Archive: 2018年02月 1/1
Overturn 【後編】
こちらは、Overturnの後編となります。前編をお読みになられましてからお進み下さいませ。メープルの車寄せに、リムジンが静かに止まる。気の重いまま踏み込むこのメープルこそが、全ての悲しみを生んだ場所だ。今夜開かれるパーティー会場は、つくしと披露宴を挙げるはずだった。別れ話をしたのも、ここのスイートだ。その部屋に、あれ以来、初めて足を踏み入れた。中に入ると、着替えを終えていた雅(みやび)が居た。「着替えるか...
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Overturn 【前編】
2話完結の短編です。宜しければお付き合い下さいませ。「副社長お時間です。雅(みやび)様は、既にお支度のためにメープルのお部屋にご到着された模様です」「分かった」西田の言葉にPCをシャットアウトする。重みを乗せた吐息を覚悟が代わりに吐き出すと、立ち上がって西田と共に部屋を出た。地下で待機してあるリムジンに乗り込めば、今でも哀しみが宿る場所でしかない、赤坂にあるメープルへと音もなく滑り出す。今夜そこでは、...
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その先へ 6
『姉ちゃん、今夜は、大学時代の友達に、飲みに誘われてて……』『了解! 飲みすぎないようにね』『姉ちゃんは? 遅くなりそうなら、途中、合流して一緒に帰ろうぜ!』『私は今日は定時予定。サッサと帰ってくるわよ。じゃあ、進は食事要らないね』『うん。戸締まりちゃんとしとけよ』『あんた、私をどんだけ子供扱いする気? ほら、もう行かないと遅刻するよ』あれから1ヶ月。今朝も姉弟二人暮らしの1日は、いつもと変わらないスタ...
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その先へ 5
「お疲れ様でした。どうでしたか?」迎えに来させたリムジンに乗り込めば、車内で待機してただろう西田の声に反応し、チラリと睨む。「休みの日に、しかも、朝っぱらから拉致らんとばかりにSPを部屋に雪崩れ込ませ、監視役にお前まで参加した、あの見合いとやらを言ってんのか?」「はい。その嫌み通りのお見合いの事で間違いありません」「だったら聞くまでもねぇだろ。女の方もお断りだとよ」窓の外に目をやり、盛大にため息をつ...
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その先へ 4
目の前の男に、見合いはなかったことに、と告げようとした瞬間。ノックと共に、失礼しますと入ってきた仲居さんによって、入れていた気合いは脆くも崩れた。面と向かって話すのは、何しろ12年ぶり。幾ら多少の落ち着きを取り戻したとはいえ、居るだけで存在感をアピール出来る男を前にしては、一握りの覚悟が必要だった。仲居さんが並べるデザートであるメロンを見ながら、人知れず力を込める。入ってきた時と同じように声を掛け出...
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その先へ 3
それは、本当に偶然だった。この世界に身を投じ、右も左も分からずの私を気に掛けてくれたのが、今、目の前にいる神島会長と、今日はまだ姿の見えないその奥さんだった。鉄の女と呼ばれる遥か前。初めて大きな仕事を任され手を組んだのも、当時は社長であり、神島会長が率いる神島コーポレーションだった。それ以来、仕事を抜きにしてもこうして屋敷に訪れ、分刻みのスケジュールの中、僅かな時間を見つけては費やしている。この時...
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その先へ 2
──── 一体、何が起きているというのか。私は今、先週、会ったばかりの老婦──神島(かみじま)サチさんと、その夫である神島誉(ほまれ)さんに、半ば強引に誘われ、休日の昼、待ち合わせ場所に指定された銀座の寿司屋の前に来ていた。自らの意思では来ることもないだろう高級店に足を踏み入れ、個室のドアが店員によって開かれた、その刹那。ドクンと鼓動した胸は痛みを伴い、一瞬、息をするのも忘れた。そのお陰で、衝撃の声は漏らさ...
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その先へ 1
お越し頂きありがとうございます。お進みになる前に【『その先へ』をお読みになる前に】を事前確認して頂き、ご了承頂いた上で先にお進みになられますよう、宜しくお願い致します。*****あの日に心を置いたまま、時だけが流れた。ただ静かに。だけど確実に。音もなく刻まれた時の中で、あの頃何も持たないただの少女だった私は、弁護士と言う名の武器を手に入れた。資格があれば生きていける。喩えこの先1人だろうとも。そう...
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【『その先へ』をお読みになる前に】
お越し頂きまして、ありがとうございます。これから連載する長編『その先へ』ですが、このお話には、ショッキングな内容が含まれております。中には嫌悪感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。それを踏まえた上で、どんな内容でも大丈夫と思われる方のみ、先へお進み下さいませ。初連載でこれは、と私自身悩みましたが、温かく見守って頂けたら幸いです。尚、『ご挨拶とお願い』でも記載しておりますが、誹謗・中傷等は、誠に勝...
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