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Lover vol.34



「し、仕方なかったんです! だって、私の人生がかかった非常事態なんですよ?」

対面は呼吸が整わないうちに、いきなり言い訳から始まった。

入室するや待ち受けていたのは眉を顰めた顔で。
それは社会人としてあるまじき行為に対し、苦言を呈したい表情だと直ぐに悟る。

確かに文句を言われても仕方がないところはある。
人様の会社を、礼儀も何もあったもんじゃないダッシュという行為で駆け抜け、飛び込むように執務室へと押しかけたわけだから。

でも一応アポは入れたし――――と、心で付け足した自己弁護は、あっさり見破られ撥ね付けられた。

「うちのエレベーターに乗りながらのアポイントなどアポイントのうちに入りません。しかも、今から直ぐに行きますなどと、相手の都合を鑑みない断言のもとに突撃してくるなんて以ての外です」

「ごめんなさいすみません返す言葉もございません批判も甘んじて受け入れます、でもっ! 大変なんです、私の人生最大のピンチなんです! 
何故なら! あなたの息子さんに脅されてるせいでっ!
だからお願いします、助けてぇ〜、楓社長ぉ〜」

息継ぎもなしに謝罪の弁を並べ立て、最後は前のめりになって泣きつけば、会って僅か数分、楓社長は早くも疲れを覚えてしまったらしい。
頭痛がするのか、こめかみを指先で揉み込む楓社長は、重たそうな深い溜息を吐き出した。



 Lover vol.34



「話は司から聞いています」

椅子に座っている楓社長は、早々と気持ちを切り替え、そう切り出した。
デスクを挟んで立つ私は、うんうんと頷きながら、「当然、反対してくれたんですよね?」と食いつく。

「反対していたのなら、この状況にはなっていないのではなくて?」

「なっ!」

会話らしい会話が始まったところで、いきなり絶句する。

その言い方じゃ、反対していないように聞こえるんですけど!

「いやいやいや、待ってください。楓社長⋯⋯、結婚に反対じゃないんですか?」

「ええ」

「っ! な、何でですかっ! 道明寺と結婚するってことは、このあたしが、楓社長の娘になっちゃうってことですよ?」

とんでもない返答に噛みつくように声を張り上げれば、

「そうなるわねぇ」

何とも他人事のような軽い声が返ってきた。

違う! 
想像してたのは、こんな展開じゃない!

だって、結婚とは本人同士だけの問題じゃない。もれなく家同士の問題だって絡んでくるものだ。
ましてや、道明寺家ともなれば、日本に留まらず世界に名の知れたお家柄。
結婚は世間一般のものより意味を持ち、互いの利益や繁栄のために結びつきを重視する。
よって釣り合いが取れていることが大前提で、少なくとも私は、名家とはそういうものであると、過去において嫌ってほど思い知らされてきた。

――――目の前のこの人によって。

そんな風に私の頭に刷り込んでおきながら、「そうなるわねぇ」なんて無責任なことこの上ない。

今こそ思い出してほしい。
なまじりを釣り上げ、とてつもない威圧を撒き散らし、手段選ばず私たちの交際を潰そうとした、あの周囲が凍てつくほどの冷酷さを。

丸くなる歳にはまだ早すぎる!

絶対に反対に回ると信じていた唯一の頼みの綱。ここで諦めるわけにはいかないと、熱弁を振るう。

「良いですか、楓社長。中身はどうであれ、大事な跡取りである息子さんですよ? 私では到底相応しくありません。こんな跳ねっ返りで常識もない失礼女を、道明寺家に迎え入れては駄目です。ここは怒り狂って断固反対すべきです!」

ムカつくことではあるが、バカ男も認めるほどの跳ねっ返りだ。
そんな女が道明寺家の嫁なんてとんでもないと、断じてほしい。
 
「つくしさんとは長い付き合いです。お陰で、跳ねっ返りで常識もなく失礼三昧のあなたにも、いい加減慣れてしまいました。今更、怒る気力もありません」

バタン、と両手を机について、引き続き熱弁を振るう。

「楓社長っ、お気を確かにっ! そんな弱気でどうするんですか! こんな貧乏上がりの溝鼠を認めちゃ絶対に駄目ですっ!」

「⋯⋯全てを水に流せとは言いませんけど、あなた、昔のことを根に持ってらっしゃるのね」

「いいえ! 楓社長の言う通りだと同意してるだけです! そこら辺に転がる小石以下の溝鼠を大事な息子さんに近づけるなんて無謀も無謀! 道明寺家の将来を考えるならば、息子さんの我が儘なんて楓社長の力技で木っ端微塵にして、今こそ虫けらを見るような目つきで、あたしを完膚なきまでに罵ってーーっ!」

