Archive: 2023年02月 1/1
Lover vol.25

人を威圧するのに慣れた声。振り返ってその人を見れば、邪悪なオーラを醸し出し、鋭く冷酷な眼差しは、凶器にも見えた。二人で話していたときのように物憂げな雰囲気は跡形もなく、昔ながらの姿がそこにある。いや、たった一言発しただけで見るものを怯ませ、場を制圧してしまう姿は、昔以上の迫力だった。 Lover vol.25「っ、道明寺⋯⋯司」道明寺がいることに驚いたのか、それとも、凄まじい威圧感に呑み込まれたのか。恐らく後者...
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Lover vol.24

「そういえば、昨夜は姉がお世話になったようですね。ところで、今日は姉に何か? それとも私に用があって、こんな所までいらしたのですか?」普段は物腰の柔らかい進が、相手を牽制するように低い声を崩さない。「そんな怖い顔しないでくださいよ、牧野社長」進の背中に隠れている私には見えないけれど、どうやら進は、表情にも険しさを滲ませているようだった。 Lover vol.24「まさか、牧野社長までこちらにいるとは思ってもみ...
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Lover vol.23

「悪かった」重みある低音を道明寺が発したのは、二人並んで潮風に晒され、暫く経ってからだった。道明寺の謝罪が何を意味するのか、わかっているのに、「何の謝罪?」私は確かめるように、静かに聞き返した。 Lover vol.23「8年前、勝手に別れを告げ、おまえを傷つけた。悪かったと思ってる」白い気泡が混じった黒い海面を眺める私を、道明寺がそっと窺っているのを感じる。私は、視線を海に置いたまま何拍か刻んだのち、さっき...
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Lover vol.22

Lover vol,22桜子らしさとはかけ離れた弱い声に触れ、グラスを持ったまま狼狽えた私が繋ぐ言葉を探しているときだった。楽器の調整の音出しが始まり、会場が静まりかえる。「いよいよ、始まりますね」さっきのは何だったの? と思うくらい声も弾み、表情も輝きだした桜子に、ホッと胸を撫で下ろす。不意打ちで弱くなるのは勘弁してよ。焦るじゃないのよ。あんたが遠慮なくぽんぽん言うから、私だって気兼ねなく何でも返せるのに...
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Lover vol.21

Lover vol.21「ご馳走の前では、折角決めたクールな女も台なしですね」豪華な料理を満喫しているところに現れたのは桜子で、私の向かいに腰を下ろす。「で、先輩? 元カレと再会したご感想は?」いきなり真っ向勝負で切り出してくるとは、恐るべし。だけど、今はそれどころじゃない。目の前に並ぶ料理が、私を今か今かと待っている。友人との会話より、堪能したい欲と、堪能してやるって意地の方が上回って、桜子をチラッと見た...
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Lover vol.20

固唾を飲んで見守っていた俺たちの耳に聞こえてきたのは――――「道明寺、久しぶり。じゃあ、また」って、おい!!牧野、それだけかよっ! Lover vol,20通りすがりの邂逅。度を過ぎた淡泊さを以ての短い挨拶に、自然と口があんぐりと開く。怒っているわけでもなく、かといって特別感じが良いわけでもなく。抑揚がないと言ってもいい声で迎えた8年ぶりの再会は、俺が想像していたものとは全く異なるものだった。「あきら?⋯⋯牧野が司に...
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