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手を伸ばせば⋯⋯ The Final 2.


いつもは慌ただしいであろうこの部屋は、今は恐ろしいくらいに静まりかえっている。
司が夫婦仲が拗れた原因としていたものを、あっさりと翻した牧野の発言は、俺たちから声を奪った。

誰よりも声が大きく態度まででかい司は、今は鳴りを潜め、心当たりを必死に探しているのか、眉をぐっと寄せた難しい顔で口を閉じている。

何を考えているのか読めないポーカーフェイスの妻も、喋りたくもないのか何も発しようとはしない。

時間が経つごとに緊迫していく気がしてならない俺もまた、余計なことは言わず沈黙を保ち、嫌な汗をかきかき、ゴクリと唾を飲みこむ音だけを披露した。



 手を伸ばせば⋯⋯The Final 2.



────た、堪えられん。

さっきから、たらり、と流れる背中の汗。
そもそも、何でこの俺が余所様の夫婦ゲンカで冷や汗をかかなきゃならないんだ。

沈黙が引き寄せた緊張感は、段々と腹立たしさにすり替わっていく。

忘れられてるかもしれないが、俺だってF4と呼ばれる一人だ。
今じゃ、美作商事の副社長。そりゃ、道明寺とは比べものにはならないが、日本を代表する企業の看板を背負ってる身だ。
その俺がだ。理不尽にもダチの夫婦ゲンカに巻き込まれ、何も言えずに肝を冷やしているなんて、さっきまで萎れていたプライドが許さない。

大体がだな、客を客とも思わぬ態度に腹が立つ。
昔からのダチとは言え、アポまで取って正式な形でやって来ているんだ。その俺の方が気を遣わなきゃならないとは、こんなふざけた話があるか。
尤も、猛獣に文句を言ったところで無駄なのは知っている。傍若無人の俺様が、今更その態度を改められるとも思えない。
でも、牧野は違う。おまえはもう少し態度を何とかしろ!

忘れたわけじゃあるまいな。俺はかつての上司で、おまえを妹同然と思っている兄みたいなもんなんだぞ?
前に言ってたじゃないか、俺に感謝してるって。
感謝しているのなら、困っている恩人を今すぐ助けろ。いつまでも険悪な空気を醸し出し、俺を緊張の渦に陥れるな。
仮にも秘書なら、来客者に対して相応しい対応を取るべきであって、窮地に追い込むとは言語道断だ!

────と、あらん限りに悪態を吐いてはみたものの。所詮、胸中での暴言に近い主張など何の意味もなく、また誰にも伝わりはしない。
今だって二人は、揃いも揃って沈黙を貫き、俺の存在は蔑ろ。このままじゃ拉致があかない。

仕方ない。色々とぶちまけてやりたいところだが、徒に時間を消費するだけで得策とは言えないだろう。
ここは一つ、唯一の大人である俺が、話のきっかけを作ってやるか。
先に進まないことには二人の関係は停滞したまま、俺が解放される道だって果てしなく遠い。

とはいえ、この雰囲気を打破するのは、なかなか勇気のいることだ。
幸いにもテーブルには、ガラスの灰皿が置かれている。
世間では禁煙が叫ばれ法律だって変わったが、どうせここは、俺様が下すルールが絶対の治外法権も同じ。灰皿があるくらいだ。喫煙だってオッケーなはずだ。
ならば、一服して気を落ち着かせてから話を切り出そう。

俺は懐から取り出した加熱式の煙草のスイッチを押した。
準備が整い口に咥える。
煙を肺に送り込んでから吐き出せば、ささくれた心も少しは凪いでくれるだろう。そう思ったのだが、どうしてだか煙を吐き出す前に痛みが走る。

突き刺すような痛み。これはマジでヤバいかも。
若い頃の無理が祟ったか────と、現実逃避してみたが、そろそろ息が苦しい。

苦しいのは俺自身が息を止めているからであって、感じる痛みも実は、身体を襲うものじゃない。ならば何が痛いのか⋯⋯、突き刺してくる、こいつらの視線が痛いんだ!

