった話にはしねぇよな。こっちには証人もいるしよ」

司が両親を見る。
釣られて見れば、

「ああ、証人になろう」
「大丈夫よ。女に二言はないはずだわ」

「うっ⋯⋯ぐぅっ」

またもや息子を援護する強力な証人二人。⋯⋯声を詰まらせるしかない。

「ほら、むくれてんなよ。デザート来たから食べろ」

目の前には、アイスの天ぷら。
抹茶パウダーがかかった天ぷらは、中身も抹茶味らしい。

⋯⋯食べ物に罪はない。

むくれながらも口に運べば、仄かな温かさと冷たさのコントラストが美味しすぎる。

結局、アイスが溶けるよりも早く、不貞た気分の方こそが溶かされた。






「つくしさん、どれも美味しかった。今夜は楽しかったよ。ありがとう」

「こんな食事も良いものね。また是非お願いしたいわ」

心ゆくまで食事を堪能し、お腹の張り具合もそろそろ限界を迎えた頃、宴は幕を閉じた。

満足気に部屋に帰っていくご両親と、「あとでお茶でも飲もうぜ」そう言って、シャワーを浴びに行った司を見送り、私だけがテラスに残る。
焼き鳥機くらいは自分で片付けたくて、メイドさんたちが恐縮する中、無理して残ったのだ。

それも片付くと、

「あんなに穏やかな食事は初めてだよ。つくし、あんたのお陰だ。感謝してるよ」

テラスのテーブルを拭きながら、先輩がしみじみと言う。

「皆さん楽しそうで良かったです。家族団欒って感じ⋯⋯で⋯⋯⋯⋯うん!?」

言いかけて止まり、眉根を寄せる。
今しがたの自分の発言にどこか違和感を覚え、そして――――愕然とした。

家族団欒って⋯⋯、な、な、なによそれは!

悪妻計画のはずが、何を一緒になってほのぼのしてんのよ、あたし!
感謝されてる場合じゃないじゃない!

美味しいものに胃袋をつかまれ、すっかり本来の計画が頭から抜け落ちてたなんて⋯⋯。

失敗に項垂れ、テーブルに両手を付く。

「悪妻なのに、何でこうなるのよ⋯⋯」

「悪妻にも素質ってのが必要なのに、わかっちゃいないねぇ」

「⋯⋯先輩、何か言いました?」

顔を上げて先輩へと視線を向ける。
先輩の声が小さすぎて、全く聞き取れなかった。

「いいや、何も言っちゃいないよ。ほらほら、後の片付けはあたしらに任せて、あんたはもう部屋に戻りな」

追い出されるようにして部屋に向かう道すがら、募るのは、計画を台無しにした不甲斐ない自分への苛立ち。
その吐きどころと言えば、ただ一つ。アレしかない。

はち切れんばかりのお腹を抱えて部屋に飛び込んだ私は、いつもの日課である、期待1、八つ当たり9の割合である『小さな作戦アレ』を実行するべく、一心不乱にスマホを打ち込んでいった。



✦❃✦




タマから連絡があったのは、昨日の夕方。
聞けば、つくしが早い時間からひとり酒盛りをするっていう話で。
大方、悪妻をアピールするパフォーマンスだろうと直ぐにわかった俺は、堪りかねて電話口で吹き出した。

あいつが必死になって悪妻になる方法を捻り出したかと思うと、可笑しくて仕方ねぇ。可愛いすぎんだろ。
こんな楽しそうな機会、逃して堪るかよ。

けど、そう思ったのは、何も俺だけじゃなかった。
早く帰るから材料を多めに用意しとけと伝えれば、別ルートから報告を受けたらしい親父たちからも、同じ指示があったという。

――――あいつら、邪魔しやがって。

そうは思うも、つくしとの結婚では手を貸してくれた二人だ。今回は見逃してやるしかねぇ。
俺と同じで、到底なれるはずもねぇ悪妻とやらを間近で見てぇとでも思ったんだろう。
クソ忙しい仕事を放ってまで。

つくしが悪妻を目指してるのは、タマから早々に聞いちゃいたが、はっきり言って、あいつにそんな才能はない。
本物の悪妻なら、邸にあるあらゆるもんを好き勝手にするはずだ。
だが、つくしには、その発想すらねぇ。
実際、『サロン』を出しただけで目を丸くし、震えていたくらいだ。
その様子に俺も親父もお袋も、笑いを堪えんのにどんだけ苦労したか。

