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手を伸ばせば⋯⋯ The Final 12.



――この男、一体どれだけの割合で、一晩に何回やってるんだ!?

思わず背も態度も糞デカイ男をマジマジと見る。

「あ? 何ジロジロ見てんだよ」

「いやー⋯⋯その、なんだ。アレ、なんだけどな――――」

一年持ちそうか? と直球を投げ掛け淡白疑惑を払拭したかったのだが、タイミング悪くドアがノックされるや否や、他の奴らが雪崩のように押し入ってきて、最後までは言わせてもらえなかった。



 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 12.



「よっ! あきら、桜子おめでとう!」
「おめでとうございます」

――おまえたちは、どれくらいの頻度で一度に何回だ?

タイミングがタイミングなだけに、目の前に来た恋人たちにまで雑念を問いかけたくなるが、そこは流石の俺。
頭の中の如何わしい思考など、誰もが読み取れないだろう紳士的な笑みで返す。

「ああ、サンキューな。総二郎、優紀ちゃん」

「おめでとー。牧野、今日も可愛いね」

ついで類からも声をかけられるが、こちらは全く以て心が籠もっていない。
俺の顔なんて、チラ見だ、チラ見。
ここに来た目的は、牧野に会うためとしか思えない。
だけど、今日は俺たちの結婚式。不用意な発言で猛獣を刺激してくれるなよ?

そう心配する傍から、早速猛獣が吠えた。

「てめっ、人の女に気安く可愛いとか言うな! つーか、つくしを見んじゃねぇ!」

初っ端からこんなんで、果たして俺の結婚式は無事に執り行えるんだろうか。
それでなくとも今日は、面倒になりそうな人物が他にも来るわけで⋯⋯。

「あきらくーん、桜子、おめでとう!! ブーケは絶対に滋ちゃんに頂戴よね! つくしーっ、今日はご馳走をじゃんじゃん食べるよ! 司も久々! 相変わらず良い男だね〜」

ほら来た。面倒になりそうな人物が⋯⋯。
司の腕やら肩やらをバンバンと叩き、異常にテンションの高い滋だが、こいつはこの際どうだって良い。いつものことだから。
問題は、滋の後ろから静かに現れた人物――――佐々木直哉だ。

何度となく一緒に仕事をした関係で今日も招待したわけだが、けれどこの人物、若干の問題がある曰く付き。⋯⋯概ね、司にとっては。

何せ佐々木は、牧野の昔の男だ。
体だけの割り切った関係とはいえ、司にしてみれば面白いはずがない。

何事もなければ良いが、と恐る恐る窺うように司を見れば⋯⋯早っ!
ついさっき類に怒鳴っていたはずの司は、もうターゲットを佐々木に変え、凄まじい形相で睨みつけている。

だが、狙われた佐々木は至って冷静。
司に一瞥をくれただけで、涼しい顔して俺の方へと向かってくる。
この男、初対面の時からそうだったが、司にだって動じやしない。肝が座った、なかなかの大物だ。

「美作副社長、桜子さん。おめでとうございます」

「お、おぅ、佐々木。今日はわざわざ来てくれてありがとな」

「いえ、私の方こそ、お招きに与り光栄です」

「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」

よし、必要な挨拶は済んだ。
だから、すかさず司の視界から外れ、大人しくしといてくれ。

そう心から願ったわけだが、大抵、こんな時の俺の願いは叶った試しがない。
そして、不吉な予感は見事に当たる。

「それに、道明寺夫人にお会いするのも楽しみでしたしね」

同じだ。類と同じ人種だ。
爽やかな笑顔でとんでもないことを言ってくれる。
牧野に関しちゃ器が極小になる男がどう出るか、頭の良いおまえなら分かるだろうが! と膝詰めで説教してやりたい。

「直哉、久しぶり。元気そうだね」

そこに牧野まで会話に入ってくるもんだから、司の顔なんてもう悪鬼だ。

「ああ。つくしも元気そうだな。それに、今日は一段と綺麗だ」

「うふっ、ありがとう」

「俺の妻を馴れ馴れしく名前で呼ぶとは、いい度胸してんな、佐々木」

猛獣改め、悪鬼が遂に参戦。
俺の結婚式がぶち壊されやしないかと、何だか鳩尾辺りがシクシクと痛い気がする。

「これはこれは、道明寺支社長のお気持ちも考えずに、すみませんでした。道明寺支社長より先に互いの名で呼び合っていた仲ですから、つい癖が抜けきれず、本当に申し訳ない」

「んだと、てめぇっ!」

祝いの席でバチバチと火花を散らす男が二人。縁起が悪いにも程がある。
新旧の男を責任以ておまえが何とかしろ、と救いを求め牧野を見るが、どこまでも牧野は自由人だった。
殺気行き交う会話など意にも介さず、呑気にも小さなバッグから取り出したチョコを頬張っている。

おやつ持参で来るんじゃない!

