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Archive: 2018年06月  1/1

その先へ 52

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牧野さんの小さな背中を見送り部屋に戻ると、蓮見田守は膝を折り、床に両手をつけたまま、「大切な牧野さんを傷付け…………、本当に申し訳ありませんでした」涙交じりでありながら、気弱な男らしからぬ通る声で謝罪しているところだった。「じ、時効は……」逆に、威勢の良かった姿は影を潜め、覚束なげな声で弁護士に確かめるのは、蓮見田社長だ。息子が全てを認めたこの期に及んでも、気掛かりは己の保身ばかりか。道徳心の欠片も見当...

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その先へ 51

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蓮見田側は押し黙り、牧野さんが次は何を言い出すのかと、警戒を強めている様だった。「聴いて頂きたいものがあります」副社長と繋がれていた手を、片方の手で優しく二度叩いた牧野さんは、自らのをそこから引き抜く。そして、テーブルの中心を空けるように、蓮見田守の前にあった灰皿を手前に退かし、タブレットをそこに置いた。「ここに、蓮見田専務とお会いした時の会話を落としてあります」「……まさか、録ってたんですか?」血...

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その先へ 50

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これほどまでに哀しみに暮れた副社長の顔を、未だかつて私は見たことがない。当然だ。この世で一番愛しく、大切にしたい人の身に起きた悲劇。身が引き千切られるほどの傷みに襲われ、払い除けられるはずもない。楓社長さえも目を閉じ、美作専務は唇をきつく噛み締め、組んだ両手に力が入っているのが分かる。ただ一人。牧野さんだけが動じていなかった。蓮見田社長へと戻した眼差しからは、動揺の一端すら窺えず、感情を捨てたよう...

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その先へ 49

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お話を読んで下さいます皆様、いつもありがとうございます。このお話の回より、注意書きをさせて頂いた内容が含まれます。まだお読みになられていない方様は、先ずこちら『その先へをお読みになる前に』をご確認頂きましてから、お話にお進みになられますよう、宜しくお願い致します。部屋の中に、蓮見田社長の豪快な笑い声が響き渡る。「飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこの事ですな。元恋人でもあり、今や側近として働き、貴方...

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その先へ 48

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────牧野が辞める。俺には何の相談もせずに。それも今日限りで……。気付けば俺は、執務室を飛び出していた。秘書室に牧野の姿はなく、プロジェクトチームの所へと走って向かう。そこにも居ないことを確認すると、また走り出した。…………何でだよ。何で辞めんだよ。どうして俺の傍にいてくれねぇんだよ。向かった先の法務部で、牧野は資料室にいると知らされる。10階にある資料室。エレベーターを待つのももどかしく、非常階段を一気に...

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その先へ 47

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ここ最近、牧野との食事は叶わず仕舞い。俺のバースデー以来だから、機嫌は消化不良気味だ。そんな二月も下旬。一週間の滞在予定でババァが帰国したのを狙うかのように、俺の機嫌を更に下降させる報告が、突然に西田から齎された。「副社長だけではありません。楓社長と美作専務の同席をも求めてきています」「美作専務もですか?」怪訝に眉を顰めた牧野が、もう一度、西田に確認を取る。「はい」頷きながら西田が答えた。「先方は...

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その先へ 46

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何とか酔っ払い牧野に酒を止めさせ料亭を出る。スマホを取り出し車を呼び出そうとするも、「歩いて帰ろーよー!」「はぁ? おまえ歩けねぇだろ」「らいじょーぶ! ど~みょ~じ~、おんぶ!」酔っ払い牧野は、やりたい放題だ。何が歩いて帰るだ。俺だけが歩くんじゃねぇかよ。こっからだと、牧野ン家まで30分ちょいくれぇか。「早くーおんぶー!」騒ぐ牧野にあっさり折れ、牧野のバッグを持ち腰を屈める。「わーい、高ーい。よし、...

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その先へ 45

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「おはようございます」淹れたてのコーヒーを道明寺の前に置いて、直ぐに顔色を窺った。「顔色は…………大丈夫そうですけど、頭が痛いとかないですか? 風邪も引いたりしてません?」昨日の今日だ。記憶を取り戻して混乱していたことを考えれば、一夜明けて変化はないかと内心心配だった。「なんも問題ねぇよ」確かに顔色も悪くないし、気持ちも浮上している様に見える。それを裏付けるように、急に立ち上がった道明寺は、ジャケット...

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その先へ 44

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突然に抱き竦められ、逃げ場のない腕の中で体が硬直する。「少しでいい。このままでいさせてくれ……頼む」首筋に顔を埋めた道明寺が泣いてるようにも感じて、昔から変わらない香りに包まれ、自然に力がスーっと抜けていった私は、黙って身を預けた。息が僅かに苦しくなる程の強さで抱き締められ、やがて、道明寺はポツリポツリと話し出した。「…………めでてぇよな」「…………」「あれだけ惚れた女、身勝手に忘れて」「…………」「再会したら...

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その先へ 43

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夜も10時を回り、進と一緒にリビングで寛いでる時だった。突如として来訪を告げるチャイムが奏で、二人で怪訝に顔を見合わす。「誰だろ、こんな時間に」「俺が出るよ」立ち上がり、来客を映す画面の前に行く進を目で追う。「 道明寺さん!」画面を見るなり進が声を高くした。全くもう! 連絡するとは言ってたけど、まさか家に来るとは……。相変わらず非常識なんだから。「道明寺さん、こんばんは。どうぞ、上がって下さい」画面の向...

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