Archive: 2020年11月 1/2
Secret 35
キッチンから出てきた先輩の変化を取り逃さないよう、普通を装って観察する。「桜子、お待たせー。はい、どうぞ」「ありがとうございます、先輩」ニコッと笑顔で応えてくれるのは、いつもと変わらない対応だ。けれど、これから聞く話によって、ひび割れてしまうのではないかと、内心では緊張が走る。「ほら、つくしもさっさと食えよ」「うん、頂きます」道明寺さんに促された先輩が、椅子に腰を落ち着かせて食事を始めると、作って...
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Secret 34
いつもと変わらない朝。起きて直ぐのリビングで、昨日のパーティーが取り上げられているのかが気になり、普段ならこの時間には観ないテレビを点ける。番組から流れるのは、やはり昨日の私達だった。どれくらいそうしていただろう。朝の光が差し込む明るいリビングで、自分は身じろぎもせず茫然と突っ立っていたのかと、テレビを点けた時と同じ格好のままでいることに気づいたのは、随分と経ってからだ。画面の中では、コメンテータ...
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Secret 33
広いパーティー会場に入場した、一組の男女。お金に糸目もつけず着飾った多くの人々も、煌びやかな照明さえも、並んで入って来た二人に比べたら、全てのものが霞んで見える気がした。作られたものではない、慈愛に満ちた男性の眼差しは、きっと生涯一人にしか向けられない。それを当たり前だと決して思わない女性は、その眼差しをしっかりと受け止め、溢れる笑顔で見つめ返す。いつもより道明寺さんへも、先輩にも、寄り付いてくる...
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Secret 32
ウォーターサーバーから冷たい水を一杯グラスに注ぎ、窓際へと行く。「どうぞ、お水です」「……ありがとう」「いいえ」差し出した水を勢い良く飲み干した滋さんは、窓辺に立ったまま動こうとはせず、目の焦点を窓の外に置いて徐に口を開いた。「つくしが……、何か言ったの?」「何のことです?」敢えて惚けて躱す。滋さんが何を指しているかは、勿論分かっている。道明寺さんが、寝ている女性を運んだりするか否か。それを道明寺さん...
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Secret 31
リビングへ戻ると、誰もが口を閉じ静まり返っていた。滋さんの先程の様子からすれば、気安く話しかけるのは躊躇われたけど、このまま無言でいるのは、もっと気まずい。「みんなして、どうかした?」反応を示したのは類だ。「牧野。俺、明後日からフランスへ行くことになったんだ」フランス……あぁ、それで。と納得する。「出張? それで来週のパーティーにも来られないの?」「ううん、出張じゃない。フランス支社の重役ポストに就...
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Secret 30
いつもお付き合い下さいまして、ありがとうございます。厄介なお話ですのに、読んで頂けて本当に感謝しています。さて、13日に更新しました前回の29話ですが、ブログ村様にて、かなりの時間更新が反映されていなかったようです。ですので念の為、お読み飛ばしがございませんように、ご注意下さいませ。それでは、30話も引き続き宜しくお願い致します。久方ぶりに会うお義母様を玄関に招き入れ、頭を下げる。「ご無沙汰しております...
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Secret 29
「あ~、スッキリした!」トイレから戻って来る途中の滋に捕まり、引っ張られるように俺たちの元へ連れて来られたあきらは、今しがたの発言に盛大に顔を顰めさせた。潔癖なあきらからすれば、滋のデリケートからはみ出た発言は堪えらんねぇんだろう。「出すもの出したら、今度は水分補給かよ。全く、少しは女らしく出来ねーのか滋は!」「ニッシー煩い!」「お前の方が煩いって」戻って来た滋は、ジュースでも飲むようにアルコール...
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Secret 28
類がつくしの手料理をご馳走になるという今日。類が総二郎に自慢した結果、皆の知ることとなり、結局は我が家に久々の全員集合となった。皆が来るなら誰も欠けないように、と三条に伝えたらしいつくしは、恐らくは滋への配慮だ。その一言がなければ、今の現状を鑑みて、誰も滋の耳には入れなかっただろう。つくしが次々と作る手料理と、並べてある酒を勝手に手に取りながら、それぞれが話に花を咲かせている。まだ何やら作っている...
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Secret 27
帰宅して真っ先に向かった書斎室の前。着替えもせず、鞄も持ったまま向かった先では、ドアを開けなくても中からの声が漏れ聞こえてきた。「全く、これじゃ割に合いませんよ!」想像通りのキレようだ。そんなに興奮しなくても、と呆れながらノックをして中へと入った。「ただいま」「あぁ、滋か。お帰り。疲れてないかい? 」「大丈夫よ、パパ」「滋さん、お邪魔しています」「えぇ」書斎机に座るパパの対面に立ち、不機嫌面を隠そ...
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Secret 26
身じろぎもせず、心の内で一つの覚悟を固める。それは、いざ何があっても狼狽えないよう、気持ちを防御するために必要な覚悟とも言えた。やがてスタッフからの声がかかる。「つくしさん、そろそろ会場入りの時間です」「はい」「いいですか、つくしさん。今日は取材陣が大勢来ていますが、今回の新作の商品以外のお話は全てノーコメントです。何を聞かれても笑顔で切り抜いて下さいね? 私たちもガードしますから」黙って頷いた。...
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