fc2ブログ

Please take a look at this

Darling Voice 2



「道明寺副社長、お忙しいのにいらして下さったんですね。私の為に嬉しいですわ」

なんつー勘違い女だ。
誰が、てめぇなんかの為に来るかよ。会社の為以外、理由なんかあるはずねぇだろうが。

「いえ、本日は、お招き頂きありがとうございます」

内心とは裏腹に、思ってもねぇ礼を口にしなきゃなんねぇ自分に反吐が出る。

「そんな、とんでもございませんわ。こんな素敵なお花まで送って頂いて、私、本当に嬉しくて」

口の端に軽く握った手を押し当て、しおらしい演技をして微笑する勘違い女は、逆の手に抱えた色取り取りの花束に、うっとりした視線を落とした。

俺が送ったもんじゃねぇ。
俺の秘書が事前に送ったもんだ。

『花束でも用意致しましょうか』そう訊いて来た西田に、『白菊でも用意しろ』と、指示した俺に逆らった、有能な秘書の仕業だ。

お陰で、目出度い勘違いに付き合わされる俺の身にもなれ。
第一、花如きで喜ぶ女じゃねぇだろが。
打算で表情の一つ一つを作り上げたって、腹に潜んでる黒いものがチラチラ見え隠れしてるようで、心底気分が悪くなる。

内面から出る美しさを持ち合わせた女を知ってる俺に取って、目の前で猫撫で声を出す女の存在は気味悪りぃだけだ。

まだ何やらほざいているのを受け流し、意識は遠く離れた牧野の元へと向かう。


牧野の奴、飲み過ぎてキョトキョトしてねーだろうな!?
牧野の甘い声に誘われ近づく男がいようもんなら、迷わずそいつを──────ぶっ殺す!




  Darling Voice Act2
      



「これはこれは道明寺副社長」
「どうも御無沙汰しております」

『他の方にもご挨拶したいので』そう勘違い女を言い包めて離れると、適当な相手と適当な会話で、こうして時間を潰す。

あの女の相手をするよりは、次から次と目の前に手を差し出してくる、喰えないオヤジ達の方がまだマシだ。

なのに、こうして何人ものオヤジ達と顔繋ぎをしてる間にも、あの女の目線はしつこく俺を追いまわしてくる。

視姦すんな!

女がうぜぇ。時間経つのが遅ぇ。牧野から連絡ねぇ。
心で嘆きながら、何度も時計を見ては時間を確認し、牧野からの着信もメールもない、あるのはあきらの名ばかりのスマホを眺めては、牧野の身を案じて不安ばかりが募っていく。

何も出来ないまま、ムカつくほどの女からの視線と、脂ぎったオヤジ達の顔の暑苦しさに堪え、ひたすら時間が経つのを待つしかなかった。




必要な挨拶も終わり会場を見渡せば、あの女の姿が見当たらない。

帰るなら今だ。

他の奴と談笑していた女の父親に近づき、微塵も思っちゃいねえ招待してくれたお礼と、今後も両社の友好関係を強調し握手を交わす。

娘がどうとか、この後もまた別の席を設けているとか、ごちゃごちゃ煩せぇクソ親父に、まだ片付けなきゃならない仕事があると告げて、足早に会場を後にした。



会場の外へ出るなりスマホのマナーモードを解除し、クロークに預けていたコートを受け取ると、吹き抜けとなっている2階のこの場所から、1階のエントランスへと続く大階段に向け、歩き出そうとしたその刹那。

「道明寺副社長、お待ちになって!」

どっから現れやがった、この女。

フロア一帯、分厚い絨毯が敷き詰められてるせいで足音は吸収され、気配を潜めて近づいてきた女は、鳥肌が立つほどの甲高い声を発して駆け寄って来ると、俺の腕に無断で触れた。
イライラを飲み込み最低限の挨拶を告げる。

