手を伸ばせば⋯⋯ 52【最終話】
「西田っ! 直ぐにでも日本に帰れるよう手配しろ!」
「支社長、こちらに着いてまだ三時間です。直ぐにと言うのは流石に無理があります。こちらでの仕事も外せないものもありますし」
「煩せぇーっ! 今、俺を自由にしなきゃ、この先の俺は使いもんになんなくなんぞっ! それでもいいのか! とにかく、一刻も早く帰れるように動けっ!」
一人で結論を出した牧野に苛立ち、同時に気ばかりが焦る。
あいつは一度決めたとなると、それを意地でも押し通す真の強さがある。言い換えれば、手の付けられないほどの頑固者。
ぐずぐずしてる場合じゃない。
あきらとの電話から聞こえてきた愛しい声は、全てを取っ払った心を語るのに、進むべき道の舵取りはとんでもねぇ方向で、直ぐにでも牧野を捕まえなきゃ、どこに行っちまうのか想像もつかねぇ。
あのバカ女! 何で俺から離れようとするんだ!
もう一人で苦しめさせて堪るか。今までだって充分に一人で苦しんできただろうが。
一人でぐるぐる考えたところで何が変わる。どうせ自分を責め、その思考に気持ちが引きずられ沈むだけだ。
俺が、寄りかかれる場所になる。嘆いても取り戻せねぇ過去じゃなく、過去から浮上して互いに二度と道は踏み外さねぇと心に刻み、この先は未来を描きながら歩いて行けるように。
「司さん、何事ですか? こちらへ来るなり何を騒いでいるのかしら?」
くそ、居たのかよ。
まだ会社にいると思ったら屋敷に戻っていたとは。
俺の声が余程大きかったのか、部屋にやって来たのはババァだ。
「日本に帰る用事が出来た。俺は直ぐに戻る」
「日本での仕事を失敗したからかしら?」
「失敗だと? 全部順調だ。プロジェクトが起動に乗ってんのも報告に上がってんだろうが。何ボケたこと言ってんだよ」
「あら、まだ成功はしていないんじゃなくて? それより、明日は大事な商談があるのでは?」
訳の分かんねぇこと言いやがって!
「仕事は上手くいってるっつってんだろうが! それから明日の商談は延期にする」
「西田、そんなにアピールしなくても良くてよ?」
答えてやったのに、それを無視してまた意味の分からねぇことを。
なんでここで西田だ、と思いつつ西田を見遣れば、明日の商談に必要な資料をぐいっと前に押し出し、表紙をババァに見せつけるようにして持っている。
「あなたも司には甘いわね」
恐ろしいことにババァがクスリと笑い、西田から資料を受け取る。更に恐ろしいことに西田までもが笑った。
「ありがとうございます。楓社長が変わって下さるのでしたら、相手企業も文句などあろうはずがございません。これで安心して支社長を日本に帰すスケジュールが組めます」
何なんだ、この寸劇みてぇなやり取りは。
明日の商談を代われと言わんばかりの西田の態度に、怒りもせず当たり前に資料を受け取ったババァ。
まるで最初から代わるつもりだったみてぇに、そして西田もそうなると予想してたかのような一連のやり取り。
「司さん、あなたはまだ、私が望んでいる結果は出していないのではなくて? 商談は私が代わりに出るんですから、あなたは、あなたが日本に戻った本来の目的を早く達成なさい。牧野さんは会社とは関係なく、道明寺家にとって必要な女性です」
思わず、ぽかんと口が開く。
⋯⋯認めてくれてるのか、俺たちのことを。
「但し、私が代わってあげられるのはここまでです。後の諸々は自分で片付けてから日本に戻りなさい。⋯⋯今度こそ、失敗は許しませんよ」
背を向ける間際にも見せた穏やかな笑み。
気持ちの座りが悪いながらも、後ろ姿に声を掛ける。
