fc2ブログ

Please take a look at this

Lover vol.18



――腫れてねぇか?

先に船に乗り込んでいた俺は、優紀ちゃんを連れ向こうから歩いてくる大男二人の顔に、殴り合いの形跡はないかと、目を凝らす。

⋯⋯おっと、これは意外。

腫れてもなければ、切れた箇所もなさそうな二つの顔。
何より二人からは、険悪な雰囲気を感じない。
笑顔で優紀ちゃんと話す総二郎と、愛想が良いとはいえないが、険しい顔でもない司。

捕獲役を総二郎に押しつけておいてなんだけど、まだ迷いのありそうな司と、司に次いで短気である総二郎では、穏便に事は運ばず多少の傷は避けられないと思っていたんだが⋯⋯。

どうやら機嫌が悪くないらしい二人に、俺はちょっとだけ拍子抜けした。


 
 Lover vol.18



「優紀ちゃん、久しぶり」
「お久しぶりです、美作さん」

辺りをチラチラ確かめながら、総二郎たちと連れだってやって来た優紀ちゃんに、まずは声をかけた。
女性陣の姿が見当たらないから、心細いんだろう。

「牧野なら、もうすぐ来ると思うよ。滋は忙しそうだけど、桜子は化粧直しに行ってるだけだから、ちょっとだけ待っててな」

「はい、ありがとうございます」

パーティー慣れしていない優紀ちゃんに安心させるよう言えば、ホッとしたように目を細めて笑った。
できればヤローなんかより、女の子とこうして話を続けていたいとこだが、まさか無視するわけにもいくまい。

「よう、司、総二郎」

「おぅ、あきら。なーんか俺ら、さっきずっーと見られてた気がすんだけどよ、良い男だからって見惚れてたか」

お気楽な総二郎に呆れる。
見飽きた顔に今更何を思えってんだ。

「バカ言うな。俺は、おまえたちが無傷かどうか確かめてただけだ」
「んなガキみてぇなこと、俺がするわけねーじゃん」

司に負けず劣らず喧嘩っ早いくせして、どの口が言う?

「あきら、安心しろって。大人の俺がな、しっかり言い聞かせて司の心を解してきてやったからよ。目が覚めたみてぇだし、もう心配ねぇって。な、司!」

総二郎は俺の肩にポンポンと叩き得意げだが、残念ながら同意を求めた司に、しれっとバッサリ切り捨てられた。

「俺は総二郎に言われたから来たんじゃねぇ」

「おいおいおいおい、それはねぇだろうよ」

「目ぇ覚まさせてもらったっつうんなら、それは総二郎にじゃねぇ。総二郎の女にだ」

「はあ?⋯⋯おまえ⋯⋯」

フッ、と笑う司に、顔を引き攣らせる総二郎。
突然、会話に引きずり込まれた優紀ちゃんは、「私は何も⋯⋯」と、困ったように眉尻が下がる。
いずれにせよ司が、この前より幾らかすっきりしてるようで何よりだ。

⋯⋯残念ながら、総二郎のお手柄じゃないらしいけど。

それが不満らしい総二郎は、

「あんなに熱く語ってやっただろうがよ」

と、ぼやくが、またもや司に、

「なに言われたか覚えてねぇ」

しれっと言われている。

何とも珍しいパターンだ。司が余裕で総二郎をあしらってるなんて。

可哀想なことに相手には全く響いてないようだが、総二郎が熱く語ってやったのは本当らしい。
心優しい俺は、項垂れる総二郎の落ちた肩に手を置き、気持ちばかりの労をねぎらう。

「まぁ、アレだ。グラスを投げつけられなかったようで何よりだ。ご苦労さま」

微妙なフォローなんて耳に入らないのか、総二郎は、まだブツブツ文句を垂れている。

「なにが覚えてねぇだ。恥の晒し損じゃねぇかよ⋯⋯でも待てよ? 覚えてねぇってのは、まさか。訊かなかったことにしてやるっていう、司なりの気遣いか? だとしたら⋯⋯余計に居たたまれねぇっつーの」

傍にいる俺にしか聞こえない声で嘆く総二郎に、俄然、興味が湧いてきた。

⋯⋯おまえ、何した。
司に気遣われるなんて珍妙な事態を引き起こすとは、一体どんな恥を晒してきたんだよ!?
是非とも、俺の前でもその恥を晒してくれ!  

にんまりしながら、総二郎から聞き出してやろと口を開いたときだった。ソプラノ調の声がそれを遮った。

「西門さん、優紀さん、こんにちは」

化粧室から戻って来た桜子が、にこやかに挨拶をする。
お陰で総二郎の恥を問うタイミングを失った。
美しい完璧な笑みを絶やさない桜子は、次いで視線を司に移した。

「道明寺さんも来る気になってくれたんですね」

「⋯⋯あぁ」

「でも、これからですよ?」

桜子の意味深な言い方に、司の片眉がピクリと反応する。

「先輩には、道明寺さんが参加されることは伝えていませんから、突然の再会に驚き、道明寺さんを見て混乱するかもしれませんね。それか、あからさまに嫌な顔をするか、あるいは無視するか。
だって、先輩は道明寺さんとの再会なんて望んでないでしょうし、どんな対応されても仕方ありませんよね。
でも、どんな態度をとられようが、それが現実なんです。そこから始めるしかありません。もうじき花沢さんが先輩を連れてきますけど、来るなり道明寺さんの気持ちを打ち砕く気まずい再会となるかもしれませんが、取り敢えずは頑張ってくださいね」

桜子の表情は、女神のような美しい笑みを浮かべたまま。

なのにおまえ、語る言葉は表情に反して辛辣すぎだろうが!