もはや、私の訴えは悲鳴に近かった。

「罵れだなんて⋯⋯。あなた、変な趣味にでも目覚めたのではなくて? 私をそこへ巻き込まないでいただきたいのだけれど」

珍しく私の勢いに気圧されたのか、若干、引き気味になった楓社長は「第一」と続ける。

「高校生のときならいざ知らず、力を付けた今のあの子と本気で遣り合ったら、どれだけの犠牲を払い、どれだけの血が流れることか。その覚悟があっての発言かしら?」

何それ。デンジャラスすぎでしょ!
そんな傍迷惑で危険な息子を野に放たないでほしい。

「だったら尚のこと、彼の好き勝手させてたら益々大変なことになっちゃいますよ! ちゃんと厳しく言い聞かせて、彼を大人しくさせてください!」

「私も学習しました。無理です」

キッパリ返された。

「そんなぁ⋯⋯」

「あの子が私の言うことを聞かないことくらい、つくしさんもご存知でしょう。それに私の立場からすれば、瀧本如きに良いようにされては堪ったものではないわ。それを潰せたのなら、私としては喜ぶべきところじゃないかしら」

「うっ⋯⋯!」

そこを衝かれると非常に痛い。
何かと首を突っ込みたがる友人たちには敢えて教えてないから知らないが、『如き』、と瀧本さんをあしらった楓社長の言う立場こそが、弟の会社設立時から力を貸してくれた大恩人であり、所謂、ビジネス用語で言うところの、エンジェル投資家だ。

個人投資をしてくれた楓社長の存在なくして今の会社の発展は語れず、感謝しかない。
恩に報いるためにも利益を最大限還元すべき相手であり、勿論、逆も然り。
投資家である楓社長の立場からすれば、我が社に不利益を与えかねなかった瀧本さんは、喜ばしくない存在といえる。それはわかる。

――――わかるけれどもっ!

その遣り方が究極に乱暴で荒業すぎるから困るのだ。
結果として瀧本さんの脅威から救ってくれたとしてもだ。
助けてもらった見返りは、わかりやすく金銭とかにしてくれれば良いものを。
よりにもよって、脅迫という最悪の手段で以て人を見返りにするなんて、卑怯にも程がある。

楓社長だって、道明寺の遣り方には異を唱えてくれるはずだと信じて疑わなかったのに⋯⋯。
それがどうしてこんなことになっているのか。

そりゃ、昔に比べれば、楓社長と私は友好関係にあるといえる。
弟の会社への出資以来、弟たちへのアドバイスは勿論のこと、私にも折りに触れ、マナーを始めとする様々な知識を与えてくれたのが楓社長だ。
忙しい身であるのにも関わらず、時間があれば食事を共にすることだってあって、昔の私が聞いたら、驚きすぎて気絶しそうなほど関係は改善している。

けれども、それはそれ。これはこれである。
結婚ともなれば話は別で、幾ら私たちの関係が良好だからとはいえ、誰よりも「道明寺家」を重んじる楓社長が、結婚など認めるはずがないと思っていたのに⋯⋯。

――――ホントにどうしてこうなった!

呆れた目は向けられても、嫌悪の目は向けてくれない。
罵ってもくれない。
あまつさえ、結婚を認めちゃってくれてたりする。

魔女は魔女でなくなり、正真正銘のエンジェルになってしまったのか⋯⋯。

項垂れながら暫し煩悶。
暗雲が漂う近未来を想像して、

「うぐぅぅぅぅ!」

言語化すらもままならず、呻き声しか出てこない。

「全くあなたって人は、幾つになっても落ち着きのない」

「そうなんです! だから道明寺家の嫁には――」

「夫が話をしたいそうです」

非難の声にすかさず便乗してみても遮られ、聞いちゃくれない。
それどころか、とんでもない人物まで登場するらしい。
長い闘病後に復活し、会長職に就く道明寺家のトップだ。

「魔女は魔女じゃなくなったけど、ラオウはラオウのまま!?」

混乱したままでの独り言は、しっかり楓社長の耳にも届いていたようで。

「何を意味のわからないことを。あなた、遂に日本語まで話せなくなったの?」

「息子さんと一緒にしないでくださいよぉ!」

「とにかく、話があるのなら日曜日に」

「日曜日⋯⋯、ですか?」

「司から話を聞いていないの?」

「彼の話なんて聞く気もなかったので、直ぐに飛び出してきてこちらへ」

全く、と嘆く楓社長は、呆れきった様子だけれど、やっぱりそこに嫌悪の色は浮かんでいない。

「明後日の日曜日、夫も時間を作って待っていますから邸に来るように。文句はその時にでも言いなさい。
今日はここまでよ。私も暇じゃないの。あなたといつまでも遊んでる時間はないわ。さっさとお帰りになってくれるかしら。邪魔よ邪魔」

雑に、シッシ、と手で追い払われる。
悩み深き仔羊である私にエンジェル様は容赦なかった。

「うっ⋯⋯わかりました」

何も解決していなければ消化不良ではあるけれど、流石に忙しい楓社長に、これ以上の無理は言えない。

「お忙しいところ、突然すみませんでした」

一礼してから背を向けた私は、気持ちを素早く切り替えた。

かくなる上は、ラスボスであるラオウに最低な女だってわかってもらうのみ!
会ったこともない人だけど、家長に反感を持たれさえすれば、この話はきっと流れるはずよ!

