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ご挨拶とお願い


初めまして。
お越し頂きまして、ありがとうございます。

【Once more】は、花男(CPつかつく)の二次小説置き場となっております。

個人が運営している趣味のサイトですので、原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。

また、原作のイメージを損なう恐れもあります。
このようなものに抵抗のある方の閲覧はご遠慮下さい。

あくまで個人の趣味である妄想であり、拙文ではありますが、無断転載・二次転載・お持ち帰り等はお断り致しております。
尚、誠に勝手ながら誹謗・中傷等も一切受け付けておりません。返信も出来かねます。

恐縮ではありますが、どうか予めご了承頂いた上でお付き合い下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。

つかつくの幸せを願いながら、皆様と楽しい一時を過ごせたら嬉しく思います。


葉月

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  • Posted by 葉月
  •  10

お知らせ

お久しぶりです。
ご無沙汰してすみません。
漸く、疲労回復のドリンクに頼ってばかりだった超多忙の状態から脱しつつあり、お話に向き合える時間も間もなく訪れそうです。
完全な余裕ができましたら、更新すべく書き綴っていきたいと思っております。

そして、次のお話ですが、迷いに迷いましたが『手を伸ばせば⋯⋯』の続編にしようと思います。
前回、有り難いお言葉を沢山頂戴し、「よし、続編も加筆修正してアップしよう」と決めました!
とは申しましても、今現在、一文字も書けておりません(¯―¯٥)
あともう少しだけ、お時間を頂戴出来ればと思います。

続編は、10話前後予定の中編。
本編とは大分趣が異なりますが、少しでも楽しんで貰えたなら嬉しいです。

一先ずご報告でこざいましたが、コロナは勿論のこと、秋雨で気温も低くなっておりますので、心も身体も不調を来しませんよう気をつけて、また更新時にお会いできたらと思います。
では、その時まで!

葉月

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  • Posted by 葉月
  •  14

御礼&あとがき



こんばんは!

数日、間が空いてしまいましたが、リメイク版『手を伸ばせば⋯⋯』を最後まで読んで下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。
どうもありがとうございました!

このお話は、私が二次として初めて書いたものでして、何かと思い入れの強いお話です。
それを新たに書き改め、長い年月が経った今、またこうして多くの皆様に読んで頂き受け入れて貰えたことに、昔に書き上げた当時と同じく、嬉しさが込み上げてきました。
有り難いことに、続編をリクエストして下さる方も多く、感謝しかありません。
繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。

で、続編についてなんですが⋯⋯。
昔からこのお話を知っている方はご存知かと思いますが、この『手を伸ばせば⋯⋯』、実は続編らしきものがあるにはあるんです。
ですが、私自身がまだ公開すべきかどうかを悩んでおりまして⋯⋯。

と申しますのも、本編では切ない展開続きだったのに、続編はそれを覆します。
本編なんだったの?ってくらいに、全く別方向に話の舵を切っております。
昔『手を伸ばせば⋯⋯』を完結させた時、あまりにも切ない話を書き続けたせいで、反動でおバカなお話を書きたくなってしまったんですね(¯∇¯٥)
ですので、趣が全く異なります。
しかも、あきら視点しか存在しておりません。
そんな訳で、本編の世界観を壊さないためにもこれで完結とし、続編はリメイクしない方が良いんじゃないかと、未だに悩んでいるところなんです。

皆様、読みたいですかね?

取り敢えず、もう少し悩ませて下さい。
丁度、今は多忙になってしまって、お話に向き合う時間が取れなくなっております。
もう暫くお時間を頂戴し、また考えが定まりましたら、改めてご報告させて頂きたいと思います。

毎日、酷暑が続いております。
コロナも猛威を振るい、台風まで近付き、私達が生きる環境は危険なことと隣り合わせです。
どうぞ皆様、様々なことに気をつけながら、心身を守ってお過ごし下さいね。

最後になりますが今一度、この3か月間、本当にありがとうございました。
皆様に読んで頂けて幸せでした!


