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Category: Lover   1/6

Lover vol.1

スマホを耳に当て電話対応している私の前には、好奇心に満ちたキラキラと輝く二組の瞳。――そんなガッツリこっちを見なくても。「いえ、本当に遠慮とかじゃないんで⋯⋯」相手が誰かも確認をせず、二人の前で電話を取った私にも落ち度はあるけれど、何でそんなに人の電話を気にするんだか。喋りづらいったらない。だけど、かかってきた電話を取ってしまった以上、無言を貫くわけにはいかないわけで。「ええっと、その⋯⋯、自分のサイズ...

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Lover vol.2

 Lover vol.2「ただいまー」返事をしてくれる人はいないと知りつつも、ついつい口に出してしまうのは、もう習慣だ。けれど⋯⋯あれ?⋯⋯いる?廊下の先、ドアの向こうに人の気配を感じ、スリッパに履き替えパタパタと廊下を駆けた。「姉ちゃん、お帰り」やっぱりいた。リビングのドアを開けるなり迎えてくれたのは、笑顔の弟。このマンションで一緒に暮らしているのだから、いてもおかしくはないけれど、日が暮れるにはまだ早い時間...

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Lover vol.3

 Lover vol.3スマホが鳴り、画面に映し出された名を目にしたときから、嫌な予感はしたんだ。だからって、相手は久々の幼なじみ。無視できるほど冷たい男になれない俺は、おずおずと電話に出たのだが⋯⋯。『あきらか。今直ぐこっちに来い。こいつらを何とかしろ』ある意味期待を裏切らない相手――司は、口を開くなり偉そうに命令してきやがった。俺だってそうそう暇じゃねぇ。仕事だってある。それを少しは考えろ!そう言ったところ...

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Lover vol.4

 Lover vol.4黙り込む司を俺がじっと見ている中、挑発するように口を開いたのは桜子だった。「滋さん? しょうがないですよ。あれから何年経ってると思います? かつてあれだけ愛した人でも、所詮、心は移ろうもの。人の気持ちは変わるんです。先輩だってそうじゃないですか」司ではなく、滋を相手に話し始めた桜子が、人の気持ちは変わる、牧野もそうだ、と皮肉るなり、司の眉がピクピクと動いたのを俺は見逃さなかった。それ...

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Lover vol.5

「ただいまー」「どう? 今日こそは運命の男性と出会えたぁ?」玄関に入るなり私を出迎えるのは、奥のリビングから届けられた、もう何度訊いたかしれないお決まりの科白。3日前にも一言一句違わずに訊いたそれは、言うまでもなく、母親から発せられた無神経な言葉だ。毎度毎度、芸もなく同じことばかり言ってくるけれど、数日で簡単に出会えるくらいなら、誰も苦労はしない。頻繁に顔を合わせているだけに、満面の笑みで迎えてほ...

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Lover vol.6

 Lover vol.6「おばあちゃん」お祖母ちゃんの部屋である和室の襖を開けて、ニコッと笑う。「おや、つくしちゃんかい」部屋の真ん中に置かれてある電動式ベッド。それを起き上がらせた状態で身を預けている祖母は、いつだって目を細めて嬉しそうに私を出迎えてくれる。「起きてたんだ」「あぁ。ニュースを観てたんだよ」リビングで流れていた番組とは違うことにホッとし、耳が遠いせいで大音量となっているテレビに負けじと声を張...

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Lover vol.7

 Lover vol.7メープルの地下駐車場。類を見送り、滋が車に乗り込んだのも見届けてから、隣に佇む桜子に問い掛ける。「桜子、おまえ何か知ってるのか?」「知ってるというよりは、気づいたって感じでしょうか」類に対して、さっき桜子が漏らした一言。――敵に回したくない相手ですよねぇ、花沢さんって。それがどうにも引っかかる。『お疲れさま』を言うためにだけ引き返してきた、別れ際の類の不可解な言動に頭を捻る俺とは違って...

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Lover vol.8

 Lover vol.8不意に浮かんだ疑問を、口にせずにはいられなくなった。「なぁ。類はいつから司の離婚を知ってたんだろうな」「さぁ、私もそこまでは。でも、道明寺さんが離婚していたのは4年も前ですから、花沢さんは、かなり前から知っていたのかもしれません。恐らくですが、色々と探っていたような気がします」「なんでそう思う?」「どうしても私、腑に落ちないんですよ。美作さん、覚えてます? 道明寺さんと別れてからの先輩...

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Lover vol.9

幻覚でも見間違いでもなく、今まさに考えていた人物――牧野が、路肩に寄せた俺の車の脇を通り過ぎていく。まさか偶然にも牧野に遭遇するとは⋯⋯。しかし、今しがたの出来事を思えば、安易に牧野に声をかけるのは躊躇われた。したくてそうしたわけではないにせよ、結果として司を煽ってしまったのは、他ならぬ俺。牧野の知らぬところで、話を急展開させてしまった張本人としては、どうしたって負い目を感じてしまう。だけど、今は夜だ...

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Lover vol.10

えーっ、ちょっと何よ、これ!明日って、いくら何でも急すぎるでしょうがっ!押し捲ったミーティングが終わって席に戻ってみれば、進からの伝言と共に白い封筒が置いてあって、中身を確認した私は目を丸くした。時計に目を遣ると、時刻はもうすぐ18時になろうしている。18時半の約束を思えば、直ぐにでも会社を出るべきだろうけど、どうしても一言文句だけは言っておきたくて、鞄とコートをひったくるなり社長である進の元へと急い...

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