俺が煙草を吸い出した途端、素晴らしい早業で俺を標的にし、前から横からと視線をぶっ刺してきた二人。
凶暴な眼差しに貫かれた俺は、煙を吐かぬよう瞬時に息を止めた。
禁煙してから二年近くも経つというのに、どうやらこいつらは煙草が気に食わぬらしい。
ポーカーフェイスだった牧野ですら、その瞳に分かりやすく苛立ちの炎を揺らし、『早く消せ』と無言の圧で訴えてくる。

吸いかけの煙草を捨て、素早くスティックをケースにしまうと、煙が漏れぬよう口を手で塞ぐ。
けれど、俺は人間だ。いつまでも無呼吸ではいられない。
ここまで息を止められている肺活量の多さを称えて欲しいくらいだが、頭がくらくらし始め、いよいよ限界は近い。

遂に俺は堪えきれず、ズホーッ、と盛大に煙を吐き出した。⋯⋯⋯⋯鼻の両穴から。

口を手で押さえていたばかりの大失態。
紳士たるこの俺が、は、は、鼻から煙を出すなんて⋯⋯。

だぁぁぁぁっ!
広がる煙を大急ぎで両手で蹴散らせながら、とうとう俺はブチ切れた。
人を散々威嚇してビビらせ、挙げ句、恥までかかせやがって! こんな残念な姿を晒す羽目になったじゃねぇか!
煙草が嫌なら、こんなとこに灰皿なんか置くんじゃない!
喧嘩に俺を巻き込んでおきながら、睨んでくるとは何て身勝手な奴らなんだ!

「おまえらいい加減にしろっ! いつまでそうやって黙りこくってるつもりだ! 牧野も理由を言わなきゃ何も解決しないだろうが! 黙ってないで思ってることがあんなら言え! きちんと言葉にして司と話をしろ! いつまでもそんな態度とってんな!」

数年ぶりの大爆発。
いつまでも甘いだけの俺だと思うなよ? 俺だって言うときは言うんだ。

だが、滅多にない俺の怒声はあらぬ方向から謗りを受けることとなる。

「てめっ! なに人の女を怒鳴りつけてビビらせてんだっ!」

ほぅ。そう来るか、司。
俺はキレながらもおまえの援護をしたつもりだったんだがな。

けれど、司に庇われた奴に目を向けた途端、俺の怒りは、しゅるるるる、と急速に萎み静かに消えた。

司、言わせて欲しい。おまえは大いに間違っている。
見てみろ。おまえの女とやらは、ぜんぜんビビってなんかねぇ。
ビビるどころか顔色一つ変えず、暢気に飴を取り出し舐めてるし。

あんまりだ。これはあんまりにも俺に惨い。
しょっちゅう怒る司とはわけ違い、珍しく俺が怒鳴ったっていうのに、驚きもしなければ、ビクリともせずに全く怖がってくれない。
何たる屈辱、正直ヘコむ。
俺の怒声なんて、目の前をハエが飛んでる程度にしか思ってないんじゃないだろうか。そんなに迫力がないのか、俺は。

不動のポーカーフェイスを前にメンタルは打ちのめされ、完全に意気消沈した。

「つくし、俺にもくれ」

すっかり肩を落とした俺の前では、バカ夫が牧野が舐めている飴を要求している。
牧野が舐めているのは、どうやら禁煙用のものだったらしい。
長いこと禁煙している者でも、苛立った時や酒の席では煙草が欲しくなると聞く。
だとすれば、それだけ二人はイライラしていて煙草を吸いたかったってことなのか。或いは、煙草を二人の前で吸ったがためにイライラしたのか。
いずれにしても、神経が昂ぶっているだろう二人に怒声を浴びせたなんて、何て命知らずなことをしてしまったんだ。
心が挫かれすっかり思考が後ろ向きになった俺は、今更ながらぶるりと震えた。

怒りが少しでも鎮まるのなら、さっさと飴を猛獣に与えてやって下さい。そう上目遣いに願ったタイミングで、牧野は個装された飴を取り出し、テーブルに置いた。
だが、飴をチラリと見ただけの司は手に取ろうとはしない。険しい顔をして牧野を見ている。

そこで思いだした。以前に見た、二人が飴を舐めていた時のことを。
確かあの時は、味が不味いからというふざけた理由で、司は牧野から口移しをしてもらってたはずだ。
まさかとは思うが、夫婦仲が拗れているこの状況にあっても、司はそれを望んでいるんじゃないだろうか。

牧野が小さくため息を吐く。
その様子から察するに、牧野も司の要求に気づいたのだろう。
牧野はテーブルに手を伸ばし、飴を掴んだ。

お。これは、司の望みを叶えてあげる気か?