葉月

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  • Posted by 葉月
  •  26

手を伸ばせば⋯⋯ 52【最終話】



「西田っ! 直ぐにでも日本に帰れるよう手配しろ!」

「支社長、こちらに着いてまだ三時間です。直ぐにと言うのは流石に無理があります。こちらでの仕事も外せないものもありますし」

「煩せぇーっ! 今、俺を自由にしなきゃ、この先の俺は使いもんになんなくなんぞっ! それでもいいのか! とにかく、一刻も早く帰れるように動けっ!」

一人で結論を出した牧野に苛立ち、同時に気ばかりが焦る。
あいつは一度決めたとなると、それを意地でも押し通す真の強さがある。言い換えれば、手の付けられないほどの頑固者。
ぐずぐずしてる場合じゃない。
あきらとの電話から聞こえてきた愛しい声は、全てを取っ払った心を語るのに、進むべき道の舵取りはとんでもねぇ方向で、直ぐにでも牧野を捕まえなきゃ、どこに行っちまうのか想像もつかねぇ。

あのバカ女! 何で俺から離れようとするんだ!

もう一人で苦しめさせて堪るか。今までだって充分に一人で苦しんできただろうが。
一人でぐるぐる考えたところで何が変わる。どうせ自分を責め、その思考に気持ちが引きずられ沈むだけだ。
俺が、寄りかかれる場所になる。嘆いても取り戻せねぇ過去じゃなく、過去から浮上して互いに二度と道は踏み外さねぇと心に刻み、この先は未来を描きながら歩いて行けるように。

「司さん、何事ですか? こちらへ来るなり何を騒いでいるのかしら?」

くそ、居たのかよ。
まだ会社にいると思ったら屋敷に戻っていたとは。

俺の声が余程大きかったのか、部屋にやって来たのはババァだ。

「日本に帰る用事が出来た。俺は直ぐに戻る」

「日本での仕事を失敗したからかしら?」

「失敗だと? 全部順調だ。プロジェクトが起動に乗ってんのも報告に上がってんだろうが。何ボケたこと言ってんだよ」

「あら、まだ成功はしていないんじゃなくて? それより、明日は大事な商談があるのでは?」

訳の分かんねぇこと言いやがって! 

「仕事は上手くいってるっつってんだろうが! それから明日の商談は延期にする」

「西田、そんなにアピールしなくても良くてよ?」

答えてやったのに、それを無視してまた意味の分からねぇことを。
なんでここで西田だ、と思いつつ西田を見遣れば、明日の商談に必要な資料をぐいっと前に押し出し、表紙をババァに見せつけるようにして持っている。

「あなたも司には甘いわね」

恐ろしいことにババァがクスリと笑い、西田から資料を受け取る。更に恐ろしいことに西田までもが笑った。

「ありがとうございます。楓社長が変わって下さるのでしたら、相手企業も文句などあろうはずがございません。これで安心して支社長を日本に帰すスケジュールが組めます」

何なんだ、この寸劇みてぇなやり取りは。
明日の商談を代われと言わんばかりの西田の態度に、怒りもせず当たり前に資料を受け取ったババァ。
まるで最初から代わるつもりだったみてぇに、そして西田もそうなると予想してたかのような一連のやり取り。

「司さん、あなたはまだ、私が望んでいる結果は出していないのではなくて? 商談は私が代わりに出るんですから、あなたは、あなたが日本に戻った本来の目的を早く達成なさい。牧野さんは会社とは関係なく、道明寺家にとって必要な女性です」

思わず、ぽかんと口が開く。
⋯⋯認めてくれてるのか、俺たちのことを。

「但し、私が代わってあげられるのはここまでです。後の諸々は自分で片付けてから日本に戻りなさい。⋯⋯今度こそ、失敗は許しませんよ」

背を向ける間際にも見せた穏やかな笑み。
気持ちの座りが悪いながらも、後ろ姿に声を掛ける。

「⋯⋯あ、あり、ありがとな」

ババァは振り返りもせずにそのまま出て行った。
有り得ない展開に暫し唖然とするが、いつまでもこうしてるわけにはいかねぇ。
どうやらババァも認めてくれたようだし、こっちの憂いは何もねぇ。牧野を堂々と迎えに行ける。
後は、本人である牧野を捕まえて説得するだけだ。

