Archive: 2021年01月 1/1
ラスト・リング 7【最終話】

二人で過ごすために予め押さえていた、別荘から程近いホテルのスイートルーム。ベッドのサイドランプだけが灯る仄かな光の中、乱れた白いシーツの上には、つくしが沈んだまま。汗で顔に貼りついた黒髪を撫で流し、愛しい女の顔を見て一人胸の中で呟く。……また、やっちまったな。ベッドの背に凭れかかりながら、煙草の煙に溜息を乗せ吐き出した。時々、どうしようもなく堪らなくなる時がある。今夜はここ数日、桜子の事で自分まで遠...
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ラスト・リング 6

「一年も距離置いちまって悪かったな」「誤解を生む歪んだ噂もあったと思うけど、先ずは一之瀬さんとのプロジェクトを守るべきだと判断したの。それが、桜子が何よりも心配してたことだと思ったから……。辛い思いさせてごめんね」「なに言って……距離を置いたのは私だし、謝らなきゃならないのも私の方なのに」女二人の時間も終わり、全員がリビングに顔を揃えたところで、俺達は話をしていた。この一年を埋めるように、延々と……。 ...
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ラスト・リング 5

「降ろしてもらえませんか」運転してやってる俺を気遣うでもなく、助手席から愛想のねぇ声音が狭い空間を震わす。とっくに車は走り出してるっつーのに、ったく、諦めが悪りぃ。でも、桜子はそういう女だ。意地を張ってるわけじゃねぇ。自分の気持ちを押し殺し、そうまでしても守りたいものを守るため、突っ張って見せて一線を引いている。一年前の、あの時もそうだったように。「分かった」「……」「って、俺が言うとでも思ったか」...
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ラスト・リング 4

「いらっしゃい、美作さん!」「あっ! 牧野悪い。手土産一つ持って来なかった」「ヤダ、そんなの気にしないでよ。それより、寒いから早く上がって」恐らく、俺に土産を用意する余裕などなかったことは、バレバレだろう。実際、牧野の顔を見て漸く手ぶらなのに気づいた情けない俺は、促す牧野の好意に甘え、何年か振りに訪れた道明寺家の別荘に足を踏み入れた。司から全てを訊いて三日経った今日。オフィスに着くなり鳴り響いたプ...
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ラスト・リング 3

「───司………………司?」考え込むように口を噤んでいた司が、その声にパッと顔を上げ柔らかな笑みを見せた。「お、おぅ、悪りぃ」「どうかした?」「いや、何でもねぇ」「そう?」「あぁ」安心させるように、最愛の妻の頭を愛しそうに撫でてやる司。それに応えるように返って来るのは、優しい微笑み。いつもと違う夫の様子に戸惑っただろうそれを直ぐに押し隠し、「口に合うかは分からないけど、今日は一段と気合い入れて料理作っちゃ...
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ラスト・リング 2

どうせ失くすなら、いっそ全部失くなってくれ。何も感じない無になれれば、どれだけ楽になれるかしれねぇのに。何も怖いモンなんてなかったはずのこの俺が、胸の痛みが伴うほどの恐怖に襲われ、孤独な夜を独りで過ごすのも堪えられねぇなんて……。 ラスト・リング 2『相変わらず女取っ替え引っ替えしてるって? お前、いい加減にしとけよ』『司、こんなことしてたって意味ないだろ?』『………』何度も聞いた、溜息交じりのダチの...
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ラスト・リング 1

ベッドの上で身動き一つしない背中に、「また来る」そう一声掛けてからジャケットを羽織り、物音しない廊下を歩いて玄関へと向かう。靴を履き、ドアノブに手をかけ、何度も通ったこの部屋に未練を残しながらも足を踏み出そうとしたその時。背後に感じる気配に気付き、俺は動きを止め振り返った。「起きたのか?」透き通った肌に整ったパーツ。化粧を施さなくても十分に綺麗な顔に問い掛けてはみたが、返ってこない答えは訊くまでも...
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本年も宜しくお願い致します
少しだけお久しぶりです。昨年は、多くの方に読んで頂き、また支えて頂き、本当にお世話になりました。関東では、新年の挨拶をする時期も過ぎてしまいましたが、皆様、年末年始は健康に過ごされましたでしょうか。例年とは違う年越しや年始を迎えた方も多いと思いますが、年明け早々に緊急事態宣言が発令され、今年も忍耐を強いられる年となりそうです。初期の段階で、島国という利点を活かせる対策に打って出られなかったのか……な...
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