その先へ 1
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あの日に心を置いたまま、時だけが流れた。
ただ静かに。だけど確実に。
音もなく刻まれた時の中で、あの頃何も持たないただの少女だった私は、弁護士と言う名の武器を手に入れた。
資格があれば生きていける。
喩えこの先1人だろうとも。
そう信じてがむしゃらに勉強に励み手に入れた資格。
でも、私は武器を身に付けてはいない。
ただ、持っているだけでしかない。
それでも私は言い続ける。
「結婚願望も全くないですし、働くのが生き甲斐なんです。女1人で生きてくにはもってこいの仕事でしょ? 弁護士資格は私にとって最大の武器なんです」
目の前の老婦に、ニコリと笑顔を作ってサラリとかわす。
生きていく為の武器だと尤もらしく言い放ち、内に秘めた想いをひた隠す。
資格を手にしても尚、戦うつもりのない私は、それでもこれが、生き甲斐だと、武器だと、そう嘯き続ける。
「つくしちゃんなら、素敵なお嫁さんになれますよ。勿体ないわ。放っては置かない男性もいるでしょうに」
「いえいえ、全くおりませんから!」
「でも、つくしちゃん? あなたの武器は、資格ではありませんよ? つくしちゃんの最大の武器はね、あなたの真っ直ぐさ、優しさ、純粋さ。内から溢れ出る、あなたそのものだと思うわ」
この広い庭にそそぐ暖かな光のように、澱みのない柔らかな眼差しが、真っ直ぐ私に向けられる。
反射的に口元に笑みを張り付けたものの堪えられず、側で咲く花達にそっと視線を移した。
────そんな二人の姿を、この家の主とその客人が、応接間の窓からじっと見ていた。

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