それから俺は滋に連絡を取り、商談にはババァが俺の代理で出席することを告げると、それ以外の仕事を徹夜で片付け、朝一でジェットに飛び乗った。



日本に到着し、真っ直ぐ牧野の住むマンションへと向かう。
しかし、何度部屋のベルを鳴らしても応答はなし。
寝てるだけかとも思ったが、牧野の携帯に掛けても電源が切られているのか繋がらず、嫌な予感しかしない俺は、直ぐに別の相手に連絡を取る。

「あきらっ! 直ぐに牧野のマンションに鍵持って来い!」

『あ、司? もう日本か?』

「さっき着いて、今、牧野のマンション来たが応答がねぇ! ここ、おまえの持ちもんだろ? さっさと牧野の部屋を開けろっ!」

言うだけ言って電話を切る。

⋯⋯牧野、部屋に居てくれ。

あきらを待つ間も不安しかしなく、刻む鼓動のリズムは異常に速い。

何も打つ手がなく待つしか出来ねぇ時間は途方もなく長く、限界尽きてもう一度せっついてやろうとスマホの画面にあきらを表示させた時、

「全くおまえは、言うだけ言って電話を切るな!」

あきらがマンションのエントランスに駆け込んで来た。

「遅せぇっ!」

「ふざけんなっ! 朝っぱら俺様全開、非常識な命令発動しやがって。俺のマンションでも鍵は管理会社預かりなんだ! 担当者叩き起こして、これでも急いで来てやったっていうのに!」

「煩せぇ! 早く鍵寄越せ!」

ったく! とぶつくさ言うあきらから鍵を奪い取り、オートロックを解除して牧野の部屋へと急ぐ。
部屋のドアも直ぐさま開けて二人して中に踏み込めば、

「牧野の奴、こんな早くから出て行ったのかよ⋯⋯司、心当たりは?」

部屋の中は無人だった。

────どこに行ったんだ、牧野。

落ち着け、冷静になれ、よく考えろ。
頭が真っ白になりそうになる自分に言い聞かす。
あいつなら、どういう行動を取る?
考えながら主の居なくなった部屋を見回す。
後で業者に任せるつもりなのか、部屋の中に並ぶ荷物が纏められた段ボール。
昨日まであきらの会社に出社していたことを考えれば、この部屋にギリギリまでいて荷物を片付けていたと考えられる。俺と行き違いになったか。
朝早くに出て行ったとして、治療を受けると言った牧野は、きちんと病気と向き合う覚悟をしたはずだ。
だとしたら、まずあいつが真っ先にすることは─────。


──────あそこだ。


「あきら、行ってくる!」

「おい、司! 行くって、心当たりがあるのか?」

「あぁ。きっとあいつはあそこにいる」

俺は牧野の部屋を飛び出した。

「司、牧野を頼む! 牧野を必ず連れて帰ってこい! 司なら大丈夫だ、頑張れっ!」

追い掛けてきたあきらの励ましを背中で訊く。
返事の代わりに片手を上げた俺は、急いで車に飛び乗った。

頼むから、そこにいろ。
俺が着くまで絶対に動くな。

真面目な牧野なら絶対に無視出来ない場所を目指す中、手を組み合わせ必死で願った。







────きっと乗り越えられる。

見失っていた自分をきちんと取り戻すためにも、私はここから踏み出さなければならない。
現実を受け入れたんだから、きっと大丈夫。

そう言い聞かせながらやって来たのは、道明寺が刺された、港。
けれど、言い聞かせた暗示は全く効かず、胸の動悸が激しくなり足が竦んでしまう。
この場所から立ち直りたいのに、意思に逆らって身体が震える。
とうとう足の踏ん張りがきかなくなって、膝を折ってアスファルトに両手をついた身体は、金縛りにあったように動かない。
唯一、機能しているのが涙腺だった。
あの日の光景を瞼に映しながら、涙が次々と溢れては頬を濡らしていく。

道明寺を永遠に失うかも知れないと怯えたあの日に気持ちが舞い戻り、一瞬にして私の幸せを奪い取ったこの場所が憎く、哀しく、私をなかったことにしないで! と長いこと封印していた心が叫ぶ。