少しはこの危険な空気を読め!と詰め寄りたくなったが、そう思うのは些か尚早だったか。
司の袖をツンツンと引っ張った牧野は、もう一つチョコを指で摘むと、「あーん」と言って、司に差し出した。

途端に悪鬼が消える。
鬼退治に必要なのは、豆ではなくチョコだったとは初めて知った。
物騒な顔が消えた代わりに、口を開けてバカ面を曝している。

「美味しい?」
「おぅ、美味い」

嘘つけっ、おまえ甘いの嫌いだろうが! なんて突っ込みは、今日は見逃してやる。

「きゃー、熱々! 羨ましい!」

黄色い声ではしゃぐ滋の気は本気で知れんが、司が大人しくなるのなら、牧野の餌付け大いに結構、何でもしちゃってくれ。

「牧野、俺も食べたい」

だが迂闊にも忘れていた。
こっちにもいたんだった、面倒な奴が!
頼むから、類まで大口開けて待つな!

「ふざんじゃねぇぞ、類っ!」

当然、司が黙っていられるはずもなく、牧野の手元からチョコを奪うと、類の口に乱暴に放り込んだ。

「何で司から食べさせてもらわなきゃなんないのさ。気持ち悪い」

「ワガママ言うんじゃねぇ! 俺だってつくし以外にやりたかねぇのに喰わせてやったんだ。有難がって黙って喰え!」

「イヤだ。牧野がいい」

地位ある男二人の低レベルな争いを、冷めた目つきで見る佐々木。
そんな佐々木を司が見逃すはずがなかった。

「佐々木、なに見てんだよ。まさか、おまえまでつくしに食べさせてほしいとか言うんじゃねぇだろうな?」

目出度い日だっていうのに、司は手当り次第に喧嘩をばら撒いていく。

「いえ、甘いものは苦手なんで」

「だったら羨ましそうに見てんじゃねぇよ」

「道明寺支社長の気持ちも分かるな、と思ってただけですよ。昔、つくしが咥えた煙草を寄こしてきたことがあって、その時は嬉しく思ったもんです。それと同じなんでしょうね」

ばら撒かれた喧嘩に被弾した佐々木であるが、何故か堂々と
喧嘩を買う始末だ。

佐々木に教えてやりたい。
相手は地位はあっても、少々御頭おつむは足りないんだぞ、と。
だから相手にするな。賢いおまえが退いてくれ。

そもそも突っかかったところで、佐々木の得など何一つないだろうに、どうしてこうも棘々しく司を刺激するんだか。

⋯⋯もしかして佐々木は、まだ牧野に未練があるんだろうか。
だから司にも突っかかるとか?

