手を伸ばせば⋯⋯ プロローグ
どんな内容でも許容出来る方様のみ、お先に進まれますよう、宜しくお願い致します。
【プロローグ】
お互いの手を離すことはないと思った。
もう二度と離れはしないと⋯⋯。
喩え何かを失い、何かを犠牲にしたとしても、この手だけは離すまいと心に決めた二人の気持ちに、嘘はなかった。
磁石のようにどうしたって引き寄せられてしまう互いの想い。
そこに揺らぎはないと滋さんの島で確信したあたしは、身も心も道明寺に捧げ、一つに結ばれた。
自分にとってかけがえのない存在。
たった一人の人。
そう思い知ったあたしは、あんなに怖いと思っていた行為さえ恐れはなく、寧ろ、道明寺の全てが欲しかった。
あるのは恥ずかしさや緊張だけ。
それも愛する人に優しく触れられるほどに解け、そして、互いの肌から伝わる情熱に心は満たされていき、やがて激しい痛みの中で彼を迎え入れた時。こんなにも誰かを愛おしいと思ったことはない、そう痛感したあの日。
幸せだった。女として生まれてきたことに喜びさえ覚えた。
結ばれたことで余計に募る想いは限界を知らず、道明寺一色となったあたしは、何があっても絶対に道明寺とは離れない。そう誓ったのに⋯⋯。
どうして神様は残酷なのだろうか。
港に着いたあたし達を待ち受けていたのは、誰もが想像もしなかった現実。
鋭利な刃物が道明寺の体を貫き、満ち足りた幸せは突如として奪われる。
運ばれた病院の窓ガラス越し見る、血の気を失った道明寺の顔。
一度は停止した鼓動。
何度願ったか知れない。
連れて行かないで。
道明寺を連れて行かないで。
お願い、助けて。
その祈りが神に通じたのか、一命は取り留めたものの、願いには代償が必要だったのかもしれない。
神が見返りに奪ったもの。それは道明寺の記憶だった。
意識を取り戻した道明寺の中に、あたしはいない。
道明寺の生きる世界から、あたしの存在だけが、儚く消えた。
────刹那の幸せは泡沫の夢。
手を伸ばしても、もう掴むことは叶わない。

にほんブログ村
- 関連記事
-
- 手を伸ばせば⋯⋯ 2
- 手を伸ばせば⋯⋯ 1
- 手を伸ばせば⋯⋯ プロローグ