過去に気持ちが引きずられて涙を流しながらも、本当の自分をも理解した。
そうか、私はずっと泣きたかったのか、と。
涙が溢れる程の悲しみを無意識に憎しみにすり替えて、それを拠り所にしてきたなんて⋯⋯。
低劣な自分の人格に失望し、悲しみのあまり慟哭した。


「牧野!」

泣き叫ぶ自分の声の隙間に聞こえてくるのは、居るはずのない大切な人の声。
これも病気が訊かせる幻聴なのか。自分が正しく機能しているのかも、自信がなくなる。

「牧野!」

それでも止まらない声にゆっくりと振り返れば、

「⋯⋯⋯⋯どうして」

数メートル先。そこには紛れもなく、軽く息を弾ませた道明寺がいた。

「おまえな、あんな可愛い笑顔残して、一人でどこ行くつもりだったんだよ」

「⋯⋯どうして、ここに?」

NYに居るはずの道明寺が、私との距離を詰めて見下ろしてくる。

「おまえを捕まえるために決まってんたろうが。ったく、おまえは消えるのが趣味なのかよ。つーか、牧野。おまえ分かってねぇな。言ったろ、俺は。おまえの全部を全力で取り戻すって」

だからだ。だから怖くて一人になりたかった私は、道明寺の視線から逃げて顔を伏せた。

ずっと憎しみを抱いてきた自分を許せず、そんな自分の病気に道明寺を付き合わせたくはない。そう思ったのも本当だけど、同時に気持ちの中を駆け巡ったのは、恐怖だ。
道明寺の言葉を信じて、でもまた、私を必要としなくたったら?
形の見えない言葉に絶対はない。何の保証だってない。 
あの日だってそうだった。
互いの想いを確かめ合って、二人一緒に生きていくことを信じて疑わなかったのに、あの日この場所で伸ばされた手を私は掴めなかった。
掴もうとした瞬間に道明寺は倒れ、私の幸せは夢幻となって儚く消えた。

もう二度と、あんな思いはしたくない。
過去が呪縛となり私を臆病にさせる。

「牧野、もう一度俺を信じろ」

まるで私の心を見透かしたように道明寺が言う。

⋯⋯今度は違う?
信じても不幸は訪れない?
私は、その手を掴めるの?

未来を知ることなんて誰にも不可能なのに、胸の内で幼稚な問いを繰り返す私は、触れるアスファルトに熱を奪われていく自分の手を、じっと見つめるしか出来なかった。







真面目な牧野のことだ。
治療を受ける気になったんなら、まず何をするか。そう考えたとき真っ先に浮かんだのは、事件があった、あの港。
きっと牧野なら、そこからまた始めようと考えるはずで、推測通り牧野はいた。

声を抑えようともせずに泣く姿は痛ましく、呼び掛けて振り返った顔は目も鼻も赤く、怯えているようにも見える。

『もう一度俺を信じろ』そう伝えれば、牧野は俺の目を避けるように下を向いてしまい口を噤んだ。

「なぁ、牧野。これから治療を受けるんだろ? だったら俺の傍にいろ。PTSDに一番必要なのは、不安要素を取り除くことだ。だったら俺が一緒に居た方が断然早く治るはずだ。俺は生きてるし、もう二度と怖い思いも、牧野を傷つけたりもしねぇ。約束する。
俺はおまえを一人にさせたくねぇんだよ。俺も牧野の傍に居てぇ。死ぬまでずっと」

「⋯⋯⋯⋯」

「牧野、おまえはどう思ってる? あの晩、俺に抱かれて何を思った? 確かめたんだろ、自分の気持ちを。俺はすげぇ幸せだった。二度と離したくねぇって、余計にそう思ったよ。⋯⋯おまえは?」

牧野はアスファルトに手も膝もついたまま、静かに首を振る。

「⋯⋯⋯⋯言いたくない。
私はあの日から、ずっと道明寺を憎んできた。毎日、道明寺の顔を思い出しては、絶対に見返してやるって、そう思い続けて生きてきたの。そんな私をどうして受け入れられるの? 私は⋯⋯、自分が許せない」

