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Category: 長編  1/15

Lover vol.31

組んでいた長い足を解き、立ち上がった司が吐き出したのは、「決まってんだろ。そこにいるバカ女の態度にだ」聞く者を怯えさせる声に乗せた、悪罵。バカ女って⋯⋯牧野のことか?愛する女の間違いじゃなくて!?決して小心者ではなく、ただ心配性なだけである俺は、雲行きの怪しさに、ぶるっと身を震わせた。 Lover vol.31ゆっくりと牧野に近づく司。その気配に気づいた牧野は、食事こそ止めたが、コーヒーを飲む余裕はあるらしい。テ...

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Lover vol.30

「おっ、帰ってきたぜ! でもよ、何で別々なんだ?」総二郎が2階の窓にへばりつきながら首を傾げる。総二郎や類と共に一日遅れで合流した俺たちは、無人島にひっそりと建つ屋敷の中、司や牧野の関係がどう変化したのか、二人の帰りを今か今かと待ちわびていた。『牧野がどうにもこうにも⋯⋯』と、プラス思考の滋すら苦笑するあたり、限りなく司の一方通行ってとこか。まぁ、頑固者の牧野が、そう簡単に気持ちを翻したりはしないだ...

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Lover vol.29

――なっ、何を言い出した、この男は!自分から別れを告げた女に、しかもこの8年、会ったこともなければ、会話ひとつしたことのなかったこのあたしに⋯⋯「好きだ」そう言ったの?ぷつり、ぷつり、と自分の中の何かが焼き切れ、腹の底に怒りが溜まっていく。荒れ狂う感情は今にも内臓を突き破らんばかりで、『ふざけるなーっ!』と咄嗟に叫びそうになる。と同時に心を占めるのは、捨てられた女の矜持。それが理性を掻き集め、爆ぜそう...

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Lover vol.28

「つーかーさーーっ!」まるで光の届かぬ海底にでも落ちたような、酸素を取り込むのも難しく苦しい時間は、遠い向こう、浜辺から手を振る滋の甲高い声によって一瞬にして引き裂かれた。「帰ってきましたね」そう言ってクスリと笑う牧野のダチは、もう顔に困惑を滲ませちゃいない。寧ろ、清々しいようにも見える。多分、松岡は、敢えて滋たちと行動を共ににしなかったんだろう。言い難い話だろうとも俺に全てを打ち明けるために、自...

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Lover vol.27

 Lover vol.27「つべこべ言っててもしょうがないでしょ。何か私たちのことを勘違いしてるみたいだけど、こんなことしても意味ないってわかってもらうには、丁度良いかもしれないし?」あっさりと牧野言われ言葉に詰まる。俺への気持ちが微塵も残っちゃいねぇってわかってはいても、いざ言葉にされりゃ気持ちが怯んで。そうして声を失っていた一瞬の隙。牧野は止める間もなくドレスを着たままプールに飛び込んだ。「牧野っ!」名前...

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Lover vol.26

私たちが降り立った場所は、かつて道明寺と二人で訪れた水上コテージ。まさか、こんな所に連れて来られるとは⋯⋯。小さな溜息を吐く道明寺もまた、行き先がどこかは知らされていなかったようで、「⋯⋯西田もグルだったか」と呟き、舌打ちをしている。にしても滋さん⋯⋯、何でここ!? Lover vol.26水上コテージに着いてもまだ、二人の間に会話はない。こちらを気にする道明寺の視線は感じても、話題もないし口を開くのも億劫で、結局、...

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Lover vol.25

人を威圧するのに慣れた声。振り返ってその人を見れば、邪悪なオーラを醸し出し、鋭く冷酷な眼差しは、凶器にも見えた。二人で話していたときのように物憂げな雰囲気は跡形もなく、昔ながらの姿がそこにある。いや、たった一言発しただけで見るものを怯ませ、場を制圧してしまう姿は、昔以上の迫力だった。 Lover vol.25「っ、道明寺⋯⋯司」道明寺がいることに驚いたのか、それとも、凄まじい威圧感に呑み込まれたのか。恐らく後者...

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Lover vol.24

「そういえば、昨夜は姉がお世話になったようですね。ところで、今日は姉に何か? それとも私に用があって、こんな所までいらしたのですか?」普段は物腰の柔らかい進が、相手を牽制するように低い声を崩さない。「そんな怖い顔しないでくださいよ、牧野社長」進の背中に隠れている私には見えないけれど、どうやら進は、表情にも険しさを滲ませているようだった。 Lover vol.24「まさか、牧野社長までこちらにいるとは思ってもみ...

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Lover vol.23

「悪かった」重みある低音を道明寺が発したのは、二人並んで潮風に晒され、暫く経ってからだった。道明寺の謝罪が何を意味するのか、わかっているのに、「何の謝罪?」私は確かめるように、静かに聞き返した。 Lover vol.23「8年前、勝手に別れを告げ、おまえを傷つけた。悪かったと思ってる」白い気泡が混じった黒い海面を眺める私を、道明寺がそっと窺っているのを感じる。私は、視線を海に置いたまま何拍か刻んだのち、さっき...

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Lover vol.22

 Lover vol,22桜子らしさとはかけ離れた弱い声に触れ、グラスを持ったまま狼狽えた私が繋ぐ言葉を探しているときだった。楽器の調整の音出しが始まり、会場が静まりかえる。「いよいよ、始まりますね」さっきのは何だったの? と思うくらい声も弾み、表情も輝きだした桜子に、ホッと胸を撫で下ろす。不意打ちで弱くなるのは勘弁してよ。焦るじゃないのよ。あんたが遠慮なくぽんぽん言うから、私だって気兼ねなく何でも返せるのに...

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