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Archive: 2020年10月  1/2

魅惑の唇 7 【最終話】

────腰が重い。軟禁から明けた翌日、ベッドから半身を起き上がらせるなり感じる鈍痛。隣でまだスヤスヤと眠る司を恨めしく思いながら、体に鞭打ってベッドからゆっくりと這い出る。「ん? もう時間か?」「あ、起こしちゃった?」静かに動いていたつもりが、直ぐに反応した司に腕を掴まれた。「つくし、体辛くねぇか? 無理させたよな? でもよ、久々だったし、お前が可愛いこと言うからよ」気になるなら、こうなる前に気遣え!...

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Secret 24

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壁に両手をつき項垂れた頭上からは、シャワーの冷水が容赦なく降り注ぐ。「情けねぇ」バスルームに反響するくぐもった声は、言葉同様に陰湿だった。メープルのキープしてある部屋に入るなり、こうして煩悩を払う滝行の如く水に打たれ続けている。守ってやると、支えてやると決めたのは自分だ。なのにこのザマだ。何やってんだよ、俺は。冷え切ったせいか、それとも自分の不甲斐なさに込み上げる怒りからか。体が小刻みに震えるが、...

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魅惑の唇 6

慣れないことはしない方が良い。『今日、泊まってく?』あんならしくないこと言うべきじゃなかった。そう実感した休日。あれから道明寺は、あたしと進が住むマンションに泊まっていくことになった。流石に8年も付き合っていれば、泊まるのが初めてってわけじゃないけれど、私から誘ったのは皆無に等しい。いつもなら、たまたま仕事が早く終わった司が突然現れて、勝手に今日は泊まって行くと言い出したり、進が泊まっていくよう引...

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Secret 23

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桜子が帰ってからも司はまだ怒っている様だった。あれから何度となく城崎さんのコメントについては、『私だって理解出来ない』と説明してみても、返ってくるのは『分かってる』の一言のみ。言葉とは裏腹に、記事を見る前と後では明らかに司の態度は違う。朝食を一共に済ませ、食後のコーヒーを飲む段になっても、新聞に視線を固定し私を見ようとはしない。話し掛けても司は口数少なく、気まずい時間を拭えないまま滋さんが来て、司...

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魅惑の唇 5

会話のなくなった暗闇は静か過ぎて、司と二人取り残されても、正直居心地が悪い。織部君がいる前では、口にしてはいけないような気がして聞かなかったけれど、釈然とせず胸がつかえたままで、これをどうすればいいのか分からずにいた。「まだ納得してねぇんだろ?」見透かしたように言う司は、やけに機嫌が良さそうで、顔をニヤつかせあたしを見ている。その余裕綽々な態度も、自分の中にあるモヤモヤも、あたしを苛立たせて行く。...

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Secret 22

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不意に温かい何かが触れて身じろぐ。でもそれは、驚いただけで不快を抱くものではなかった。寧ろ、その温もりは心地よくて、離れたくなくて。本能のままに手を伸ばしてしがみ付く。夢か現実か。二つの狭間でせめぎ合うも、あまりの心地よさに混濁した意識が再び深い眠りへと沈もうとしたその刹那。額に感じる感触を捉え、今度こそ目を開けた。「…………え。……えーーっ、司っ!?」いる筈もない司が、私の額に押し当てていた唇を離し、目...

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魅惑の唇 4

「……ごめん、牧野」えっーと……何が!?これが率直な感想だった。呆けた言葉しか浮かばないのは、頭の回転の悪さだけが理由じゃないと思う。今のこの状況だけは、どうしたって理解に苦しむ。理解出来ないまま啞然としていると、車のドアを乱暴に閉める音が背後から訊こえて振り返った。「つ、司っ!」そこには、眼光鋭くあたしに近付いて来る司の姿があった。「ったく、勝手に飛び出しやがって! 話あるっつっただろーがっ!」「ふん...

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Secret 21

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抱えていたものを打ち明け心が軽くなった私は、にこやかに桜子を見た。「桜子、昨夜はありがとうね。なんだか凄く気が楽になれちゃった」「全く、あまり手を掛けさせないで下さいよ?」「うん、ごめん」「私にまで、気を使うなと言っているんです」「はい。反省してます。昨夜ね、司と話したんだ、電話で。今度、ゆっくり二人で話そうって」「そうですか。素直に思うままに、ね、先輩!」「そうだね!」撮影現場に向かう車中。昨夜...

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魅惑の唇 3

「先輩、ご苦労様でした。疲れたでしょうから少し休んだ方が良いですよ?」あれから程なくして、ハラハラさせられたタマ先輩の取材は、何とか無事に終わった。ホテルに関してのインタビューが残ってる司だけを残し、あたしは、先に上がる先輩に付いて一緒に部屋まで来ている。「年寄り扱いするんじゃないよ!」いえいえ、黄色いちゃんちゃんこが似合うお年なんですから。「それよりつくし。まだ仕事は残ってるのかい?」「あとは片...

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Secret 20

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携帯の画面に呼び出した名を見ながら考えを改めた。違う。真実を知るには、当の本人の彼女ではダメだ。考えたくはないけれど、もし嘘を嘘で塗り固められたら……。今、必要以上に突き詰めるのは得策だとは思えない。呼び出した名に繋ぐのは止め、画面には新たな名を表示させた。全てを確かめるには、この人の方が間違いない。「こんばんは。すみません、急に無理言って」扉が開いたままの部屋の前で一声掛け、遠慮なく中へと入る。通...

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