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Lover vol.36



「はぁぁ」

隠す気など毛頭ない不機嫌な息を吐き出す。

前の人はおずおずと窺うように振り返り、右隣の人は、申し訳なさそうに首を竦める。

なんら悪いことをしたわけでもないのに、犯罪者の如し連行される気分である私は――――そう。日曜日の午前中から、道明寺家のSPたちに押しかけられ連れ出され、最後の戦いと言うべきラスボスと対峙するために、道明寺邸へと向かう黒塗りの車の中にいる。

運転手も助手席の人も右隣の人も、道明寺家の黒集団S Pの一味である彼らに、遠慮会釈なく不満な態度を撒き散らしながら。



 Lover vol.36



20分ほどで目的地に着き停まった車。
車内から降り立ったSPは、何よりも先に安堵めいた息を吐き出した。
私の右隣に座っていた、私と同年代と思われるSPだ。

私がこれ見よがしに幾度となく溜め息を吐いていたせいで、空気が薄くなり息苦しくなったのかもしれない。或いは気詰まりだったか。
少しだけ申し訳なく思うが、溜まりに溜まった不満は、身体の容れ物だけでは格納しきれず、外に垂れ流しにでもしなきゃ発狂しそうだ。

――――こんな、とんでも結婚話のせいで。

お陰でこうして貴重な休日は潰され、恐ろしきラオウと交渉せねばならない事態となった。

それもこれも全部、バカ男が暴走したせいだ。
恨み辛みを幾ら並び立てても足りないくらいだが、こうなってしまったものは仕方がない。
ここで黙って逃げてはバカ男の思う壺。
良いようにされ、私の人生が終わってしまう。
その前に、何が何でもこの話を握りつぶさなくては。
ラオウには、何としてでも嫁には相応しくないと認識してもらうしかない。

そのためならば、ラオウの前であらん限りの自己申告で以て、自分を貶めてみせるわよ!

決意を抱いて、いつ見ても圧倒的な存在感を放つ道明寺邸へと足を踏み入れれば、

「つくし、よく来たねぇ」

エントランスの大きなドアが開いたそこには、タマ先輩がいた。

「先輩! お久しぶりです、お元気にしてましたか?」

「心配するくらいなら、ちょくちょく顔をお出しよ。薄情な子だねぇ」

そう言われても、気軽に足を運ぶには敷居が高い家である。
幾ら楓社長と親しくさせてもらっているとはいえ、楓社長が留守にすることも多い道明寺家に、おいそれとお邪魔するわけにはいかない。

と言っても、先輩と全く会っていなかったわけじゃない。
楓社長と共に食事に行ったこともあれば、楓社長に邸に呼ばれて、お茶を一緒に飲んだこともある。
ただ、こうして会うのは半年ぶりになるだろうか。

「遂につくしが嫁に来てくれるとは、長生きはするもんだねぇ」

「いいえ、嫁には来ませんから」

部屋へと案内される長い廊下を歩きながら、しみじみと言う先輩にすかさず訂正を入れる。
けれど⋯⋯、

「はぁ? 何か言ったかい?」

並んで歩く距離にいながら、どうやら聞こえなかったらしい。

「ですから、私は道明寺と結婚するつもりはありません!」

「あん? なんだって?」

声のボリュームを上げたのに、耳に手を当てて聞き返してくる先輩は、とあるコメディアン扮する『ひとみおばあちゃん』のようだ。

耳が遠くなるのも仕方ないのかもしれない。
幾ら元気そうに見えても⋯⋯、

「先輩もいいお歳ですものね」

悲しげにひっそり呟くや否や、

「なに人を年寄り扱いしてるんだい!」

杖でお尻を叩かれた。

「痛ったぁっ! 先輩、聞こえてるじゃないですか! 聞こえないふりしないで、ちゃんと聞いてくださいよ! 私は道明寺と結婚する気は1ミクロンもありませんからね! その意思表明をするために、今日はここに来たんです!」

「全くあんたって子は、道明寺家ってのをわかってないねぇ。狙った獲物は逃さない、それが道明寺家さ」

不吉な明言をされ、ブワッと全身が粟立つ。と同時、目的の部屋に着いた。

「つくしを連れて参りました」

ドアを叩いた先輩が開けたドアの先、闘うべき相手がいた。

一人じゃない。
初めて入った応接室のようなだだっ広い部屋には、バカ男に楓社長もいる。
そして、道明寺が歳を重ねたらこんな風になるのかも、と思わせるダンディな男性が目に入る。
きっとこの人がラオウであり、道明寺家揃い踏みで私を待ち受けていた。

「まぁ、せいぜい頑張んな」

先輩が言う言葉の裏側には『無駄な抵抗だけどね』という、わかりやすいメッセージが籠められている気がする。恨めしげに先輩を見るけれど、どこ吹く風。
そんな応援とも呼べぬ応援を寄越した先輩が踵を返すなり、バカ男が駆け寄ってきた。

「牧野、迎えに行けなくて悪かったな」

「目立つ方に来てもらっても近所迷惑なだけですから」

「おぅ。俺もそう思ったから遠慮した。まだマスコミに追われてるからよ」

そういう配慮ができるなら、別のところに気を遣え!