「今夜はありがとうございました。申し訳ありませんが急ぎの用がありますので、私はこれで」

「少しくらいお話する時間を作っては頂けませんか? 私、ずっと避けられてる気がして……」

ほぉー。勘違い女にしちゃ、避けられてるって良く分かってんじゃねぇか。
なら、この手を放せ。

「今夜は時間がないものですから。また次の機会にでも」

「そのお言葉、信じても宜しいんですの? それとも、私断られているのかしら」

信じんじゃねぇよ、社交辞令だ。
断られてると思うなら、しつこく付き纏うな!
こっちは掛かってこない相手に、今直ぐにでも電話入れてぇんだよ。

本音をぶちまけたい俺を余所に、女の声が甘ったるいものへと変わった。

「今夜、この上に部屋を取ってあるんです。誕生日に一人だなんて……」

何処までもバカな女だ。

「それはどう言う意味でしょうか」
「嫌だわ、お分かりになるでしょう?」
「私には分かりかねますが?」

惚ける俺に、自由自在に扱えるらしい涙を薄っすらと浮かべ、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。

「女の私が、勇気を出してお誘いしてるんです。気持ちを察して下さい」

「残念ながら、ご希望には添えそうもありませんね。私には心に決めた女性がおりますので」

白々しくほざく女に、精一杯努力して平常の声を出して言ってやると、女の眉がピクリと動いた。
何が勇気だ。恥じらいなんて言葉も持ち合わせちゃいねぇくせに。

ここまで言えば、諦める賢い女であって欲しいと願った俺の期待はあっさりと崩れ、

「一晩だけでも良いんです。たった一度だけ、司さんとの思い出を頂けたら」

遠慮がちに触れていた腕に自らのを絡ませ、ちゃっかり名前で呼びやがる馴れ馴れしさ。布地で覆われている素肌は、本気で鳥肌が立つ。

「仕事がまだ残ってるんで。それに例え時間があったとしても、彼女を泣かせるような真似、私には出来ませんので」

「嫌ですわ。お互い子供じゃないんです。誰にも言ったりなんかしませんわ」

一度寝れば何とかなると思ってるのか。女は意味有り気に薄気味悪く笑う。
あまりの気持ち悪さに殴り倒してぇ衝動に駆られるが、暴力は駄目だと言った牧野の言葉が頭を過り、あいつの言いつけは絶対な俺は、苛立ちをギリギリのところで抑制した。

それを援護するように、タイミング良くポケットで着音が鳴る。

牧野か?

やんわりと女の手を振り解きスマホを取り出せば、そこには望んだ人物ではない奴の名前が表示され、思わず舌打ちしそうになるのを堪え、

「失礼」

勘違い女に一声掛け画面をタップした。

「俺だ。何かあったか?」

『おいおいおい、何かあったかじゃねぇよ。先に連絡して来たのは司の方だろ? しかも、ワン切りでな』

「何? トラブルだと?」

『え、何言ってんだよ』

「分かった。直ぐ社に戻る」

『はっ? なに意味の分かんねぇことを……もしかしてアレか? 新手の嫌がらせなのか? そうなのか?』

「とにかく、俺が戻るまで待機してろ」

『えっ、待機? つ、司? 待てって。一体何の話を───」

慌て出した電話相手の声が漏れ聞こえない内に電話を切る。

「すみませんが、社でトラブルがあったようなので、私はこれで」

「本当にお忙しそうですわね」

やっと諦めがついたのか、会社からの電話だと信じた女が大人しくなったのに安堵し、歩き出そうとした俺の数メートル先。
何やらガヤガヤと騒ぎながらエレベータを降り、大階段へと向う集団の中の一人に目が奪われ、安心したはずの胸は、またざわざわと音を立て始めた。

牧野の奴!……このホテルで飲んでたのかよ!