綺麗な顔して口から出てくる大半は、脅しと嫌味。
最後にオマケ程度のエールは添えはしたが、司からの反応はない。
ただ、類の名前が出たときだけは、何年経っても条件反射なんだろう。頬が若干引き攣っていた。

それにしてもだ。この女の辞書に「恐怖」って言葉は存在するのだろうか。
訊いているこっちの方がハラハラもんだ。
あまりに辛辣すぎて、俺まで、心臓をぎゅうって握られた気分だ。

総二郎が恥を犠牲にして連れ出してきたのに、ここで司の機嫌でも損ねたら、どうすんだよ。
それだけじゃない。数日前のようにテンションがた落ちにでもなってみろ。浮上させんのも一苦労なんだぞ。

「おまえな、司にキレられても弱られても面倒なんだから、あんまキツいこと言うなって」

小声で桜子に諭す傍から、司は煙草を咥え、難しい顔をして俺たちに背を向けた。

ほら、みろ。言わんこっちゃない。

片手をポケットに突っ込んだ司は、灰皿がある方へと一人寂しく去って行く。
ただ煙草が吸いたいだけなのか、それとも本当にヘコんでしまったのか⋯⋯。

「あら~、行っちゃいましたねぇ」

桜子は司を目で追いかけながら、他人事のように言う。

「あら~、じゃねぇよ。どうすんだよ、アレ」

誰があの背中に声かけるんだよ。
言っとくが俺はパスだぞ。

「それにしても、良い男が哀愁を漂わせると絵になりますよねぇ」

こんなときに、うっとりか。
恍惚と司に魅入ってんじゃねぇよ。

「なに呑気なこと言ってんだよ、おまえは」

「やだ、美作さん、ヤキモチですか?」

「違うわっ!」

「心配しなくても大丈夫ですよ? 外見的感想を述べたまでですから。
でも、本当に良い男は、外見的なものだけじゃ足りません。誰かに何か言われたくらいで尻込みするような男なら、今の先輩には要らないですもの。そんな男なら、私がどんな手を使ってでも排除します。
だけど違うでしょ? そんなつまらない男じゃないって信じるからこそ、本来の先輩の感情を引きずり出してほしいと願うし、発破だってかけたくもなるんです」

ヤキモチの否定には失敗した感はあるが、真剣な顔つきに変わって言う桜子に、文句を言う気は失せた。

全く、辛辣な言葉に隠しすぎだろ。情深い優しさを⋯⋯。

本当に弱い男になったのかどうか。司を試すような憎まれ口も、何か欠けてしまった牧野を救ってほしいと願えばこそ。
そして、その先に、司が望む幸せもある。
司ならできると、信じて疑わないから迷いなく投げた言葉だ。

牧野が変わった以上、司から行動を起こさなければ、二人の未来は千切れたまま交わることは、きっとない。
突破口を司に開いてもらいたいがための発破だなんて、わかりづらいにも程があるが、それが桜子の愛情の形。

些か毒気が強すぎる気もするが、気休めより現実を思い知らせた方が誠実ってこともある。
辛口トークは時に冷や汗もんではあるが、根っこの部分に優しさを隠し持つ女の横顔を、俺は口元を緩ませつつ、こっそりと見た。

が、次の瞬間。

「あ、つくし」

優紀ちゃんの一声で、この場にいる全員の視線が同じ方向に向かった。
チラリと見れば、数メートル離れた所にいる司は、まだ気づいていないようだ。

俺たちの視線の先にいるのは、類と、そして牧野。

「いよいよですね」

桜子の声にも若干の緊張が混じっている気がする。

司と牧野。
8年の時を経た二人の再会は、一体どんなものになるのだろうか。

願わくは、司の傷が深くならないものであればいい。
人知れず、そっと願った。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



  • Posted by 葉月
  •  2

Comment 2

Sat
2023.01.21

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2023/01/21 (Sat) 09:40 | REPLY |   
Thu
2023.01.26

葉月  

き✤✤ 様

き✤✤探偵殿、推理をありがとうございます(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
別れてから一ヶ月後ってところがポイントですよね。
つくしちゃんの心境に変化をもたらした何か。
その答えが明らかになるまで、10万字以上は書かなくてはならないかも⋯⋯と、若干遠い目をしている私ですが、今後も探偵殿のご推察を楽しみにしながら、書き上げていきたいと思います。

コメント、ありがとうございました!

2023/01/26 (Thu) 16:16 | EDIT | REPLY |   

Post a comment