悪妻のくせに用意したものといえば、焼き鳥の肉だけ邸のものを使い、後は自分で漬けた漬けもんと、天ぷらに至っては、裏庭に生えていた草だ、草。

挙げ句、俺等が乱入すれば甲斐甲斐しく世話すんだから、お人好しにも程がある。
きっとあの後、我に返って歯軋りでもしたんだろう思うと、また笑えてくる。

そんな悪妻になれない可愛い妻のお陰で久々に楽しかった晩飯は、最近、殊更に忙しい俺にとっての褒美となった。
翌日の今日も、いつになく力が漲り、精力的働いている。

そんな最中だった。
アポなしで切羽詰まった様子のあきらが、俺の執務室に飛び込んできたのは。
 
つくしとの結婚は報告済みなのに、常識人を自負するあきらにしては珍しく、祝いの言葉すらすっ飛ばし声を張り上げた。

「司! そろそろ牧野を外に出させてやってくれ! 相当ストレスが溜まってるはずだっ!」

人の顔を見るなり言ってきたあきらは、前に会ったときよりも窶れている。

「言われなくても、もう暫くしたら出してやるつもりだ」

「頼むっ! 一日でも早く自由にさせてやってくれよ!」

「なんで、あきらがそんな必死なんだよ」

「訊きたいか? あぁ、教えてやるともさ! 急な結婚で自由のないストレスMAXの牧野からな、俺の元には夜な夜な呪いのメールが送られてくるんだよっ!」

「⋯⋯呪いのメール?」

あきらはスマホを俺に差し出した。
画面に映し出されているのは、つくしからのメールの文面。

タイトルは長く、『こんな生活になったのも美作さんのせいだから!』とある。

本文には、


【禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ――――⋯⋯】


「ぶはっ、くくく」
「笑い事じゃねぇーっ!」

俺を爆笑の渦に突き落としたそれは、悪妻を騙る愛妻からの、紛れもない呪いのメールだった。

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※あきら並びにあきらファンの読者様、失礼な呪いをかけてごめんなさい。
どうかお許しくださいませ(_ _;)
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  • Posted by 葉月
  •  4

Comment 4

Sat
2023.06.17

-  

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2023/06/17 (Sat) 09:26 | REPLY |   
Sun
2023.06.18

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2023/06/18 (Sun) 10:31 | REPLY |   
Fri
2023.06.23

葉月  

き✤✤ 様

このお話でも結局イジられてしまう、可哀想なあきらくん(_ _;)
当たりやすいと言いますか、甘えやすいと言いますか⋯⋯。
彼は優しく良い人なので、ついつい愛情の裏返しで絡みたくなってしまうんですよね。
油断すると、直ぐにあきらに構いたくなってしまう私ですが、それを何とか抑えつつ、続きを書いていきたいと思います٩( ᐛ )و

コメント、ありがとうございました!

2023/06/23 (Fri) 17:38 | EDIT | REPLY |   
Fri
2023.06.23

葉月  

ク✤✤ 様

またもや、このお話でもイジられてしまうあきらくんでした。
また、つくしを可愛いと仰ってもらえて、喜んでおります。
自称悪妻で何を仕出かすかわかりませんが、引き続き司と共に温かい目で見守ってやってくださいませ。

そしてそして、質問の件ですが⋯⋯。
バレちゃいましたか(^_^;)
そうです、ワタクシです。
昔の作品も、移せるものはこちらに移そうかとも考えているのですが、何せ下手くそすぎて、全部修正しなくてはアップできない代物でして(号泣)。
いずれ、こちらで公開できる機会があれば、その時はまたよろしくお願いいたします。

それと、名前の上がったマスター様のお話、どれも素敵ですよね!
今いる現役のマスター様は勿論ですが、当時も素敵なお話を書く方が多くて。
なので少し前に、以前サイトを運営していたとある方に「戻ってきて〜!」とお願いしたところです(笑)。
1ファンとして、素敵なつかつくが増えますように!!

コメント、ありがとうございました!

2023/06/23 (Fri) 17:40 | EDIT | REPLY |   

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