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手を伸ばせば⋯⋯ 34



類が帰国してから数日後の今日は、誰一人欠けることなく全員が集まり、類の帰国祝いをしているところだ。
久々の全員集合は、酒が入るごとに騒がしくなり、特に司の周りは騒音レベル。
何でも、類が帰国したその足で、司のところではなく牧野の元へ直行したとかで、司と類はずっと言い合いをしている。

といっても、煩いのは司ただ一人で、類の声はいつも通りだ。
だが、類も引かない。寧ろ、司をおちょっくているんじゃないかとさえ思う。
司がギャンギャン喚いている途中でも、わざとか? ってほど完璧な王子様スマイルを引っさげて、牧野に話しかけたりする。当然、司は激怒だ。
残念ながら昔と違って牧野は、世間の女性が釘付けになるだろう類の笑顔にも、頬を染めたりはせず動じないが、そんなものは司には関係ない。

「いんちき臭せぇ笑顔を牧野に見せんな!」

と、いちゃもんを付け、類に簡単にあしらわれては、また怒るを繰り返す。
類が無視で応戦すれば、八つ当たりは決まって俺に横滑りしてくるわけで⋯⋯⋯⋯俺って、何だか可哀想だ。

「美作さんも損な役回りですよね」

猛獣から逃れて端っこに移動してきた俺。
そんな俺の傍に来た桜子が、同情するように苦笑する。

「でもきっと、みんな感謝していますよ?」

本当かよ? 
疑う気持ちが顔に出ていたんだろう。桜子がクスッと笑った。

「みんな素直じゃない人たちばかりですから分かりづらいですけどね。
先輩だってそうです。美作さんが日本に呼び戻してくれて、とても感謝していると思いますよ。じゃなきゃ、こうして道明寺さんと再会出来なかったわけですから。先輩は、ずっと道明寺さんに会いたかったはずです」

桜子は、牧野が司に会いたがっていた、そう思っているのだろうか。
ある側面においては、確かにそうだと思う。見返したいっていう、負の感情を理由にして。
でも今の桜子の言いぶりは、それとは逆で、まるで牧野の気持ちが司にあるようにも聞こえる。

「牧野は、司を恨んでるかもしれない。俺はそう思ってた。本音にあるのは、見返したいって気持ちなんじゃないかって。桜子は違うと思ってるのか?」

本心を吐露すれば、桜子は牧野や司のいる方を見つめた。

「美作さんが言うとおりだと思いますよ」桜子は肯定して続ける。

「先輩は、きっと道明寺さんを恨んでる。見返したいほど、憎んでいると思います」

桜子の視線を追うように、俺も牧野たちへ視線を向けた。

「でも、何だかんだ言って司と一緒にいるし、少しは牧野の気持ちも変わったと思いたいがな」

「美作さん、紙一重なんですよ。
⋯⋯先輩は、憎しみの分だけ道明寺さんを愛しているのだと思います。少なくとも私はそうでした。愛しているからこそ、それ以上傷つかないよう、憎むことで自分を守るんです。だから余計に頑なになる。傷つかないための防御なんですから、そうでなければならない。
今の先輩は昔の私に似てる気がするんです。私の場合、そんな歪んだ世界から救ってくれたのが、先輩でした」

桜子は誤魔化すように酒を口に含んだが、覗き見た桜子の瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。

桜子の話には説得力があった。
幼い頃、初恋である相手からの心ない言葉で傷を負った桜子。その相手こそが司で、司を自分に振り向かせ、本気になったところで捨てるつもりでいていたという過去を持つ。
そんな屈折した愛情を持ったことがあるからこそ、桜子の言葉は重い。

「今の牧野も、昔の桜子と同じだと⋯⋯?」

「残念ながら、似てると思えてなりません。
でも私は意地っ張りで、反面、どこまでも真っ直ぐな先輩にもう一度会いたい。
それは簡単にはいかないかもしれませんけど、それでも、いつかそんな日が来ると信じて、私は距離を取りつつ影ながら見守るつもりです。それしか出来ない自分が情けないですけどね。多分、私みたいのが近くに居すぎると、見透かされているようで先輩も嫌だと思うんです」

⋯⋯桜子。
牧野を慮る桜子の思いが遣る瀬ない。
もし、桜子の言うとおりだとすれば、牧野は愛憎の狭間で藻掻き苦しんでいるのかもしれない。そう思うと、ますます救ってやりたくなる。可愛い後輩のためにも。
だが、人の心は単純じゃない。幾重にも折り重なった複雑な思いが胸中に存在したりもする。
そう簡単にはいかないかもしれない、そんな不安が胸に去来した。