「⋯⋯あ、あり、ありがとな」
ババァは振り返りもせずにそのまま出て行った。
有り得ない展開に暫し唖然とするが、いつまでもこうしてるわけにはいかねぇ。
どうやらババァも認めてくれたようだし、こっちの憂いは何もねぇ。牧野を堂々と迎えに行ける。
後は、本人である牧野を捕まえて説得するだけだ。
それから俺は滋に連絡を取り、商談にはババァが俺の代理で出席することを告げると、それ以外の仕事を徹夜で片付け、朝一でジェットに飛び乗った。
日本に到着し、真っ直ぐ牧野の住むマンションへと向かう。
しかし、何度部屋のベルを鳴らしても応答はなし。
寝てるだけかとも思ったが、牧野の携帯に掛けても電源が切られているのか繋がらず、嫌な予感しかしない俺は、直ぐに別の相手に連絡を取る。
「あきらっ! 直ぐに牧野のマンションに鍵持って来い!」
『あ、司? もう日本か?』
「さっき着いて、今、牧野のマンション来たが応答がねぇ! ここ、おまえの持ちもんだろ? さっさと牧野の部屋を開けろっ!」
言うだけ言って電話を切る。
⋯⋯牧野、部屋に居てくれ。
あきらを待つ間も不安しかしなく、刻む鼓動のリズムは異常に速い。
何も打つ手がなく待つしか出来ねぇ時間は途方もなく長く、限界尽きてもう一度せっついてやろうとスマホの画面にあきらを表示させた時、
「全くおまえは、言うだけ言って電話を切るな!」
あきらがマンションのエントランスに駆け込んで来た。
「遅せぇっ!」
「ふざけんなっ! 朝っぱら俺様全開、非常識な命令発動しやがって。俺のマンションでも鍵は管理会社預かりなんだ! 担当者叩き起こして、これでも急いで来てやったっていうのに!」
「煩せぇ! 早く鍵寄越せ!」
ったく! とぶつくさ言うあきらから鍵を奪い取り、オートロックを解除して牧野の部屋へと急ぐ。
部屋のドアも直ぐさま開けて二人して中に踏み込めば、
「牧野の奴、こんな早くから出て行ったのかよ⋯⋯司、心当たりは?」
部屋の中は無人だった。
────どこに行ったんだ、牧野。
落ち着け、冷静になれ、よく考えろ。
頭が真っ白になりそうになる自分に言い聞かす。
あいつなら、どういう行動を取る?
考えながら主の居なくなった部屋を見回す。
後で業者に任せるつもりなのか、部屋の中に並ぶ荷物が纏められた段ボール。
昨日まであきらの会社に出社していたことを考えれば、この部屋にギリギリまでいて荷物を片付けていたと考えられる。俺と行き違いになったか。
朝早くに出て行ったとして、治療を受けると言った牧野は、きちんと病気と向き合う覚悟をしたはずだ。
だとしたら、まずあいつが真っ先にすることは─────。
──────あそこだ。
「あきら、行ってくる!」
「おい、司! 行くって、心当たりがあるのか?」
「あぁ。きっとあいつはあそこにいる」
俺は牧野の部屋を飛び出した。
「司、牧野を頼む! 牧野を必ず連れて帰ってこい! 司なら大丈夫だ、頑張れっ!」
追い掛けてきたあきらの励ましを背中で訊く。
返事の代わりに片手を上げた俺は、急いで車に飛び乗った。
頼むから、そこにいろ。
俺が着くまで絶対に動くな。
真面目な牧野なら絶対に無視出来ない場所を目指す中、手を組み合わせ必死で願った。
✤
────きっと乗り越えられる。
見失っていた自分をきちんと取り戻すためにも、私はここから踏み出さなければならない。
現実を受け入れたんだから、きっと大丈夫。
そう言い聞かせながらやって来たのは、道明寺が刺された、港。
けれど、言い聞かせた暗示は全く効かず、胸の動悸が激しくなり足が竦んでしまう。