「2次会行くぞー!」

馬鹿みたく声を張り上げているそのグループの中に、目ざとく牧野を見つけた俺と同様、誰もこっちに気付きもしねぇのに、牧野だけが振り返り俺を捉えた。……はずだった。

「どうかなされました?」

ムカつく女の声を無視して、牧野だけに視線が釘づけとなる。

その視線に映るのは、牧野の腕からストールがハラリと落ち、それを拾ってやる一人の男と、「ありがとう」とでも返したのか、微笑む牧野。
しかもその男は、当り前な顔して牧野の肩にストールを掛けやがった。

アイツか? アイツが木村か?

つーか、牧野の奴。俺と目が合ったのに、驚きもせず表情一つ変えねぇで、何食わぬ顔してサラリと俺を無視してんじゃねぇ!

周りの連中に比べ、まともな様子の男と、その隣に並ぶ牧野。
酔っ払われていても、それはそれで心配だが、やたらと落ち着いて見える二人の雰囲気は、傍から見れば恋人同士にも見えなくない。いや、恋人そのものか。

一気に頭に血が上る。だから油断していた。

突然、目の前に出来る黒い影と肩に感じる重み。
それがどう言うことか理解し慌てて顔を逸らした瞬間。狙ってた場所とは違っただろう女の唇が頬に触れ、俺の中でプツっと筋が切れる音がした。

「きゃっ!」

肩に乗せられた手を乱暴に振り払うと、女が悲鳴を上げる。
こうなったら、こいつの親父の会社との友好関係なんて知ったこっちゃねぇ!

「俺が迷惑してるって分かんねぇのか!」

「っ!」

「あんたに興味なんて、これっぽっちもねぇんだよ!」

顔を引き攣らせながらもプライドを傷つけられたせいか、その眼の奥を怒りで漲らせた女を置き去りに、牧野達が下りて行った大階段を俺も急いで駆け下りた。





「副社長お疲れ様でした」

待たせてあった車の前で、西田が頭を下げ出迎える。

「おいっ、牧野見なかったか?」

急いで後を追ったのに、ホテルの外に出てみても牧野の姿は何処にも見当たらねぇ。

「牧野様でしたら、先程ご友人達と一緒にタクシーに乗られましたが」

「あっ? てめっ、それを黙って見てたのか!」

「一言二言、お話させて頂きましたが、牧野様もご友人とご一緒でしたので、それ以上は」

「友人なんかじゃねぇ!」

「失礼しました。うちの社の者達とご一緒でした」

「ただの男だっ!」

あの馬鹿! 何処行きやがった!
2次会か?
それともまさか、あの男と二人きりで何処かにシケ込むんじゃ……。

男に微笑んだ牧野の大人びた顔。
俺を全く気にも留めなかった、あの態度。
全てが脳裏に焼きつき心拍数が早くなる。

「牧野ん家に向かえ!」

車に乗り込んだ途端に怒鳴る俺に、白菊に引き続き、またもや優秀な秘書が逆らう。

「副社長、申し訳ございませんが社に一度戻って頂きます。確認して頂く書類がございますので」

「ふざけんなっ! 今はそれどころじゃねぇっ!」

「ですが、私も牧野様と約束をしておりまして」

「あん? 何をだ!」

「はい。残されている仕事を副社長にしっかり片付けさせるよう頼まれましたので、私も了承させて頂きました」

……それが約束だと?

俺に仕事をさせておきながら、自分は男と仲良くやろうって魂胆か!
一言二言交わした会話がこの理不尽な約束だなんて、んなの認められるか!

