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Category: 長編  1/17

Lover vol.53

「つくしも、覚悟しておいてね。いざ何があっても、決して動じないように⋯⋯」いつになく硬質な母の声が、これが現実なんだと知らしめる。祖母の命の灯火は細く、儚く、とても危うい状態であるのだと⋯⋯。祖母が入院して、今日で10日。祖母が再び脳梗塞で倒れたのは、鮎を食べた日から、わずか5日後のことだった。 Lover vol.53「つくし⋯⋯」帰宅して真っ先に私の部屋に訪れた司は、気遣うような眼差しで私を見た。「お帰りなさい」...

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Lover vol.52

 Lover vol.52「ただいまー!」実家のインターフォンを鳴らし、開けられた玄関を潜って威勢良く言えば、「⋯⋯あら? 肝心な道明寺さまは?」迎える側の第一声が、何とも失礼なこれ。私の背後ばかりを気にかける母親は、肝心(・・)な娘の夫の姿ばかりを探している。私が重そうに荷物を抱えているのが目に入らないのか、相も変わらず娘に酷い。どんだけ司贔屓なんだと、呆れ塗れに半目で母を見た。「司なら、急遽確認しなきゃなら...

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Lover vol.51

「司さま、お待ちしておりました。遅ればせながら、この度はご結婚、誠におめでとうございます」「ああ。今日は世話になる。妻のつくしだ。これからよろしく頼むな」出迎えてくれたのは、この別荘の管理をしている川村さんという男性で、年の頃は50代半ばだろうか。噂の蕎麦打ち名人という方だ。その後ろには、使用人の方たちもいるけれど、そう多くはない。石張りと木で造られたモダンな別荘は、南側部分が緩やかな曲線を描き、贅...

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Lover vol.50

「魚のエサがイクラ? あの高級品のイクラ? 贅沢すぎるでしょ!」真っ先に抱いた感想がそれで。「イクラって高級品か?」人の感想に疑念を抱き、価値観レベルが天と地ほど違うと見せつけた司に連れられやって来たのは、軽井沢にある管理釣り場だった。 Lover vol.50肌を撫でるような優しい風が吹き、葉擦れが囁く木々の下では、耳心地の良いせせらぎを奏でる清らかな水が流れている。その清流が眺められるすぐ近くに管理釣り場...

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Lover vol.49

 Lover vol.49「司ーっ! 何なのよ、アレはっ!」今日も今日とて、朝っぱらから道明寺邸を震わすのは、腹の底から放出された私の声。ここに住むようになってから、やたら叫んでいるような気がする。それもこれも元を辿ればこの男が発端。今日の叫びも勿論、この男へのクレームだ。それは、例のアレ。突如と姿を現した、例のアレ!正体が明らかになった昨日。司が帰宅するなり不満を爆発させてやろうと思っていたのに、こんな時に...

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Lover vol.48

 Lover vol.48「つきたてのお餅がこんなに美味しいなんて知らなかったよ。つくし、またやろうね!」男性陣がぐったりする中、際立って元気な滋さんは、美味しいを連呼しては顔を綻ばせ、一体、幾つのお餅を食べたことか。お餅の旨さだけではなく、餅つき自体をすっかり気に入ってしまった滋さんは、実は自分でもお餅をついてみたかったと言う。「今回は、折角つくしが仕返ししようって頑張ってたからさ、成功させてあげたくて遠慮...

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Lover vol.47

 Lover vol.47お義父さまの存在をチラつかせるなり沈黙した三人。女性陣には『お義母さま』の名を借りたのだから、男性陣には『お義父さま』の名を。ちゃんと平等を図る私は優しいと思う。誰も褒めてくれないから自画自賛してみる。それに嘘は言っていない。お義父さまには今朝、『友人たちと餅をついて草餅作りますから、楽しみにしていてくださいね』と、伝えてある。お義父さまは、それはそれは喜ばれて、出来上がりの連絡が来...

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Lover vol.46

「桜子⋯⋯、おまえ、一体何があってそんな姿に⋯⋯」美作さんが愕然とした表情で桜子を見る。美作さんだけじゃない。庭に引っ張り出してきた男性陣の誰しもが、唖然と立ち尽くしている。みんなが向かう視線の先は、主に桜子。抜きん出て桜子の姿がボロボロだからだ。ジャージー姿の桜子は、髪がほつれ、肩は落ち、いつものシャンとした姿はどこにもない。「⋯⋯どうもこうもありませんよ。先輩に嫌がらせされたんです。この私が畑仕事と...

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Lover vol.45

 Lover vol.45「改めて先輩、ご結婚おめでとうございます!」「つくし、おめでとう!」「おめでとう、つくし」私の部屋に集合した女四人。それぞれがソファーに腰を落ち着かせるなり、桜子、滋さん、優紀、と輪唱のように祝いの言葉が続く。――――全く以て、めでたいとは程遠い結婚なのに、何がぬけぬけとおめでとう、よ。元はと言えば、美作さんを始めとする友人たちが余計なことをしたせいで、司と再会する羽目になったし、延いて...

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Lover vol.44

 Lover.vol.44「やーっとご招待かよ。数段飛ばしでサクっと結婚しやがって。世話焼いた俺たちには事後報告で、今日まで顔も見せねぇとか、随分と薄情なんじゃねぇの、司くんよ」初っ端から喧しくイチャモンをつけてくるのは、総二郎だ。進と協力してスピード買収を仕掛けたもんだから余計な時間はなく、結婚前にこいつらに説明する暇もなかった。それが面白くないらしい。「うっせぇな。暇がなかったんだ」つくしが急に思い立った...

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