Category: 長編『手を伸ばせばシリーズ』 1/8
手を伸ばせば⋯⋯ プロローグ

どんな内容でも許容出来る方様のみ、お先に進まれますよう、宜しくお願い致します。【プロローグ】お互いの手を離すことはないと思った。もう二度と離れはしないと⋯⋯。喩え何かを失い、何かを犠牲にしたとしても、この手だけは離すまいと心に決めた二人の気持ちに、嘘はなかった。磁石のようにどうしたって引き寄せられてしまう互いの想い。そこに揺らぎはないと滋さんの島で確信したあたしは、身も心も道明寺に捧げ、一つに結ばれ...
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手を伸ばせば⋯⋯ 1

【第1章】道明寺の状態は危機を脱した。安堵したのも束の間。意識を取り戻した道明寺の世界から、あたしの存在だけが消えてなくなっていた。❃流石と言うべきか、道明寺の身体的回復は早く、先日、無事に退院し、今は自宅療養中だ。けれど、記憶の回復の兆しだけは、一向に訪れない。思い出して欲しくて、今までのあたしたちをなかったことにしたくなくて、入院中から何度もお見舞いに行っているけれど、向けられる視線はどこまでも...
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手を伸ばせば⋯⋯ 2

「よく来たねぇ、つくし」門を潜り抜けアプローチを歩いている間に、あたしが来たと聞きつけたのか、開け放たれた玄関の先には、タマ先輩がいた。「こんにちは、先輩」「ああ。待ってたよ」出迎えてくれたタマ先輩は、いきなりあたしの手をギュッと包み込んだ。薄くてしわしわな手からは、じんわりと温もりが伝わってくる。けれどその顔は、いつもより眉が下がり、どこか気遣わしげに見えた。「いいかい、つくし。先客がいるけど気...
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手を伸ばせば⋯⋯ 3

俺の記憶は、相も変わらず一向に戻る気配はなく、日に日に苛立ちが募る。変わらないのは何も記憶だけじゃねぇ。海は勿論のこと、生意気な女も俺の気持ちなんざ無視で、頻繁にこの部屋を訪れるのが日常化している。あの女には、これでもかってほど罵声を浴びせ続けてるのに、へこたれるどころか、『はいはい、これだから俺様は』と俺を適当にあしらったり、時には、『ふざけんじゃないわよ!』と、食ってかかってくることもしばしば...
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手を伸ばせば⋯⋯ 4

ハイエナを排除してから暫くした後、ドアが叩かれた。今度こそあの女、牧野だろう。「入れ」いつものように制服姿で現れた牧野は、「調子はどう?」と訊ねておきながら、「あれ?」と、俺の返事も待たずにキョロキョロと大きな黒目を動かし、辺りを見回して首を傾げる。「今日は誰も来てないの?」いつもは居るはずのクソ女が見当たらないからだろう。クソ女の正体はハイエナだったから退治した。そう正直に打ち明けるべきか悩んで...
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手を伸ばせば⋯⋯ 5

あれから道明寺には会っていない。正直に言えば、怖くて会いに行けずにいる。道明寺に指摘されて初めて、自分がストーカーと変わらない行為をしていたと思い知らされて。だから、自分は道明寺とどういう関係にあるのか、きちんと打ち明けよう、そう思い至ったわけだけど。返って来たあの台詞のダメージは、相当に大きかった。『まさか俺が本気だったとか言う気か? あれだろ? 遊びだったんじゃねぇの?』言葉を受けて、血の気を...
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手を伸ばせば⋯⋯ 6

久々に道明寺に会ったあたしは、気持ちが押し潰されそうになっていた。道明寺の憮然とした態度。素っ気ない言葉。今までのように怒鳴られないだけマシ、と気持ちを切り替えられたら良かったのだけれど、生憎とそんな器用には出来なくて。あたしとの関係を受け入れたくないがために、あんなにも不機嫌なんだろうと思えてならなかった。だけど、よくよく考えてみれば、道明寺の気持ちも分からなくはない。突然、刃物で刺され、記憶ま...
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手を伸ばせば⋯⋯ 7

全てが今日で終わる。大丈夫、きっと大丈夫。ちゃんと終わらせられる。そうやって震えそうになる気持ちを引き締めながら、バイトが終ったあたしは今、道明寺邸へと続く通い慣れた道を歩いている。ここを歩くのも、今日が最後になるかもしれない。思えば、そもそもが釣り合いの取れていない二人だった。片や、世界に名を馳せる大企業の御曹司で、片や、超がつくほどの貧乏庶民。知り合えだけでも幸運で、一時だけでも、道明寺に想わ...
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手を伸ばせば⋯⋯ 8

ソファーに移り、強めの酒を呷る。アルコールで喉をチリチリと焼きつけさせながら、必死で気持ちを落ち着かせた。チラリと視線を向けたベッドでは、女がまだ沈んだまま。シーツに包まれた体は身動き一つしない。決まりの悪さに視線を外した俺は、もう一度酒を流し込んだ。許せなかった。どうしても牧野が。滅茶苦茶にしてやりてぇ。そんな凶暴な衝動が湧き上がり、しかし危険な感情に隠れた本音は、他の男に取られたくねぇ、俺だけ...
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手を伸ばせば⋯⋯ 9

携帯は未納なのか繋がらない。教室にもいない。非常階段にも姿はなかった。下駄箱に靴があるのは確認済みだから校内にいるのは間違いないのに、何故か牧野が捕まらない!となると、『美作さん、牧野さんなら、最近よく図書室に行ってるみたいですよ』と言っていた、牧野のクラスメイトの情報が正しかったか。俺は、別棟にある図書室を目指し、『だいたいが司の奴、何で今日まで黙っていやがったっ!』内心で不満を爆発させながら、...
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