しかし、俺たちは分かっていなかった。
牧野が負った傷は、思っているよりも遥かに深刻だってことに。
想像もしないところで苦しんでいるのを、俺たちはまだ、誰も気づいてやれないでいた。







大河原専務からのスカウトを受け日本に来てからというもの、怒濤の日々を送っている。
今日もプロジェクト関係者への説明があって、午前中から外を飛び回っている状況だ。
太陽が照りつけるこの時期は、少し外を回っただけで気分が憂鬱になるが、しかし今日は違った。
行動を共にするつくしがいる。誰の目もない二人きりで。

午前中の予定を終わらせ、午後からの訪問に合わせての時間的な流れで、俺たちは一緒にランチを取り、今は食後のコーヒーを飲んでいるところだ。

「日本に来て初めてだな。こうしてつくしと一緒に食事をしたのは」

おかしなことを言ったつもりはないが、つくしは僅かに眉根を寄せた。

「日本に限らず、NYでも一緒に食事をした記憶はないけど」

ああ、そうか。
覚えていないのか、つくしは。

「⋯⋯確かに、そうだな」

本当は二度ほど食事をしたことがある。今日みたいに、一緒に仕事を組んでいる時に。
俺は、どこの店に行ったのか、つくしが何を食べたのかまで覚えているのに、つくしには記憶にすら残らなかったってことか。

「つくし、訊いても良いか?」

「何?」

「なんで言わなかった? 道明寺支社長と知り合いだって」

ずっとつくしと話したかった。
こっちに来てから五ヶ月が経つというのに、なかなか二人きりの時間は作れず、仕事以外でこうしてゆっくり話すのは、初めて俺が道明寺HDに挨拶に行った日以来だ。

「⋯⋯いちいち話すほどのことでもないでしょ」

つくしがこの話題に触れたくないのは態度から分かる。
でも俺は、敢えて気づかない振りをした。

「そうか? NYに居るとき、俺の部屋で支社長の話したことがあったよな? あの時、なんで言わなかったのかって、今にして思えば不自然に感じてさ」

「佐々木さんが、そんなに人に興味を示す人だとは知らなかったわ。私が何も言わなかったのは、面倒だったから。知り合いってだけで色々訊かれても疲れるだけだし」

それが本心なのか?

「本当にそれだけか?
⋯⋯つくしと支社長って、昔付き合ってたんだろ? おまえが唯一愛した男が支社長だって訊いた。俺はてっきり、別れた男を思い出すのが辛いから何も言わなかったのかと思ったよ」

コーヒーを一口飲んだつくしは、カップをソーサに静かに置き、俺に冷たい視線を向けた。

「一体、何が訊きたいの? 何を言わせたい? 回りくどいのは好きじゃないの。言いたいことがあるなら、はっきり言って」

なら言ってやる。
訊きたかったことも、今までひた隠し絶対に明かさなかった本音も含めて、まるごと全部。

「あの男が忘れられないのか? あの男を今でも好きか? あの男と今付き合っているのか? もう寝たのかよ?⋯⋯⋯⋯俺はおまえと割りきった関係でいたくなかった。俺は本気だったって、気づいてたか?」

捲し立てた俺を見るつくしは、無表情のまま言う。

「今の質問、全部『いいえ』よ。⋯⋯⋯⋯悪かったわ」

最後に付け足された小さな謝罪。
それは心から言っているように思えて、胸が痛い。

「謝るなよ。わざと気づかれないようにしてたんだから。知ればつくしは俺から離れる。それをさせないために計算してただけだ。でも、卑怯な真似はもう止める。あんな歪な関係じゃなく、俺はつくしの全てを受け止めたい。今度こそ大事にする。だから俺の元に来ないか? 今すぐ決められないんならそれでも良い。俺はいつまでだって待つ」

「待たないでいい」

間髪入れずの早さだった。
つくしが立ち上がり伝票を掴む。

「もしかして、支社長に何か言われたか? 俺のとこへは行くなとか、支社長なら言いそうだ。俺たちの関係、支社長にバラしたし」

つくしの動きが一瞬止まる。その隙に伝票を奪い取り、俺も席を立った。
つくしは何も答えない。
支社長から何も言われていないのなら否定すれば良いだけなのに、それをしない。
逆に何か言われているのだとしたら、支社長の指示通りに俺を拒絶した自分を認めたくないのか、だから肯定も出来ないのか。
この質問だけ、つくしは最後まで何も答えなかった。