切り替えた気持ちが、そのまま口から漏れ出ていたとも気づかずに、意気込みながら部屋のドアを開ける。

もう一度、お辞儀をしてから退室しようと振り返ったとき。誰もいない応接セットのテーブルに、コーヒカップが向かい合わせに二つ置いてあることに気づいた。
来客があったのか、私が突撃してしまったせいで、片付ける暇もなかったのかもしれない。

改めて自分の行為は非常識だったと反省し、せめてもの謝罪で深々と頭を下げてから楓社長の元を後にした。










――――相変わらず独り言が多い子ね。


目頭を押さえて息を一つ吐き出してから、隣室に繋がるドアに目を向ける。

「もう出てきて良いわよ」

ガチャとドアは開くが、呼びかけた相手は一向にこちらへは来ず、その場から動かない。

「牧野、面白すぎる。ぷっくくく」

会話を全部聞いていただろう彼は、どうやら、お腹を抱えるほど笑うのに忙しいようだ。
掴みどころがないように見えて実は怜悧な青年は、驚くことに笑い上戸だったらしい。

意外な一面を持つ彼に接し、ふと考える。
誰が思うだろうか。無邪気に笑う彼こそが、8年前からの影のキーマン。全てを画策した張本人なのだと⋯⋯。


邪魔が入ったせいで、一口も飲めずに冷めてしまったコーヒーを入れ直す頃には、笑いの発作も落ち着くだろうと、デスクの上の内線を繋げる。

「新しいコーヒーを用意して頂戴」

もう一度彼に目を向ければ、息継ぎも怪しく目尻を拭っている。
笑いすぎて涙まで滲んでいる彼の発作は、当分治まりそうになかった。

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更新、遅くなりましてすみませんでした(_ _;)
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  • Posted by 葉月
  •  6

Comment 6

Tue
2023.04.11

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2023/04/11 (Tue) 09:39 | REPLY |   
Tue
2023.04.11

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2023/04/11 (Tue) 20:53 | REPLY |   
Thu
2023.04.13

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2023/04/13 (Thu) 15:24 | REPLY |   
Tue
2023.04.18

葉月  

き✤✤ 様

またまた遅くなりまして、申し訳ありません。
すぐ治るかと前回は申し上げなかったのですが、ちょっと体調を崩しておりまして⋯⋯。
本当にすみません。

さて、お話の方ですが⋯⋯。
薄々気づかれていたと思いますが、楓さんが支援しておりました!
そして、何やら背後には類の影も(*´艸`*)
司くん、全く気づいておりません。
このあとは、ラオウとの対面も控えておりますし、暫くは、つくしのドタバタぶりにお付き合いくださいませ。

コメント、ありがとうございました!

2023/04/18 (Tue) 16:33 | EDIT | REPLY |   
Tue
2023.04.18

葉月  

あ✤✤✤ 様

返信が遅くなりまして、本当にすみませんでした。
どうも春先に体調を崩す傾向にありまして、気圧のせいか内耳のリンパ液に影響が出ているとかで、どうにもこうにもクラクラと目眩が⋯⋯。
大変失礼いたしました。

お話の方は、つくしと楓さんの関係が明かされました。
しかも仲良し!笑
お互い素を見せ合う仲にまで発展していたようです(*^^*)
何とか楓さんを味方につけようとしたつくしちゃんですが、結果はご覧のとおりでして、更にはラスボスまで待ち受けている模様。
それでも、まだ何とかなると期待を抱くつくしちゃんに、「無駄だから!」と誰か教えてやってくださいませ(;・∀・)

類は相変わらず策士だったようで、その活躍は次話にて明かされますので、引き続きお付き合いいただければ幸いです。
ノロノロ更新ですが、よろしくお願いします。

コメント、ありがとうございました!

2023/04/18 (Tue) 16:34 | EDIT | REPLY |   
Tue
2023.04.18

葉月  

t✤✤✤ 様

返信が遅くなりまして、申し訳ございませんでした。
体調不良により、思うように事が運ばずご迷惑をお掛けしておりますが、見捨てずにお付き合いいただければ幸いです。

さて、お話の方では、つくしちゃんと楓さんの関係が明らかに!
そうなんです。何でも言い合えるのにギスギスしない関係なんです。
つくしちゃん、息子さんのことサラリとディスってますよー、って状態ですが、楓さんも慣れたもの。全く気にしないぐらいの良好関係が出来上がっておりました(*´艸`*)

類くんも影で何をやっていたのやら⋯⋯。
そのあたりも明らかになりますので、また次回もよろしくお願いします。

コメント、ありがとうございました!

2023/04/18 (Tue) 16:35 | EDIT | REPLY |   

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