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Archive: 2021年02月  1/1

エレメント 6

残業もなく約束の時間よりかなり早くホテル周辺に着いたつくしは、正面玄関には向かわず、ホテル内の庭園に繋がる門から入ることにした。このホテルは広い庭園が売りの一つだ。庭園をゆっくり散策しながらエントランスを目指せば、時間を潰せる。それに、都内とは思えない自然美が、気持ちを落ち着かせる効果を齎(もたら)してくれるかもしれない。小路を寄り道しながらのんびりと歩く。ぽつぽつと咲き始めた椿を見つけては立ち止...

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エレメント 5

予定より早く起きたつくしは、胸に抱えた錘のような重みを誤魔化したくて精力的に動いた。洗濯機を回し、その間に朝食と司用の昼食作りもやっつけてしまう。一日中晴れの予想である天気予報も確認済みで、シーツがあるために2回回した洗濯物も、天気を気にすることなくベランダに干した。流石に自分の下着だけは他と同じようにベランダに干すわけにはいかず、司の視界から守るように、風呂場の乾燥機機能頼りだ。過去に何度も見ら...

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エレメント 4

結局、司は余計なことは何一つ声に乗せなかった。チラチラと何度もこちらを窺う様子は見せたものの、互いに何も語らず黙々と食べ、『ご馳走さまでした』『おぅ』交わした会話は完食後のこれだけで、ただただ静かな夕餉(ゆうげ)となった。『美味しかった』などの社交辞令一つも言わない愛想なしの女に、司は気を悪くした風でもなく文句一つ付けてこない。どころか、食後に下げた食器を洗おうとすれば、「手伝う」と、仰天の気遣い...

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エレメント 3

居ても立っても居られず、キッチンへと引き返そうとすれば、「こっち来んじゃねぇぞ。大人しく座ってろ」威嚇じみた声が飛んで来る。流石は野生の勘を持つ男。こちらの気配に敏すぎる。仕方なくソファーに座ったものの心配しか生まれず、そわそわと落ち着かない。「鍋はどこだ。うん? これが鍋か?」訊こえてくる独り言がこれでは、不安の加速度は増すばかりだ。鍋の判別すら怪しいのに、大丈夫なのだろうか。「湯煎? 湯煎って...

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エレメント 2

玄関で自分に渇を入れてから、一直線に向かった先はキッチンで、水を入れた電気ケトルをセットする。沸くまでの間もじっとはしていられない。暖房を入れ、リビングに置いてあるお気に入りのアンティークポールハンガーに脱いだコートを掛けて、今度はバスルームに向かわなければと、無駄なく動線を進む。取りかかるべくは風呂掃除だ。隅から隅まで丁寧に磨き上げ、終わればお湯張りの自動スイッチを押し、つくしは腰を叩きながらま...

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エレメント 1

───ドクン。心臓が体に悪い跳ね方をする。息も一瞬止まった。全身の血が一気に足元に落ちていくようだった。大脳皮質に収められていた過去の記憶が、目まぐるしい勢いで甦ってくる。身を翻し踊り場の壁に咄嗟に隠れたつくしは、支離滅裂に思考を積み上げた。こんな所に居るはずがない。何かの間違いだ、疲れているからだ、階段を一気に三階まで駆け上がって来たせいで、脳に酸素が行き渡らずに見せた幻覚だ。呪文のように事態を否...

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ご報告

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こんにちは!『ラスト・リング』の最終話以来となりますが、皆様お元気でしたでしょうか?私はと言いますと、チマチマと新しいお話を書いておりまして⋯⋯。そのお話も漸く終わりが見えてきましたので、来週か、推敲に手間取れば再来週の可能性もありますが、準備が出来次第、少しずつではありますがアップしていきたいと思っております。10話ちょっとの中編となる予定です。久々の新しいお話で私も緊張しておりますが、宜しければま...

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