夫婦関係に亀裂が入っている最中、妻に甘えようとする司の図太い神経は理解に苦しむが、元々が普通じゃない男なんだからしょうがない。
寧ろこれを機に、さくさくっと仲直りしてくれたなら、俺としても万々歳だ。
だから今日だけは許す。俺の前だろうが構わず口移しであげちゃってくれ!

しかし、どうしたことだろうか。
何故か牧野の手が俺へと伸びてくる。
牧野の指先が掴むのは、飴。それを俺に差し出してくる。

いや、俺いらないし。まだ禁煙する覚悟も出来てないし。

「一人じゃ食べられないみたいなので、あとはよろしくお願いします」

首を傾げていた俺に、淡々とした声で牧野が言った。
つまり、俺が司に食べさせろと?⋯⋯⋯⋯く、口移しで!?

うぇーーーーっ!

思わず嘔吐きそうになる。想像するだに気持ち悪い!
戦いた俺は、隣に座る牧野から逃げるように、身体を仰け反らせた。

牧野、おまえは腐女子だったのか? 俺たちに何をさせようとしてるんだ! 司に飴を口移しだなんて、要は接吻だろうが! 何ておぞましいっ!

「ふざけんなーっ!」

司の雄叫びが炸裂する。
司が怒るのも当然だ。俺だって冗談じゃないぞ!
けれど、牧野は相変わらず平然としている。

「嫌ならご自分でどうぞ。自分で食べようが誰に食べさせてもらおうが、味なんて変わるわけないんですから」

うん、ご尤も。口移ししたところで味なんて変わりゃしない。全面的に牧野に同意だ。
それなのにおまえがバカみたいに甘えるから、一瞬でも考える羽目になったじゃねぇか。司と俺のキスシーンなんかを!
そんなに食べたきゃ、とっとと口に放り込んでくれ!

なのに、この男ときたら。

「ヤだ」

懲りもせずに、まだ諦めようとはしない。
子供か! ふて腐れるんじゃない!

俺も考えが甘かったが、隙も遊びもないポーカーフェイスのこの牧野が、人を甘やかすはずがなかったんだ。
触れれば切れそうな冷たい瞳を持つ今の牧野に、口移しを強請ろうとする司の方がどうかしてる。
恐いもの知らずというか無謀というか、チャレンジャーすぎんだろ。簡潔に纏めれば、バカなんだな。

「あきら!」

突然、司に呼ばれ、落ちてた肩が大袈裟に跳ねた。
てっきり、思っていたことを無意識のうちに口にしていたかと焦ったが、

「黙ってないで何とかしろ!」

どうやら違っていたらしい。『バカ』って心の声は漏れていなかったようだ。

にしても勝手だ。さっき人をどやしつけたくせに、まだ俺に頼るとは。

司は、飴を口移しで渡すよう説得しろ、と思っているのかもしれないが、それでは根本的解決にはなりそうにない。
司に付き合っていたら、解決するもんも解決せず遠回りばかりしそうだ。
ならば、精神力はすっかり摩耗しているが、やはり俺が間に入るしかないか。そう考え、牧野と話す覚悟を決める。
無論、怒鳴りはしない。怒鳴るだけのスタミナは枯渇させられている。牧野によって。

「牧野? おまえが怒ってる理由はなんだ? 何があった? ちゃんと口にしないと司には伝わらないぞ?」

「別に怒ってません」 

全く以て説得力がない。いつもと違うのは、誰の目から見ても明らかだろうに。

「そうは見えないぞ? 実際、今は可愛いつくしちゃんの姿だって消えてるようだし」

「つくし⋯⋯、ちゃん?」
「つくし⋯⋯、ちゃん?」

やべ、ちゃん付けがまずかったか。
二人揃って目を据わらせるな。声もなんだってそんなに低くするんだ。間の取り方までぴったりとはビックリだ。
頼むからこんなところで息を合わせて俺を追い詰めないでくれ。