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。んなくだらねぇ約束なんて必要ねぇ! つべこべ言わずに牧野ん家に行けっ!」

「副社長がそう仰られるのでしたら仕方がございません。唯一つ、ご確認しておきたいことが」

「あ?」

イラつきを露わに西田を睨みつけても、怯むことを知らねぇこの男は、平然と口を開いた。

「もし約束が守られず、この大事な時期に仕事を放棄されるようでしたら、副社長とは暫く口を利くつもりはないと、牧野様がそう漏らしておりましたものですから。
恐らく、副社長の行動を推測した上での牧野様の発言だったと思われますが、それでも宜しいのかと思いまして」

「っ!……な、なに?」

牧野の奴、一体どう言うつもりだ!
自分は飲み歩き、恋人である俺にはまだ仕事をさせる気か?
呑気に仕事なんてやってる間に、あのヤローに手出しでもされたら……。

マイナスな想像が先行する俺を見透かしたように、言葉を付け足しながら西田が俺の答えを促す。

「牧野様が一緒にいられた者達が、どの部署の誰かなのかは私の方で把握しております。副社長が心配されるような社員たちではないと思われますし、牧野様のことですから、一度口にしましたことは必ずや実行されると思われますが、それでも牧野様の元へ向かわれますか?」

っきしょー! あのバカ女! そうやって俺を遠隔操作しやがって!

これが惚れた弱みかって思うほど、あいつの思惑通りに操られているのは分かっちゃいるが、時に甘く可愛い声で翻弄され、時に昔とは違う新たな怒りで俺を慌てさせる。

長い付き合いの中で、俺が受けるダメージが何なのか知りつくしてる牧野は、昔と違って俺に対する怒り方を変えた。

尤も、昔ほど喧嘩することも無くなったし、些細なことじゃ牧野は笑って受け流すのがほとんどだが、本気で怒らせた時、感情剥き出しで声を荒げたりはせず、静かに怒るようになった。

静かにブツブツ文句言うくらいならまだいい。
ただ黙る。ひたすら黙り込む。
つまりは、俺を完全無視で攻撃しやがる。

日本に帰国してから、一度だけ俺の嫉妬が原因で喧嘩になった時も、2週間ダンマリを決め込んだ牧野にへこまされた俺は、無条件降伏せざるを得なかった。

あいつ、あん時の俺のダメージを知ってて……っくそっ!

牧野に主導権を握られ腹が立っても、結局は牧野の誕生日が近いこともあって、最悪な状態を避けたい俺は、

「くそっ! おまえらの好きにしろっ!」

もう一人、俺の操り方を熟知していると思われる目の前に座る西田に、自棄グソ気味に言い放つしかねぇ。

「宜しいんですか?」

「てめぇら二人、結託してまで俺に仕事させてぇんだろうが!」

「結託なんて、とんでもございません」

嘘言うんじゃねぇよ。
今すぐ牧野を捕まえれば、何とかクリスマスを過ごすせるっつうのに、俺の邪魔しやがって。

これでもし牧野の身に何かあってみろよ?
お前の命もないと思え!

何食わぬ顔して眼鏡のフレームを指で押し上げる西田を、社に着くその時まで強い視線で威嚇し続けた。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



  • Posted by 葉月
  •  2

Comment 2

Sun
2020.12.27

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2020/12/27 (Sun) 13:32 | REPLY |   
Sun
2020.12.27

葉月  

ス✢✢✢✢✢✢✢ 様

こんばんは!

お気持ち分かります!
普段、私も坊ちゃんには何かと甘いですから、そういう目で見てしまうことも多々ありで……ってご存知だと思いますが(笑)
なので、全然大丈夫ですょ(*^^*)

お嬢様、仕掛けてきました。
司みたいなハイスペックな男性に声をかけるのですから、相当な自信と強靭な心臓をお持ちなのではないかと思われます。
しかし、そこは司ですから、そんなことで流されたりはしません。
どこまでもつくし一筋のようです。
なのに、つくしには逃げられ、仕事も待ち受けているようで……。
司にご褒美はあるのかどうか。
一つ言えるとしたら、不憫なあきらへのご褒美は何も用意されておりません。特別出演終了です(^_^;)

あとラスト1話となります。
引き続き宜しくお願い致します。

コメントありがとうございました!

2020/12/27 (Sun) 21:17 | EDIT | REPLY |   

Post a comment