やっと口を開きはしたが顔は地面に落としたままで。牧野の瞳から流れた落ちた雫が、アスファルトに点々と幾つものシミを作る。

「なぁ。それってよ、よく考えてみれば、俺すげぇ喜んでいいとこじゃねぇか? どんな感情であれ、おまえは俺を一日たりとも忘れたことがなかったんだろ? そこまで牧野に思われてたんなら、俺としちゃ本望だ」

「⋯⋯⋯⋯」

「牧野」

牧野は怖がってる。
俺が過去に傷つけてしまったばかりに。そして、牧野自身が自分を許せないがために。前に進もうにも心が怯むんだろう。
だから俺は何度でも言う。その恐怖を飛び越えられるまで。

「迷うな。俺のところへ戻ってこい。もう一度一緒にやり直そう」

「⋯⋯⋯⋯怖い。また道明寺に忘れられたら⋯⋯私を必要としなくなったら⋯⋯怖い」

アスファルトを見つめたまま、牧野の身体が震えだす。
類とここに来たときもそうだったように、夢と同じく、あの日の光景を思い出してるのかもしれねぇ。

「牧野、あの日の悪夢はもう終わった。あんな過去は二度と繰り返さねぇ。一人で怖がってるくらいなら俺のところに帰ってこい。おまえが怖くないよう、何度だって抱きしめてやる。時間を掛けて俺の想いを伝えてく。おまえの不安を俺が根こそぎ排除する。だから牧野、ここから動き出せ!」

俺は、数歩分ほどの開きがある牧野に向かって右手を差し出す。

12年前。
滋の島から戻った俺たちを待ち受けていたのは、数え切れねぇほどのマスコミで、揉みくちゃにされながらも、想いを確かめ合った愛しい女と離れて堪るかと、あの日もこうして手を伸ばした。

だからもう一度、俺はここからやり直す。
手を伸ばすだけで、決して自分から牧野に触れには行かない。
空を切り掴めなかった当時とは違うんだと分からせるように、小さな手があの日と同じように俺に向かってくるのを待つ。
今度こそ、その手をしっかり握りしめる、それを証明するために。

「おまえの手を絶ってぇに掴む。だから、俺が手を伸ばしたら、おまえは迷わずにこの手を取れ。あの日とは違う。恐怖をここで断ち切るぞ」

「⋯⋯あの日とは違う?⋯⋯悪夢は終わった?」

消え入りそうに呟く牧野に、「ああ」と力強く返す。

「俺は倒れねぇし、牧野を忘れたりもしねぇ。酷いことして傷つけたりもしねぇって誓う。ここにいる俺は牧野だけを愛するただの男だ。怖い思いなんて絶ってぇにさせねぇから信じろ! 
もう一度、生き直すぞ、牧野。この場所から、二人で一緒に」

ぼろぼろ涙を流し、やがて牧野はゆっくりと立ち上がった。

「でも私、沢山、道明寺を傷つけた⋯⋯そんな自分を許せない」

「俺はもっとおまえを傷つけた。おまえが受けた傷に比べたら、俺の傷なんて蚊に刺されたぐれぇのもんだ。おまえが気に病む程のもんじゃねぇ。それに、奥底ではお互いを求めてた⋯⋯違うか? 
俺はおまえが居なきゃ生きる気力も出ねぇよ。俺が死んだように生きてっても良いのか? なぁ、おまえも俺を助けろよ」