刺激がまんまと刺さった司といえば、破裂しそうなほどの青筋を出現させ、想像通り怒号を響き渡らせた――――のだが。

「てめぇーっ、さっきから訊いてりゃ――――っ」
「ねぇ、司。お茶が飲みたい」

喚いて直ぐに牧野に話しかけられ、怒りは呆気なく鎮火。
同時に青筋も消えた。

「ん? 喉乾いたのか?」

「うん、紅茶飲みたい」

「じゃあ、ラウンジにでも行くか?」

「うん、行く!」

吠えていたのが一変。良くもコロッと態度が変わるもんだ。
どっからそんな優しい声を出してるんだか。

「なら、まだ時間あるし、俺たちもお茶しに行こうぜ」

牧野と司に続き、総二郎の掛け声に促された他の奴らは、「じゃあ、また後で!」と、口々に言いながら、潮が引くようにぞろぞろとドアへと向かう。

嵐のような集団の背中を見ながら、これでやっと静かになる、と息を吐いたのと同時、隣にいた桜子が司を呼び止めた。

「道明寺さん! 今日はよろしくお願いします」
「おぅ」

司が右手を軽く上げ桜子に返す。

「それから、先輩にお話があって。道明寺さん、ちょっとだけ先輩をお借りしますね」

牧野は「直ぐに追いかけるから」と司に告げて踵を返す。

だが、俺たちがいる方へと戻る途中、集団の最後尾を歩いていた佐々木とのすれ違いざまに足を止めた牧野は、唇の端を持ち上げると意味深に言った。

「直哉も案外かわいいとこあるよね」

「何だよ、いきなり。気味悪いこと言うなよ」

「司もね、本当は甘いもの嫌いなの。直哉もそのうち、甘いもの食べるようになっちゃうよ」

「は? 訳分からないこと言うなって。食べるはずないだろ」

「そう? 正しくは、食べさせられちゃうんだけどね」

「⋯⋯どういう意味だ?」

困惑に眉を寄せる佐々木の問いを無視した牧野は、「まぁ、頑張って!」と、手をヒラヒラさせて佐々木の前を通り過ぎる。
謎めいたエールを送られた佐々木の眉間は、皺の深さが増すばかりだ。

でも佐々木、おまえだけじゃない。会話を耳にしていた俺にだって、牧野の言いたいことは、さっぱりだ。
天然の言動は、時として人の理解能力を大いに狂わす。だからあまり気にするなよ。普通じゃないんだから。
訝しみながら去っていく佐々木の後ろ姿に、届きもしない心の声を送った。




佐々木の足音が完全に遠ざかると、桜子が牧野を見て可笑しそうに笑う。

「きっと佐々木さん、先輩の不可解な言動を探ろうとして、頭を悩ませているかもしれませんね」

「うん、多分ね」

「ところで先輩。良いですよね? あれを使わせてもらっても」

「勿論よ! また使ってもらえて私も嬉しいし」

あれ、って何だ。
佐々木が居なくなっても、今度は女二人の会話の行方が掴めず、全く理解が追いつかない。

「何の話だ?」

堪らずに訊けば、桜子は部屋に備え付けのクローゼットから箱を引っ張り出し、中身を手に取って見せた。

「あ、それって⋯⋯」

桜子の手にあるのは、幸せのバトン。牧野と司の結婚式のブーケトスで、俺たちが受け取ったものだった。

一見、ハート形に見えるピンク色のブーケは、プリザーブドフラワーで作られていて、今も色鮮やかに美しさを保っている。
受け取った日から宝物のように桜子が大切にしているそれは、ガラスケースにしまい部屋に飾ってあったはずだ。
それがここにあるということは、このブーケを使うつもりなのだろうか。

ただ、ブーケなら既に用意されている。
うちのお袋が、ユーチャリスの花で作ったスリムキャスケードブーケが⋯⋯。

「これは、先輩たちと同じように、ブーケトスとして使わせてもらおうと思って。それで先輩の了承をいただきたかったんです」

なるほど。
俺の疑問に直ぐに気づいた桜子の説明で納得する。
が、今度は別の気がかりが浮かぶ。

「ブーケトスにか。でも桜子、ブーケトスは、滋にあげるつもりなんだろ? だとすると、相手がいない滋には厳しいだろ、このブーケだと」

見た目がハート形のブーケは、放った後に二手となり、カップルのそれぞれが受け取る格好になるものだ。
相手がいない滋にとっちゃ、これだとちょっとばかしキツくないか?

俺は滋がひとり、左手と右手でブーケを受け取る切ない姿を想像した。

これは流石に可哀想だ。と同情を寄せれば、桜子と牧野が俺を見て、如何にも愉しげに声を立てて笑う。

何がそんなに可笑しいのか。別に笑わせることなんて、何一つしていないんだが。

なのになんなんだ。
俺が額に皺を刻めば、一段と弾けるこの思惑含みの笑みは。
どうにもきな臭い。

この二人、一体何を企んでいるんだ!?

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  • Posted by 葉月
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Comment 2

Fri
2022.09.30

-  

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2022/09/30 (Fri) 20:42 | REPLY |   
Sun
2022.10.02

葉月  

き✤✤ 様

こんにち!

何やらつくしと桜子は、思うところがあるようですね(*^^*)
き✤✤さんの予想は如何に!?笑

そして佐々木氏。
ホント良い度胸しております。
度胸もありますし、既にVIPの結婚式に呼ばれるくらいですから、出世コースまっしぐらかもしれません!

このお話も、残すところあと2話となりました。
ラストまで、どうぞよろしくお願いします(*´∀`*)

コメント、ありがとうございました!

2022/10/02 (Sun) 13:29 | EDIT | REPLY |   

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