喉元から飛び出そうになる文句をひとまず呑み下し、ラオウに向かって頭を下げる。

「はじめまして。牧野つくしと申します」

「はじめまして、道明寺りょうです。漸く君と会えることができたね。昔から君のことは、楓や椿から聞いていてね、ずっと会いたいと思っていたんだ。つくしさん、と呼ばせてもらっても良いかな?」

「はい」

口元に笑みを作るラオウは、道明寺と似てはいるけど、道明寺よりも取っつきにくさがない。

⋯⋯おかしい。ラオウのはずなのに、感じが良すぎるのは気のせい?

とりあえず座るよう楓社長に促される。

楓社長とラオウが同じソファーに座っているために、必然的に向かい合わせのソファーに道明寺と並んで座ることになった。
足を組んで嬉しそうに笑み崩れる道明寺の顔が、本気で忌々しい。

再び先輩が現れてコーヒーの用意をし、また退室したところでラオウが切り出した。

「つくしさん、道明寺家はあなたを歓迎するよ。大変な家だとは思うが、司と二人で幸せな家庭を築いていってほしい」

早速、来たーっ!

いきなり直球が投げ込まれ内心で絶叫するが、勿論、慌てた様子などおくびにも出さない。
軽い咳払いをしてから、落ち着いた口調を心掛けて、こちらも反論に転じる。

「その件につきまして誤解があるようですが、私がこちらにお伺いさせていただいたのは、この結婚の話をお断りさせてもらうためです」

ラオウの眉がピクリと動く。それに構わず主張を続ける。

「そもそも私は、こちらに嫁げるような育ちはしておりません。道明寺家には、良家のお嬢様こそが相応しいかと」

堂々と訴えたけれど、すかさず打ち返された。

「司の結婚は、それで一度失敗してるのだけどね」

⋯⋯うっ、確かに。

うっかり忘れてた私は、攻め方を間違えたかもしれない。
そんな自分の戦略ミスを棚上げし、

『良いとこのお嬢様をもらいながら、どうしてもう少し上手くやらやなかったのよ!』

心で八つ当たりを盛大に叫びながら、隣の男を睨む。

「まぁな。最初から失敗だった結婚だ。もう相手の顔も覚えてねぇし」

一時は奥さんだった人の顔を覚えてないとか、一体どんな結婚なのよ、それは!

まるで自慢するように言う道明寺にムカムカして、足をヒールでグリグリと踏みつけやった。

「痛ぇっ!」

考えるより先に反射で犯してしまった行為。
驚いたのか、ラオウの目が僅かに見開く。

そうだった。
思わず腹立ち紛れに足を踏みつけてしまったが、目の前にはバカ男の両親がいるんだった。
浅はかな行為をしてしまい、背筋がヒヤリとする。


⋯⋯あ、でも。
これってチャンスなんじゃないの?

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最近、コンスタントに更新できず申し訳ありません(>人<;)

【Attention!】昔から知っている方は、もしかしたら気付いたかもしれませんが、司パパの名は、前サイトのあるお話の中で使用していたものを再採用しています。
但し、中身はあのパパとは違いますので、一応ご注意を!!
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  • Posted by 葉月
  •  6

Comment 6

Fri
2023.05.05

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2023/05/05 (Fri) 03:54 | REPLY |   
Fri
2023.05.05

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2023/05/05 (Fri) 06:28 | REPLY |   
Sun
2023.05.07

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2023/05/07 (Sun) 21:04 | REPLY |   
Fri
2023.05.12

葉月  

t✤✤✤ 様

こんにちは!
遅くなりまして、どうもすみませんでした(>人<;)

ひとりドリフ状態のタマ先輩に惚けられたりとか、つくしちゃん道明寺邸に足を踏み入れるなり初っ端から振り回されておりますが、いよいよラオウとの対面となりました。
その名も嶺さん。あのパパさんと同じ名前ですが、仰るとおり、今回のパパの方がダンディな感じです。
そんなパパとの会話は、一体どうんな道筋を辿るのか。引き続き見届けていただければ嬉しく思います。

体調の方もなんだかスッキリしない日が続いておりまして。
気圧だったり諸々のせいで、どうやら自律神経が乱れているようです。
ですので、無理せずに行こうかと思います。
お気遣いに感謝です!

コメント、ありがとうございました!

2023/05/12 (Fri) 16:14 | EDIT | REPLY |   
Fri
2023.05.12

葉月  

き✤✤ 様

返事が遅くなりまして、申し訳ありません(_ _;)

お話の方は⋯⋯、はい、家族総出で捕獲に動き出したようです(;・∀・)
もう蜘蛛の糸に絡め取られた感はありますが、どこまでつくしちゃんが抵抗するのか。つくしちゃんの応援がてら、見届けてやっていただければと思います。

いやー、本当に体調がすっきりしませんで(T_T)
良いときは良いのですが、持続しないというか、とにかく困ったものです。
暫く、のんびり更新になるかと思いますが、ゆっくりながらも書き続けますので、引き続き、よろしくお願いいたします。

コメント、ありがとうございました!

2023/05/12 (Fri) 16:15 | EDIT | REPLY |   
Fri
2023.05.12

葉月  

M✤✤✤✤ 様

お久しぶりです!!
お元気でしたか?(・∀・)

今回の司パパの名前ですが、そうです。M✤✤✤✤さんイチオシの、あの綿菓子くるくるパパと同じ名前なんです(*´艸`*)
中身はちょっと違いますけどね。
あのパパほど振り切ってはいないかと(笑)。

あのお話も、いずれ書ければ、とは思っているのですが、ままならずで申し訳ありません。
機会があれば見直して検討したいと思います。

コメント、ありがとうございました!

2023/05/12 (Fri) 16:16 | EDIT | REPLY |   

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