この場所から立ち直りたいのに、意思に逆らって身体が震える。
とうとう足の踏ん張りがきかなくなって、膝を折ってアスファルトに両手をついた身体は、金縛りにあったように動かない。
唯一、機能しているのが涙腺だった。
あの日の光景を瞼に映しながら、涙が次々と溢れては頬を濡らしていく。
道明寺を永遠に失うかも知れないと怯えたあの日に気持ちが舞い戻り、一瞬にして私の幸せを奪い取ったこの場所が憎く、哀しく、私をなかったことにしないで! と長いこと封印していた心が叫ぶ。
過去に気持ちが引きずられて涙を流しながらも、本当の自分をも理解した。
そうか、私はずっと泣きたかったのか、と。
涙が溢れる程の悲しみを無意識に憎しみにすり替えて、それを拠り所にしてきたなんて⋯⋯。
低劣な自分の人格に失望し、悲しみのあまり慟哭した。
「牧野!」
泣き叫ぶ自分の声の隙間に聞こえてくるのは、居るはずのない大切な人の声。
これも病気が訊かせる幻聴なのか。自分が正しく機能しているのかも、自信がなくなる。
「牧野!」
それでも止まらない声にゆっくりと振り返れば、
「⋯⋯⋯⋯どうして」
数メートル先。そこには紛れもなく、軽く息を弾ませた道明寺がいた。
「おまえな、あんな可愛い笑顔残して、一人でどこ行くつもりだったんだよ」
「⋯⋯どうして、ここに?」
NYに居るはずの道明寺が、私との距離を詰めて見下ろしてくる。
「おまえを捕まえるために決まってんたろうが。ったく、おまえは消えるのが趣味なのかよ。つーか、牧野。おまえ分かってねぇな。言ったろ、俺は。おまえの全部を全力で取り戻すって」
だからだ。だから怖くて一人になりたかった私は、道明寺の視線から逃げて顔を伏せた。
ずっと憎しみを抱いてきた自分を許せず、そんな自分の病気に道明寺を付き合わせたくはない。そう思ったのも本当だけど、同時に気持ちの中を駆け巡ったのは、恐怖だ。
道明寺の言葉を信じて、でもまた、私を必要としなくたったら?
形の見えない言葉に絶対はない。何の保証だってない。
あの日だってそうだった。
互いの想いを確かめ合って、二人一緒に生きていくことを信じて疑わなかったのに、あの日この場所で伸ばされた手を私は掴めなかった。
掴もうとした瞬間に道明寺は倒れ、私の幸せは夢幻となって儚く消えた。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
過去が呪縛となり私を臆病にさせる。
「牧野、もう一度俺を信じろ」
まるで私の心を見透かしたように道明寺が言う。
⋯⋯今度は違う?
信じても不幸は訪れない?
私は、その手を掴めるの?
未来を知ることなんて誰にも不可能なのに、胸の内で幼稚な問いを繰り返す私は、触れるアスファルトに熱を奪われていく自分の手を、じっと見つめるしか出来なかった。
✤
真面目な牧野のことだ。
治療を受ける気になったんなら、まず何をするか。そう考えたとき真っ先に浮かんだのは、事件があった、あの港。
きっと牧野なら、そこからまた始めようと考えるはずで、推測通り牧野はいた。
声を抑えようともせずに泣く姿は痛ましく、呼び掛けて振り返った顔は目も鼻も赤く、怯えているようにも見える。
『もう一度俺を信じろ』そう伝えれば、牧野は俺の目を避けるように下を向いてしまい口を噤んだ。
「なぁ、牧野。これから治療を受けるんだろ? だったら俺の傍にいろ。PTSDに一番必要なのは、不安要素を取り除くことだ。だったら俺が一緒に居た方が断然早く治るはずだ。俺は生きてるし、もう二度と怖い思いも、牧野を傷つけたりもしねぇ。約束する。