「すまん調子に乗った冗談だ」

一息に言ってから咳払いをし、気を取り直す。

「でも、どう見てもいつもの牧野と様子が違うと思うぞ? ちゃんと司と話してみたらどうだ?」

「言っても無駄です。無駄なものに労力を使いたくないので」

表情筋が壊滅しているらしい顔で返された。
なるほど。よく分かった。⋯⋯俺じゃどうにもならないってことが。
悪いが、お手上げだ。

「だそうだ、司。諦めろ」

そう司に言うなり、ガン! と凄まじい音が響く。
司がテーブルを蹴り上げた音だった。

「つくし、わけの分かんねぇことばっか言ってんじゃねぇぞ!」

これは不味い。
頭に血が昇った司をこれ以上刺激するな、と牧野に目で合図を送った────のだが。

「それが証拠。気に入らなければ何かに当たる。話すだけ無駄でしょ。暴れたければお好きにどうぞ」

俺のサインは全く牧野には通じず、勇ましくも受けて立つ気らしい。

「俺が怒る前にちゃんと話さねぇおまえも悪りぃだろうがっ!」

「話すも何も司の考えが良く分かったから、それなりに動く、そう判断したまでよ」

きっぱり撥ね付ける牧野は、どこまでも根性が座っている。
気色ばむ司を前にしても、一切怯むことがない。

「だったら、いつまでそうしてる気なんだよ」

一向に屈しない牧野に根を上げたのか、司の声のトーンが少しだけ和らいだ。

「前に戻っただけよ」

「勝手に戻んな」

「どうしようと私の勝手。こんな私でもしつこく追いかけてきたのは司じゃない。どんな私だって構わないはずよ」

確かにそうだ。
氷のように冷たい牧野に、どんなにすげなくされても、決して諦めなかった司。
俺なんて、牧野の温度のない冷ややかな態度と声に幾度となく震えたもんだが、司はそんな牧野に対しても一切気持ちが揺らぐことはなかった。

「今のおまえだって愛してる。でもな、可愛いつくしも俺のもんなんだ! 俺の断りもなく、一体どこに隠しやがった! 俺の可愛いつくしを返せっ!」

んん? えーっと、今はバトル中だよな?
何なんだ、このうっかり気が抜けそうになる司の言い分は。

「話にならない」と、返す牧野の表情は乏しいが、きっと内心じゃ溜息を吐いていることだろう。

「何が話にならねぇだ! 話をしようにも聞く耳持たねぇのはつくしだろうが! 挙げ句、夜まで無視しやがって! 俺と俺の息子がどんだけ寂しい思いをして、どんだけ我慢してると思ってんだ!」

もう黙れ、と司の口を塞ぎたくなった。
素直にも程がある。本音だとしてもだ。こんな喧嘩の真っ只中、おまえの一物事情を語るなんて、つくづくどんな神経してるんだ。
見てみろよ、牧野の蔑んだ目。虫けらを見るみたいな目でおまえを見てるぞ。

けれど、そんな視線もなんのその。司はめげずにバカ街道をひた走る。

「勝手に昔に戻りやがって! その昔のおまえでさえ『抱いてくれる?』って言ってきたのに、今回はそれすらねぇ! 俺はいつだって突入体勢万端で待ち構えてんのに、いつになったら誘ってくるんだ! 早く誘ってこい! なんなら今すぐ誘え!」

突入体勢万端って、おまえは歩く卑猥物か。
アホな内容なのに、言っている本人は真剣そのものなんだから頭が痛い。
が、聞き捨てならない台詞があった。
言ったのか? かつての牧野が『抱いてくれる?』なんて、そんなこと本当に口にしたのか?

