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Archive: 2021年05月  1/2

手を伸ばせば⋯⋯ 12

初めは違う女かと思った。見間違いじゃないかと。車が渋滞に嵌り動かなくなったところで、何とはなしに窓の外を見ていると、一人の女が視界に入り、その後ろ姿に既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような⋯⋯。ショップのウィンドウを覗いている小さな背中。その背中が向きを変え、横顔が見えた時、既視感なんかじゃない。実際に知っている女に似ているんだ。と、即座にある人物が頭に浮かんだ。────牧野。だが、目に映る女は、...

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手を伸ばせば⋯⋯ 11

【第2章】「しかし流石だな、つくし。これでお前の評価もまた一つ上がったわけだ」今日、大きなプロジェクトが成功し、無事に終了を迎えた。今日に至るまで、自分は着実に力をつけている、そう実感している。それもこれも、何事にも気持ちを惑わされず、仕事のみに邁進してきた結果だ。当然、プライベートを楽しむことはない。楽しみたいとも思わない。ただ、気持ちの昂りが収まらない時や、心が波立つ時。割りきった相手と今みた...

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手を伸ばせば⋯⋯ 10

静まり返った図書室。最近、あたしが良く居る場所だ。学校に居る間の空いた時間は、ここでこうして、勉強に励むことにしている。勉強に適しているだけじゃなく、誰とも会話をせずに済むこの場所は、今のあたしにとって丁度良かった。誰かと話すのは煩わしい。苦痛でしかない。何より、誰かと話している時間が惜しかった。尤も、そんなに親しく話す知り合いは、今は居ない。同じ敷地内とはいえ、大学に進学した美作さん達とは、以前...

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手を伸ばせば⋯⋯ 9

携帯は未納なのか繋がらない。教室にもいない。非常階段にも姿はなかった。下駄箱に靴があるのは確認済みだから校内にいるのは間違いないのに、何故か牧野が捕まらない!となると、『美作さん、牧野さんなら、最近よく図書室に行ってるみたいですよ』と言っていた、牧野のクラスメイトの情報が正しかったか。俺は、別棟にある図書室を目指し、『だいたいが司の奴、何で今日まで黙っていやがったっ!』内心で不満を爆発させながら、...

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手を伸ばせば⋯⋯ 8

ソファーに移り、強めの酒を呷る。アルコールで喉をチリチリと焼きつけさせながら、必死で気持ちを落ち着かせた。チラリと視線を向けたベッドでは、女がまだ沈んだまま。シーツに包まれた体は身動き一つしない。決まりの悪さに視線を外した俺は、もう一度酒を流し込んだ。許せなかった。どうしても牧野が。滅茶苦茶にしてやりてぇ。そんな凶暴な衝動が湧き上がり、しかし危険な感情に隠れた本音は、他の男に取られたくねぇ、俺だけ...

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手を伸ばせば⋯⋯ 7

全てが今日で終わる。大丈夫、きっと大丈夫。ちゃんと終わらせられる。そうやって震えそうになる気持ちを引き締めながら、バイトが終ったあたしは今、道明寺邸へと続く通い慣れた道を歩いている。ここを歩くのも、今日が最後になるかもしれない。思えば、そもそもが釣り合いの取れていない二人だった。片や、世界に名を馳せる大企業の御曹司で、片や、超がつくほどの貧乏庶民。知り合えだけでも幸運で、一時だけでも、道明寺に想わ...

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手を伸ばせば⋯⋯ 6

久々に道明寺に会ったあたしは、気持ちが押し潰されそうになっていた。道明寺の憮然とした態度。素っ気ない言葉。今までのように怒鳴られないだけマシ、と気持ちを切り替えられたら良かったのだけれど、生憎とそんな器用には出来なくて。あたしとの関係を受け入れたくないがために、あんなにも不機嫌なんだろうと思えてならなかった。だけど、よくよく考えてみれば、道明寺の気持ちも分からなくはない。突然、刃物で刺され、記憶ま...

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手を伸ばせば⋯⋯ 5

あれから道明寺には会っていない。正直に言えば、怖くて会いに行けずにいる。道明寺に指摘されて初めて、自分がストーカーと変わらない行為をしていたと思い知らされて。だから、自分は道明寺とどういう関係にあるのか、きちんと打ち明けよう、そう思い至ったわけだけど。返って来たあの台詞のダメージは、相当に大きかった。『まさか俺が本気だったとか言う気か? あれだろ? 遊びだったんじゃねぇの?』言葉を受けて、血の気を...

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訂正です

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すみません。先に投稿した『手を伸ばせば⋯⋯4』ですが、何故だが改行が出来てないらしく、手直ししたのですが反映されません。こんなことは初めてなのですが、前のを一度削除して新たに投稿し直しますので、そちらをお読み頂けますよう宜しくお願いします。取り急ぎ、訂正のお知らせでした。...

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手を伸ばせば⋯⋯ 4

ハイエナを排除してから暫くした後、ドアが叩かれた。今度こそあの女、牧野だろう。「入れ」いつものように制服姿で現れた牧野は、「調子はどう?」と訊ねておきながら、「あれ?」と、俺の返事も待たずにキョロキョロと大きな黒目を動かし、辺りを見回して首を傾げる。「今日は誰も来てないの?」いつもは居るはずのクソ女が見当たらないからだろう。クソ女の正体はハイエナだったから退治した。そう正直に打ち明けるべきか悩んで...

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