fc2ブログ

Please take a look at this

手を伸ばせば⋯⋯ 28



エレベーターの扉が閉まりかけたところで、

「てめぇら、ふざけんじゃねぇーっ!」

強引に扉をこじ開け、何とか牧野たちが乗る箱に滑り込んだ。
ったく、俺を置き去りにしやがって。

「おまえら、先に行くことねぇじゃねぇかよ!」

「司が考え事してたようだから、気を利かせてやったんだよ」

あきらの奴め、しれっと言いやがって。
その割には顔がニヤついてんだよ!

だが、今はそんなことはどうだっていい。
問題は牧野だ。
昔から俺にとっちゃ抜群に可愛い女だったが、今じゃ洗練され、誰もが目を惹く美しさだ。
こんなに着飾れば更に輝きは増すばかりで、大勢の客が集まるパーティーの中でも埋もれるはずがねぇ。
ぜってぇに、目をギラつかせたヤロー共が群がってくる!

「牧野、いいか。良く訊け。今夜は充分に気をつけろ。下心満載のヤロー共がいるかもしんねぇからな。絶対に油断すんな。つーか、おまえは男と一言も口を利くなっ!」

「⋯⋯⋯⋯」

前方の閉じられた扉を見つめたまま、牧野は何も言わない。
⋯⋯無視か。

「なぁ、牧野。訊いてんのかよ」

「⋯⋯⋯⋯」

「怒ったのか? 心配なんだよ、俺は。何とか言ってくれよ」

「支社長から男とは喋るなと指示されたので喋りません」

「ばっ、バカ! 俺はいいんだよ、俺とは話せ! 寧ろ、率先して話しろ! 
くそっ、マジで心配だ。本当に気をつけろよ? 
あきら、しっかりガードしとけよ! 俺は身動き取れるか分かんねぇし」

「安心しろ。牧野はうちの大事な社員だ。悪い虫が寄りつかねぇよう目を光らせとく」

マジで気が気じゃねぇ。
幾ら今の牧野には隙がねぇっていったって、あの手この手で近づく輩はいる。
だが、今夜は俺は主役の身。自分勝手に動くにも限度がある。
心配はつきねぇが、ここはあきらに委ねるしかねぇ。

「マジで頼むわ」

頼むと同時に、エレベーターがパーティー会場のあるフロアに着く。
降りると直ぐに駆け寄ってきたムカつくガキ。向かっ腹が立つが、ガキにひと睨み入れるだけに止まり、主催者側の入り口から入らなきゃなんねぇ俺は、牧野たちと一旦別れるしかなかった。







「松野、待たせたな」

俺たちを見つけ駆け寄ってきた松野は、昼間叱ったせいか、遅刻もせずに先に来ていたようだ。

「副社長、牧野さん、お疲れ様です。それにしても牧野さん、凄く綺麗です! 眼福の極みです! いつもいつも綺麗だと思ってはいましたが、今日はより一層綺麗で────」

「松野、いつまでも見惚れるな」

延々と喋りそうな脂下がる松野を食い止める。
暴れ出しかねない危険な男がいるんだ。気をつけてもらわなきゃ困る。

「すみません! そういえば副社長、今、道明寺支社長に睨まれた気がしたんですが、自分、何か失敗でもしましたでしょうか」

「気にしなくていい。あいつは昔から目つきが悪い。但し、今夜は色んな奴が参加してるから、大人しくしてろ」

松野も司に目をつけられるとは運が悪い。
睨まれただけで済んだ幸運を感謝するべきだが、牧野を好きでいる以上は避けられない受難だ。せいぜい、睨み以上の制裁を受けぬよう、大人しくしてくれるのを祈るばかりだ。

「いつまでもここにいてもしょうがないな。会場入りするぞ」

こんな所で食っちゃべっていたら、どこで見てるか分からない司が、いつ松野に因縁を吹っ掛けてくるか分かったもんじゃない。
人の多い会場に紛れ込んだ方が得策だ。

中に入れば、道明寺次期後継者の支社長就任の祝賀だけあって、歴代の司主役のパーティーの中でも群を抜いた盛大さだ。
煩いのがスタンダードな松野も、豪華絢爛な場に完全に呑み込まれ、すっかり大人しくなっている。
が、おまえの場合はそれで良し。ずっと萎縮したまま口を閉じとけ。

会場の中は、知り合いを見つけるのも難儀なほど、溢れかえる人、人、人。
そんな中、男たちの目が牧野に注がれるのを目敏く確認する。

⋯⋯これは、本気でまずいかもな。

「牧野、極力俺から離れるなよ」
「はい」

司じゃなくとも心配になる、牧野に送られてくる熱視線。
これは気が抜けない、と気を引き締めながら人並みを縫うように歩いているうちに、総二郎たちが俺たちを見つけ合流する。
いつものメンバーも牧野の美しさに感嘆し騒ぐ中、いよいよパーティーは始まった。