俺はおまえを一人にさせたくねぇんだよ。俺も牧野の傍に居てぇ。死ぬまでずっと」
「⋯⋯⋯⋯」
「牧野、おまえはどう思ってる? あの晩、俺に抱かれて何を思った? 確かめたんだろ、自分の気持ちを。俺はすげぇ幸せだった。二度と離したくねぇって、余計にそう思ったよ。⋯⋯おまえは?」
牧野はアスファルトに手も膝もついたまま、静かに首を振る。
「⋯⋯⋯⋯言いたくない。
私はあの日から、ずっと道明寺を憎んできた。毎日、道明寺の顔を思い出しては、絶対に見返してやるって、そう思い続けて生きてきたの。そんな私をどうして受け入れられるの? 私は⋯⋯、自分が許せない」
やっと口を開きはしたが顔は地面に落としたままで。牧野の瞳から流れた落ちた雫が、アスファルトに点々と幾つものシミを作る。
「なぁ。それってよ、よく考えてみれば、俺すげぇ喜んでいいとこじゃねぇか? どんな感情であれ、おまえは俺を一日たりとも忘れたことがなかったんだろ? そこまで牧野に思われてたんなら、俺としちゃ本望だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「牧野」
牧野は怖がってる。
俺が過去に傷つけてしまったばかりに。そして、牧野自身が自分を許せないがために。前に進もうにも心が怯むんだろう。
だから俺は何度でも言う。その恐怖を飛び越えられるまで。
「迷うな。俺のところへ戻ってこい。もう一度一緒にやり直そう」
「⋯⋯⋯⋯怖い。また道明寺に忘れられたら⋯⋯私を必要としなくなったら⋯⋯怖い」
アスファルトを見つめたまま、牧野の身体が震えだす。
類とここに来たときもそうだったように、夢と同じく、あの日の光景を思い出してるのかもしれねぇ。
「牧野、あの日の悪夢はもう終わった。あんな過去は二度と繰り返さねぇ。一人で怖がってるくらいなら俺のところに帰ってこい。おまえが怖くないよう、何度だって抱きしめてやる。時間を掛けて俺の想いを伝えてく。おまえの不安を俺が根こそぎ排除する。だから牧野、ここから動き出せ!」
俺は、数歩分ほどの開きがある牧野に向かって右手を差し出す。
12年前。
滋の島から戻った俺たちを待ち受けていたのは、数え切れねぇほどのマスコミで、揉みくちゃにされながらも、想いを確かめ合った愛しい女と離れて堪るかと、あの日もこうして手を伸ばした。
だからもう一度、俺はここからやり直す。
手を伸ばすだけで、決して自分から牧野に触れには行かない。
空を切り掴めなかった当時とは違うんだと分からせるように、小さな手があの日と同じように俺に向かってくるのを待つ。
今度こそ、その手をしっかり握りしめる、それを証明するために。
「おまえの手を絶ってぇに掴む。だから、俺が手を伸ばしたら、おまえは迷わずにこの手を取れ。あの日とは違う。恐怖をここで断ち切るぞ」
「⋯⋯あの日とは違う?⋯⋯悪夢は終わった?」
消え入りそうに呟く牧野に、「ああ」と力強く返す。
「俺は倒れねぇし、牧野を忘れたりもしねぇ。酷いことして傷つけたりもしねぇって誓う。ここにいる俺は牧野だけを愛するただの男だ。怖い思いなんて絶ってぇにさせねぇから信じろ!
もう一度、生き直すぞ、牧野。この場所から、二人で一緒に」
ぼろぼろ涙を流し、やがて牧野はゆっくりと立ち上がった。
「でも私、沢山、道明寺を傷つけた⋯⋯そんな自分を許せない」
「俺はもっとおまえを傷つけた。おまえが受けた傷に比べたら、俺の傷なんて蚊に刺されたぐれぇのもんだ。おまえが気に病む程のもんじゃねぇ。それに、奥底ではお互いを求めてた⋯⋯違うか?