「⋯⋯私、意地っ張りだし可愛げだってない。⋯⋯それでもいいの?」

「バーカ。忘れたのか? おまえの意地っ張りなんて今に始まったことじゃねぇだろうが。そんな意地っ張りなおまえも、俺にとっては何より可愛い」

「それに⋯⋯、大人になった分、求めるものが大きくなったかもしれない。昔より、我が儘になってるかもしれないのよ」

「上等だ。俺を上回る我が儘でも言ってみろ。おまえに関してだけは俺の心は海より広い。何だって叶えてやる」

「それに⋯⋯。それに、意外と焼きもちやきかもしれないし」

「何のサービスだよ、それは。迷惑どころか、俺が大喜びじゃねぇか。どんどん妬け!」

俯きながらうじうじと語るのは、不安の表れ。その一つ一つを潰していく。

「何より、私⋯⋯」

「思ってることは全部吐き出せ。一人で抱え込むのはもう止めだ。全部、俺が受け止める」

「私⋯⋯。私⋯⋯⋯⋯、道明寺を幸せにしてあげられる自身がない。でも⋯⋯⋯⋯幸せになりたい」

風が吹けば簡単に攫われそうな儚い声だった。でも、俺がその愛しい声を聞き逃すはずがねぇ。
そしてその望みは俺の望みでもあり、絶対に叶えるに決まってんだろ。

「手を伸ばせ」

静かに言えば、牧野は迷った末に一歩足を踏み出し、震える手を怖々と俺へと向けてくる。

それでいい。早く俺の手を掴め。掴んだ先から、俺たちの幸せは始まる。

じっと待つ俺の手に牧野のものが触れた瞬間、俺は小さな手を強く握りしめ引き寄せると、自分の腕の中に閉じ込めた。

「ごめん。ごめんな、牧野。長いこと暗闇で迷子にさせちまって。もうそんな辛い思いはさせねぇから。絶ってぇ、この手は離さねぇ。だからおまえも俺の手を離すな。俺が牧野をこの世で一番幸せにしてやる。それが俺の幸せでもあんだよ。
これからは、おまえの心の内を一つ一つ訊かせて欲しい。俺もおまえに伝えてく。そうやって二人で確かめ合いながら生きていこう」

腕の中では、俺の名前を呼びながら牧野が泣きじゃくる。
しがみつく牧野の髪を撫でながら、俺の名を呼び続ける掛け替えのない女の耳元に「愛してる」と言っても言っても足りねぇ想いを繰り返す。

鳴き声が一山越えたところで抱きしめていた腕を解き、牧野の頬を両手で包み込んだ。

「見ないで⋯⋯。酷い顔してるから」

顔を背けようとする牧野をそれでも逃がさない。

「ずっと長いこと一緒に居られなかったんだ。穴が空くほど見たって良いだろ? こんな綺麗な女、見たことねぇよ。
⋯⋯愛してる、牧野。おまえは俺の全てだ」

逸らそうとしていた力を抜き、牧野が俺の目をしっかりと捉える。

「私も。もうずっと前から⋯⋯道明寺だけを愛してた」

愛しい声に乗せて伝えられるのは、ずっと欲しくて堪らなかった牧野の心。

「一緒に病気を治すぞ。どんなことがあっても、ずっと俺が牧野の傍にいる」
「⋯⋯道明寺」

見つめ合う俺たちは、引力に引き寄せられるように唇を重ね合わせた。
深く、長く。今までの時を埋めるように、互いの気持ちを触れあう唇に乗せる。
亡霊の如く付きまとい運命を翻弄したこの場所から、俺たちの歴史は再び動き始める。
もう一度、ここから時を刻もう。

手を伸ばせば、互いに大切な相手がそこにいる。
伸ばされた手を、もう決して掴み損ねはしない。

────誰よりも、愛してる。

唇を合わせながら、愛しい女の小さな左手を、解けないようギュッと握りしめた。




【手を伸ばせば…… fin.】

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これにて完結です。
後日、改めまして『あとがき』にてお礼を申し上げたいと思いますが、一足先にこちらから⋯⋯。
最後まで読んで下さいました皆様、この3ヶ月、本当にありがとうございました!
  • Posted by 葉月
  •  34

手を伸ばせば⋯⋯ 51



「あの二人は、きっと大丈夫ですよ」

「そう思うか?」

「ええ、勿論です。美作さんもそう思いません?」

「まぁな」

今夜俺は、珍しく桜子からの誘いを受けて、二人きりでとあるホテルのバーで飲んでいる。
桜子からの誘いなんて滅多にないが、司と牧野の関係は大丈夫としながらも、やはり二人が気がかりで誰かと喋りたい心境だったのかもしれない。
事実、俺たちの話題は、さっきから二人のことばかりだ。

あれから牧野は、今まで以上に仕事に取り組んでいる。
自分の病を受け入れた上で、今の仕事だけはきちんと終わらせたいという牧野の強い意思を尊重し、治療は先延ばしになるが俺たちは見守ることに決めた。