司のお袋さんのスピーチを皮切りに、主役である司へと流れ、乾杯の音頭が取られるまで30分ほど。

大変なのはこれからだ。
何なら、いつまでもスピーチしていてもらいたいくらいだが、そんなのは無理な話で。乾杯が済むや途端に人が動き出し、壇上から下りた司を見やれば、我先と集まった狸親父や着飾った女どもに、早速取り囲まれている。
記憶を取り戻してからというもの、高校時に退化したようにガキっぽい振る舞いも少なくない司だが、人目のある場所では流石の貫禄。日本支社のトップに相応しい対応で捌いているようだ。
まぁ、内心は気が気じゃないだろうが。
証拠に、俺たちがいる方へとチラチラ視線を向けてくる。

その内に、俺の元にも挨拶にやってくる者が後を絶たずとなり、いつの間にか総二郎たちとも距離が出来ていた。

牧野は言われた通り俺の傍にいたが、時間が立つにつれ出来る僅かな隙。そこを見逃さなかった男たちが、果敢にも攻め込み囲まれてしまう。
俺が近くにいるにも関わらず牧野に話し掛けるとは、良い度胸だ。
きっとこいつ等は、虎視眈々とチャンスを狙ってたに違いない。

挨拶に来た取引先を邪険にも出来ない中、気ばかりは牧野に向かうが、しかし、必要以上に心配し過ぎだったか。
視界の端で確認する限りでは、余分な愛想のサービスはないが、微笑はキープ。俺が思っていたよりも、卒なく対処しているようだった。

それもそうか。
何かとパーティーが多い海外に居たんだ。仕事の延長線上で、きっと牧野も幾度となく参加してきたはず。
言い寄られるのも、それを躱すのも、慣れているのかもしれない。
だからと言って油断は出来ない。
何せ、俺の方にまで牧野を紹介してくれ、と言ってくる者まで現れる始末だ。
そこはしっかり、「F4全員が大事にしている後輩を紹介しろと?」と威嚇し蹴散らしてるが、プロジェクト始動を世間に発表すれば、益々、牧野の注目度は上がるかもしれない。

仕事は有能、おまけに美人。
今の牧野は何処に出しても自慢できる存在で、そんな女を嗅覚に優れた者たちが放って置くはずがない。
何も出来ないお飾りのご令嬢より、よっぽど欲しくなるってもんだ。

そう考えると、司はこの先も大変だ。
気がかりは増える一方で、苦労するのが目に見える。
今でさえ、男と喋るなとか偉そうに言うくらい神経を尖らせてるんだ。
尤も、指図する権利なんて今の司は持ち合わせていないはずなんだが、そんなもん気にもしちゃいない。
牧野は寄りを戻す素振り一つ見せていないのに、大した厚かましさだ。
牧野からしてみれば、近づく男に気をつけろと言うのなら、その第一筆頭は司だろうに。

だが、そんな司だからこそ、とも思う。
周りを鑑みずの人並み外れたパワーと、常識を覆す思考回路。そして、打たれ強いメンタル。それらを以て根気良くぶつかれば、牧野は変われるんじゃないかって。

仕事は出来るし、美しさを備え持った牧野は、完璧なようでそうじゃない。失くしてしまったものもある。牧野の核である、大事な感情を⋯⋯。
歪となった牧野の欠けたピースを嵌められるのは、司だけなんじゃないか。何だかんだ言って、俺の思考はいつもそこに着地する。
喩え、牧野が司に対して憎しみを抱いていようとも、司ならそんなものさえぶち壊すかもしれない。期待込みでそう思ってしまう。

「副社長」

どうやら思考に溺れすぎていたようだ。
自力で男たちを蹴散らしてきたのか、いつの間にやら背後に牧野がいて、耳元で呼ばれる。

「どうした? 何かあったか?」

「いえ。化粧室へ行ってきますので、少し場を離れます」

「分かった。トイレには俺もついて行く」

牧野の表情が無になり人形のように硬くなる。

「セクハラですか?」

「バカ、何言ってんだ! 俺は心配で⋯⋯、」

「本気で遠慮します」

まさかのセクハラ疑惑。
人の気遣いを、言うに事欠いてセクハラだと!? 
文句の一つでも言ってやるつもりが、牧野はさっさと踵を返してしまう。
待て、と後に続こうにも取引先の社長に捕まり、追うのは敢え無く失敗。