盗み見るように隣の牧野をそっと窺えば、すーっと目を細めた牧野は、取って付けたように口に弧を描いた。その不敵な嗤いが恐ろしい。

「そんな風に言ってもらいたいなら別にいいわよ? 確か私、あの時に言ったわよね? 男に抱かれることなんて、時間潰しみたいなもんだって。それは、道明寺だからって変わらない、ともね。そうね、そう割りきるのも悪くないわね」

⋯⋯なんでそうなる。

俺は頭を振り振り、嘆く代わりに額に手を当てた。
割りきるも何も、おまえらは神に永遠の愛を誓った夫婦だっつうの!
斜め上すぎる極論を食らった司なんて、動揺しまくりで嘘みたいに顔面蒼白になっちまっただろうが。

「ま、まままままま待て、お、落ち着け、つくし」

落ち着いていないのは、どう見ても司である。

「お、俺は、感情まで戻せって言ってるんじゃねぇよ。ただ、つくしを堪能して、つくしを抱いて毎晩眠りてぇだけだ。俺はつくし不足の飢餓状態なんだ! だから、変なこと考えんなよ? 頼む!」

変なことを考えているのも、どう見ても司だ。
すっかり戦意喪失し牧野の顔色を窺っている司だが、その邪な考えを一旦捨てろ、と言ってやりたい。

そんなところへ、メープルからのランチが届く。
一度、休戦するには頃合いだろうが、こんな状況下で食事を摂らなきゃならないだなんて、どんな罰ゲームだろうか。

牧野が気になって仕方ない司は、向かい側から立ち上がると牧野の隣に移動した。
つまり、この無駄に広いソファーに、牧野を男二人が挟んでの横一列。
大の大人が三人並んで座るという、なんとも奇妙な絵面の完成だ。
並んで食事を取りはじめても、勿論、会話は弾まない。弾むわけがない。
やたらとピリピリする中での食事は、もう何を食ってるのかさえ分からず、俺から味覚を奪っていった。


苦痛のランチも終わり、いよいよ俺も帰社しないとまずい。
さっさと仕事を始める牧野を横目に見ながら、まだソファーにぐったりと座っている司に切り出した。

「司、俺もそろそろ戻らないと。悪いな」

決して悪くはないのだが、大人である俺は、社交辞令的に付け足しておく。

「あきら、随分と長く引き止めたな」

大人の振るまいが功を奏したのか、珍しくも司が神妙に言う。
流石の司も、付き合わせて悪かった、と反省しているのかもしれない。
こうもしおらしく言われると、何も解決しないまま去らなきゃならないのが、何だか申し訳なく思えてくるから不思議だ。

「いや、気にすんなよ」

だから、ここに来てから燻り続ける不満も何もかもを呑み込んでそう言ったのに⋯⋯。

「あ? そのわりには糞の役にも立たなかったな、って言いたかっただけだ」
「はぁ!?」

こ、このヤロー。反省したんじゃなかったのかよ!
そうだ、そうだった。この男はどこまでも自分本意なこういうヤツだった。
道明寺の力と金を以てして、どうして幼い頃にこの性格を矯正できなかったのか、本気で悔やまれてならない。

「まだ何にも解決してねぇ。続きは夜に持ち越しだ。あきら、今夜家に来い。いいな」

「ふざけるなっ、俺にだって都合ってもん────」

「逃げるなんて無駄なことはすんなよ? 夜になったら、うちのSPを向かわせる。うちのSPは手強いぜ? 捕獲なんて朝飯前だろうな。俺も昔は苦労した。じゃ、また夜にな」

なんて身勝手な!
そんな横暴が通用するとでも思ってんのか!⋯⋯通用すんだろうな。腹立たしいことに。
俺が居たところでどうにもならないって、いい加減に気付けよ。
親友の苦労も少しは分かれーーっ!



その夜。
予告通り司のとこのSPに取り囲まれ、あっという間に連れ去られた俺。
身代金は要求されなかったものの、俺は簡単に誘拐された。
犯人は、幼なじみ。
いつ解放してくれるのか、はたまた命の保障はしてもらえるのか。
気は短く普通の感覚を持ち合わせていない犯人の考えなど、常識人の俺に到底分かるはずもなかった。

俺の長い一日は、まだまだ続く。

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  • Posted by 葉月
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