この二ヶ月、牧野との食事に行く回数が減った。
仕事が忙しいってのもあるが、大きな原因は類だ。
あいつが帰国してからというもの、牧野に食事を誘うも、3回に1回は類に邪魔されるようになった。
俺が誘いを掛ける前に、類が涼しい顔して牧野を掻っ攫ってく。牧野と過ごすために、こっちは必死になって時間を遣り繰りをしてるってのに。
勝手ばっかすんじゃねぇ! と怒鳴りつけたこともあるが、

『牧野は司の彼女じゃないじゃない。司に文句言われる筋合いないんだけど』

これまた涼しい顔でムカつく正論を吐く。
それを言われたら俺が何も言えないと思って、どこまでも類はマイペースを崩さねぇ。
再会した頃より冷たさが薄まった牧野と、より一層距離を詰めてぇって思うのに邪魔ばっかしやがって。
まぁ、時々は、冷たい目と辛辣な言葉が氷の剣となって、俺の胸をぐさぐさと突き刺し抉ってくるが、以前程じゃねぇ。

再会してから半年。少しは牧野の気持ちも上向きに変わってくれたんじゃねぇか。そんな一縷の望みを懐くと同時に、俺は焦り始めてもいた。

プロジェクトチームには佐々木がいる。あの男が牧野を諦めていねぇのは明白だ。油断できるか。
それだけじゃねぇ。取引先に行けば、息子の嫁にと牧野に見合いを話を持ってくる狸親父ども。
人が折角、牧野と週刊誌に取り上げられるよう仕向けてるっていうのに、牽制しても諦めない奴らがいる。

そして、最強のライバルが類だ。
牧野と類が一緒にいる。そう思うだけで、俺の胸は荒れ狂う。
嫉妬、不安、脅威。様々な感情が入り乱れ、牧野を奪われるんじゃねぇかって、いつも俺はどこかで怯えてる。
昔から類に対してだけは駄目だった。どう頑張っても乱れる気持ちを抑えきれない。
俺にとっての類は、畏怖すべき相手。
だからって、尻込みするわけにはいかねぇ。負けるわけにはいかなかった。
今度、牧野と食事する時間が取れたら、改めて真剣な想いを告げるつもりだ。
そして牧野の気持ちも、もう一度確かめる。
玉砕するかもしれないが、そん時は、また這い上がってぶつかればいい。
18歳の俺も、そうやって何度も追いかけ回して牧野を手に入れたんだ。
今回だって諦めはしない。
他の男には渡さねぇ。牧野だけは、絶ってぇに。

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  • Posted by 葉月
  •  4

Comment 4

Sun
2021.07.11

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2021/07/11 (Sun) 13:59 | REPLY |   
Sun
2021.07.11

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2021/07/11 (Sun) 17:21 | REPLY |   
Sun
2021.07.11

葉月  

あ✤ 様

こんばんは!

そんなウザいなんて思わないですよ!笑
寧ろ、前回も今回もこうしてお付き合い頂けて、私の中には嬉しいしかありません(*´꒳`*)

今回は香水をつけていたつくし。
前回はつけてないんですよね。
でもつくしは、司からのプレゼントだとは、多分思っていないと思います。
分かった瞬間、つけなくなりそうです!笑

私も、あきらが振り回されて心配しております⋯⋯、特に頭皮の心配が(¯∇¯٥)
どうかこの先もあきらの毛根がご無事でありますように⋯⋯。

昔から今に至るまで、本当に素敵な書き手さんが多くて惹き込まれるお話が満載です。
モチベーションを維持して書き続ける難しさは身に沁みて分かってはおりますが、未だにまた読ませて頂きたいなと思う書き手さんもおりまして、私もいつまでもひっそり待ち続けたいと思います!

コメントありがとうございました!

2021/07/11 (Sun) 20:59 | EDIT | REPLY |   
Sun
2021.07.11

葉月  

パ✤✤✤✤ 様

こんばんは!

ご報告ありがとうございます(*´艸`*)
一気に読み返して下さったとは!
かなりの時間を要したのではないでしょうか(汗)
貴重な時間を割いて下さり、なんとお礼を申し上げれば良いのやら⋯⋯。本当に感謝しかありません。

挙げられたお話も、いずれは形になれば良いな、とは思っているのですが、果たして本当に形に出来るかどうかは、私にもまだ謎でして(;・∀・)
いつか、書けそうだ!と思える日が来ましたならば、報告致しますね。
そして、可能な限りは続けられるよう頑張ります!!

コメントありがとうございました!

2021/07/11 (Sun) 21:01 | EDIT | REPLY |   

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