⋯⋯本当にあいつ、一人で大丈夫かよ。

段々と遠ざかっていく後ろ姿。
平然とセクハラ扱いする失礼極まりないない奴ではあるが、会場の外へ一人で行かせるのは、やはり気が気じゃなかった。







既に人酔い。
一息つきたくて抜け出して来たけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
纏わりつく憂鬱を振り払えないまま、化粧室を出て会場へと向かうが、気持ちと連動した足取りは重く、自然とスピードは遅くなる。
悪足掻きのように時間稼ぎをしていると、

「牧野様」

名前を呼ばれて振り返った。
道明寺の第一秘書、西田さんだ。
嫌な予感に包まれながら、挨拶をする。

「お疲れ様です」

「牧野様、本日は、お忙しいところありがとうございます」

「いえ。あの⋯⋯、私に何か?」

「はい。実は、楓社長が牧野様にお会いしたいと申しておりまして。お時間は取らせません。ご一緒願えますでしょうか」

予想通りだ。
何らかしらの形で接触してくるんじゃないか。招待を受けた時から警戒は頭の片隅にあった。

話したいことなど一つもない。
かと言って、逃げる理由もない。
私に会いたい理由など皆目検討もつかないが、断ったところで、また別の手を使われても面倒なだけ。

「分かりました」

厄介事はさっさと片付けるに限ると結論づけ、楓社長との面会を承諾した。


連れて行かれたのは、ホテルメープルの社長室。
促されて中に入れば、ソファーに座っていた道明寺楓社長が立ち上がった。

「お久しぶりね、牧野さん」

距離を詰め、通り一遍の挨拶を言う。

「お久しぶりです。本日は、ご招待頂きありがとうございます。また、この度のご子息の支社長ご就任、心からお祝い申し上げます」

何の意図があって呼ばれたのかは分からない。
挨拶が済めば楓社長の真意を図るべく、向こうの出方を待つ。

「あなたのご活躍は私の耳にも届いています。ここまで来るのには、かなりの努力をなさったのでしょう」

一旦、言葉を止めた楓社長は、私にソファーに座るよう勧め、互いに腰を下ろしたところで続けた。

「正直に申し上げると、あなたがここまで力をつけるとは思ってもみませんでした。そんな有能なあなたに、私は謝罪しないといけないわね。
過去に侮辱したこと、謝ります。あなたや、あなたの家族、友人をも巻き込んだ非礼の数々、本当に申し訳なく思っております」

一体、これはどういうわけなのか。不可思議な事態に困惑する。
鉄の女と異名を持つ道明寺楓が謝罪をし、そればかりか、かつては私を溝鼠とまで言った人が頭を下げてくる。
どういう意図があるのか探りかねて、取り繕う言葉も浮かんでこない。

しかし、初めから私の返事など期待していなかったのか、私が何かを言い出す前に言葉が紡がれる。

「今回のプロジェクトは、あなたの力が重要になって来るでしょう。
牧野さん。司のサポート、宜しくお願いします」

謝罪が済んだと思ったら、次はこれか。
狐につままれる心境ながら、今度は答えた。

「仕事に妥協は致しません。やるべきことをやるだけです」

生意気な返答にも関わらず、楓社長は顔色一つ変えない。

「そうですね。今のあなたなら、期待通りの結果を出してくれるでしょう。そんなあなたに、同じ仕事を持つ一人の女性として、先輩として、助言をさせて頂くわ。
私は、この厳しい世界で生き抜こうと決めた時、何よりも仕事を第一優先にしようと覚悟を決めました。
その結果は、あなたもご存知の通りよ。私は母としても一人の人間としても大事なものを失くしてしまいました。
自分が間違っていたと気付くには遅すぎましたが、気づけずにいるよりはましです。それを教えてくれたのは他でもない。牧野さん、あなたよ。
一つのことに囚われるあまり、大切なものを見失ってはいけません。間違いを犯すのは私一人で充分です。
私が伝えたいのは、それだけです」

本当にそれ以上に語るつもりはないようだった。
これは好意による発言なのか。考えあぐねて、

「肝に銘じておきます」

それだけ答え一礼し、社長室を後にした。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



  • Posted by 葉月
  •  2

Comment 2

Sat
2021.07.03

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2021/07/03 (Sat) 06:03 | REPLY |   
Sat
2021.07.03

葉月  

き✤✤ 様

こんばんは!

怪しかったですか?笑
つくしも戸惑うくらいですもんね。
楓さんに普通に労われても、何の罠だ、と寧ろ怖くなってしまうかと(;・∀・)
楓さんの本音や如何に!ってところですが、このあと判明しますので、また覗いてやって下さいね!

こちらこそ、連日お付き合い頂き心から感謝です。
今回もありがとうございました!

2021/07/03 (Sat) 21:17 | EDIT | REPLY |   

Post a comment