Archive: 2018年05月 1/2
その先へ 42
「ったく、もう諦めろって」げんなりとした顔で、エレベーターを待つ間にあきらが嘆く。うるせぇよ、と不満は声に乗せずに、胸の内に据え置いた。あきらと共に着替えを済ませ、パーティーに行く前に牧野の顔を見たくて探してみるも見当たらず、俺の機嫌は低空飛行のままだ。当然、今夜のパーティーも事前に誘ってはみたが、返事はNO。それも想定内だった。経済界を始め芸能人も多く参加するパーティーは、入口付近だけマスコミにも...
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その先へ 41
道明寺HDに置いた、新プロジェクトチームがある部屋の中。キャビネットの前に立ち、手にはファイルを広げたまま、全体に目を行き渡らす。ここでは、20数名程のメンバーが忙しなく、それでいて遣る気に満ちた表情できびきびと動いている。定時まであと僅かでも、気が弛む様子もない。大々的にマスコミに発表しスタートを切った新プロジェクトは、問題もなく順調そのものだ。とは言っても、まだ1ヶ月にも満たなく、始まったばかりで...
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その先へ 40
「よぉ、司! 久しぶりだなぁ」「おぅ」「今回は急な担当者変更で申し訳ない。プロジェクトは俺が担当することになった。宜しく頼む」「あぁ。取り敢えず座れよ」10数年振りのあきらは、先ずは社会人としてのけじめか、若しくは、律儀な性格故か。頭を下げてから、促したソファーへと腰を下ろした。「司、前より随分と顔色良くなったんじゃねぇか? たまにパーティーで見掛けても、痩せてるし顔色も良くなかったから心配してたんだ...
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その先へ 39
高級外車が静かに滑り込むのを確認して、身を正す。ドアが開けられ、降りて来た人物が私との距離を縮めて来るのを待って頭を下げた。「牧野! やっと会えたなぁ。マジで嬉しいよ!」懐かしさが胸を撫でる。穏やかな声に導かれるように顔を上げれば、声に違(たが)わず表情も優しく、柔らかな雰囲気も当時と変わっていなかった。12年、いや、もう直ぐ13年になる長い年月を隔てても尚、あの頃の雰囲気を損なわないこの人は、加えて大...
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その先へ 38
道明寺を真っ直ぐに見て、あの想い出の日々を口にした。「大切にしてくれたよ。そりゃさ、道明寺は俺様だし障害だらけの大変な恋愛だったけど……、」道明寺の揺れてた瞳が、その先を待つように私のものと合わせてくる。「凄く大事にしてくれたし、私が困ってる時はいつだって助けてくれた。そりゃもうしつこいくらいに」「しつこいって、ひでぇな」不満気に道明寺の眉間に皺が寄る。それを見て、クスッと笑みを落とす。「本当に何度...
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その先へ 37
自宅に帰りリビングの扉を開けるなり、驚愕の光景に目を見開いた。「なっ! どうして道明寺が居るのよ!」驚きのまま叫ぶ私に、「よぅ」「よぅ、じゃない!」笑顔の道明寺は、家のリビングにあるソファーに優雅に座っていて、私の驚きなんかちっとも気に掛けない。状況が読み込めず立ち竦んだままの私に、もう一人の呑気な声が間に入る。「姉ちゃん。俺が上がってもらったの。前に姉ちゃん送って貰った時は、お茶の一つも出せなか...
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その先へ 36
射し込む一筋の光に照らされ、瞼を開ける。…………良く寝た。まだ、はっきりと覚醒しなくても分かる。昨日までの気だるさが微塵も感じられないほど体は軽い。安眠へと導いてくれたのは、間違いなく小さな手だ。その小さな手の持ち主の姿は、当然もういない…………が、どうしてだ?「なんでおまえが居んだよ」隣にいる返事をしない相手に何度も瞬きをしてみる。暫く呆然としたあと、ベッドサイドにあるスマホを確認すれば、西田から今日は...
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Precious Love*番外編─再会*
こちらは短編【Precious Love】の番外編となっております。本編をお読みになってからお進み下さいませ。気付かなかった。背後に停まった車の気配も、その車のドアが開き、アルファルトを数回刻んだ足音も。すぎなハウスの前で止められなくなった自分の嗚咽が邪魔して、だから耳に何も入らなかった。肩を叩かれるまでは。「先輩?」肩に乗った桜子の手の重みに顔を上げる。桜子は『見て?』と言うように背後に目線を動かし後を追え...
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御礼・あとがき
こんにちは!いつも遊びに来て下さり、ありがとうございます。短編『Precious Love』無事に完結致しました。スタートから辛い展開にも関わらず、最後までお付き合い下さいました皆様に、心から感謝申し上げます。一体、どうなるのか?と、読み続ける中で心配になられた方もいたと思いますが、何とか最後はハッピーエンド!つくしと会えなくても、見えないところでは繋がっていたい。そんな司の一筋な気持ちが、すぎなを通して伝え...
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Precious Love 4
八年の年月が流れても、世間は何も変わらなかった。耳を塞ぎたくなるような事件も、芸能人のスキャンダルも、この世の中から消えずに繰り返される、変わらない社会の日常の一コマだとも言えるし、一年前に政権が変わっても、私達の日常の生活に影響はない。身の回りで変わったことと言えば、二年前に優紀さんが職場結婚したことと、優紀さんの代わりに私が先輩と一緒に暮らすようになったこと。普通のマンションに住むのにも慣れ、...
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