俺はおまえが居なきゃ生きる気力も出ねぇよ。俺が死んだように生きてっても良いのか? なぁ、おまえも俺を助けろよ」
「⋯⋯私、意地っ張りだし可愛げだってない。⋯⋯それでもいいの?」
「バーカ。忘れたのか? おまえの意地っ張りなんて今に始まったことじゃねぇだろうが。そんな意地っ張りなおまえも、俺にとっては何より可愛い」
「それに⋯⋯、大人になった分、求めるものが大きくなったかもしれない。昔より、我が儘になってるかもしれないのよ」
「上等だ。俺を上回る我が儘でも言ってみろ。おまえに関してだけは俺の心は海より広い。何だって叶えてやる」
「それに⋯⋯。それに、意外と焼きもちやきかもしれないし」
「何のサービスだよ、それは。迷惑どころか、俺が大喜びじゃねぇか。どんどん妬け!」
俯きながらうじうじと語るのは、不安の表れ。その一つ一つを潰していく。
「何より、私⋯⋯」
「思ってることは全部吐き出せ。一人で抱え込むのはもう止めだ。全部、俺が受け止める」
「私⋯⋯。私⋯⋯⋯⋯、道明寺を幸せにしてあげられる自身がない。でも⋯⋯⋯⋯幸せになりたい」
風が吹けば簡単に攫われそうな儚い声だった。でも、俺がその愛しい声を聞き逃すはずがねぇ。
そしてその望みは俺の望みでもあり、絶対に叶えるに決まってんだろ。
「手を伸ばせ」
静かに言えば、牧野は迷った末に一歩足を踏み出し、震える手を怖々と俺へと向けてくる。
それでいい。早く俺の手を掴め。掴んだ先から、俺たちの幸せは始まる。
じっと待つ俺の手に牧野のものが触れた瞬間、俺は小さな手を強く握りしめ引き寄せると、自分の腕の中に閉じ込めた。
「ごめん。ごめんな、牧野。長いこと暗闇で迷子にさせちまって。もうそんな辛い思いはさせねぇから。絶ってぇ、この手は離さねぇ。だからおまえも俺の手を離すな。俺が牧野をこの世で一番幸せにしてやる。それが俺の幸せでもあんだよ。
これからは、おまえの心の内を一つ一つ訊かせて欲しい。俺もおまえに伝えてく。そうやって二人で確かめ合いながら生きていこう」
腕の中では、俺の名前を呼びながら牧野が泣きじゃくる。
しがみつく牧野の髪を撫でながら、俺の名を呼び続ける掛け替えのない女の耳元に「愛してる」と言っても言っても足りねぇ想いを繰り返す。
鳴き声が一山越えたところで抱きしめていた腕を解き、牧野の頬を両手で包み込んだ。
「見ないで⋯⋯。酷い顔してるから」
顔を背けようとする牧野をそれでも逃がさない。
「ずっと長いこと一緒に居られなかったんだ。穴が空くほど見たって良いだろ? こんな綺麗な女、見たことねぇよ。
⋯⋯愛してる、牧野。おまえは俺の全てだ」
逸らそうとしていた力を抜き、牧野が俺の目をしっかりと捉える。
「私も。もうずっと前から⋯⋯道明寺だけを愛してた」
愛しい声に乗せて伝えられるのは、ずっと欲しくて堪らなかった牧野の心。
「一緒に病気を治すぞ。どんなことがあっても、ずっと俺が牧野の傍にいる」
「⋯⋯道明寺」
見つめ合う俺たちは、引力に引き寄せられるように唇を重ね合わせた。
深く、長く。今までの時を埋めるように、互いの気持ちを触れあう唇に乗せる。
亡霊の如く付きまとい運命を翻弄したこの場所から、俺たちの歴史は再び動き始める。
もう一度、ここから時を刻もう。
手を伸ばせば、互いに大切な相手がそこにいる。
伸ばされた手を、もう決して掴み損ねはしない。
────誰よりも、愛してる。
唇を合わせながら、愛しい女の小さな左手を、解けないようギュッと握りしめた。
【手を伸ばせば…… fin.】

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これにて完結です。
後日、改めまして『あとがき』にてお礼を申し上げたいと思いますが、一足先にこちらから⋯⋯。
最後まで読んで下さいました皆様、この3ヶ月、本当にありがとうございました!
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