「意地っ張りの先輩にしぶとく食らいついて説き伏せられるのは、道明寺さんしかいませんもの。並の男じゃ太刀打ちできません」

「普通のメンタルじゃないからな、司は」

「それにしても、あの時の道明寺さん素敵でしたよねぇ。私たちがいるのもお構いなしで、先輩にキスして愛してるだなんて⋯⋯。あんなに想われて、女冥利に尽きるってもんです」

「本能が赴くままに行動する司にとっちゃ、他人の目なんて空気みたいなもんだろ。自分が突き進むと決めたら、周りなんて目も入らない。まぁ、なかなか出来る事じゃないのは確かだな。司しか出来ない」

あの時の司は、男の俺から見ても格好良く見えた、というのは悔しいから胸に置く。
一人の女にあれだけの熱意をもって想いをぶつけるのは、簡単なようで実はそうじゃない。
ましてや、俺たちのような立場なら尚更だ。

なのに、そんな立場さえ鑑みず、たった一人の女に命さえ懸ける愛情を注ぐひたむきさ。
眩しく思うも真似できねぇな。そう心で呟きグラスを傾けていると、

「俺がどうかしたかよ」

突如として聞き慣れた声がして、桜子と二人同時に振り返った。

「司! 何だよ、司もここで飲んでたのかよ!」

「道明寺さん、こんばんは!」

「おぅ。仕事の付き合いで向こうで飲んでたのを切り上げたところだ。で、あきら。俺がどうしたって?」

この前のおまえは格好良かった、なんて間違っても言ってはやらない。

「いや、大したことじゃない。おまえのメンタルに感心してただけだ」

「道明寺さんと先輩の話をしてたんですよ。きっと二人は大丈夫だろうって。⋯⋯道明寺さん?」

急に桜子の声と瞳が、真面目なものへと変わる。

「先輩には道明寺さんしかいないと思っています。先輩のこと、宜しくお願いします」

「あぁ、俺にもあいつしかいねぇ。必ずあいつの全てを取り戻す。心配すんな」

司の声は力強く、本気で腹を括ったようだ。

「なんだか吹っ切ったみたいだな、司。けど、おまえたち相変わらずの忙しさで、関係修復に回せる時間なんてあるのかよ」

「今はまだねぇな。けど、これでいい。今は他のことなんて気にせず、目の前の仕事だけに集中させてやりてぇ。それが終われば治療を受けるって類とも約束したみてぇだし、その時は、俺が全力で牧野の傍で支える」

「そうか。早く二人並んでの笑顔が見れればいいな」

「そうだな」

そう言って笑った司は、明日も早いからと一足先に帰って行った。







今日で牧野の仕事は終わり。
牧野がプロジェクトから離れる最後の日だ。

牧野の他にも入れ替えが何人かいて、一年間共に働き努力を惜しまなかった者たちへは労いを。新たなメンバーには激励込めて、ここ道明寺HDの一室を借り、軽食などを用意したちょっとした送迎会が催されている。

しかし、やっとこれで司も牧野に全力で向き合えるというのに、運の悪いことに司は、これから滋と佐々木と共に海外出張。会にも最後までいられずNYへ向かわなければならない。
大河原と昔から繋がりのある企業が、今回のプロジェクトで使用するシステムに興味を示し呼ばれた格好だ。

全くタイミングが悪いったらない。
司のことだ。早速今夜にでも牧野との時間を作ろうと画策していただろうに⋯⋯。
この間の悪さに内心では大荒れだろうが、今や日本支社長という肩書きを持つ男。腹の内をおくびにも出さず、プロジェクトを去る者たち一人一人に労いの言葉を掛けている。

そして最後に司は、俺と共にいた牧野の元へとやって来た。

「牧野、今まで本当に良くやってくれた。牧野の力がなければ、ここまで軌道に乗ることはなかった。感謝する」

司は他のメンバーにもそうしてきたように、牧野に右手を差し出す。
牧野も素直にそれを握った。

「ありがとうございました。とても勉強になりました」

交わす言葉は短く、互いの顔もビジネス仕様のまま。
これで仕事の繋がりは切れる二人だが、また別の形で繋がる道があるはず。そう思う一方で不安を覚えるのは、根っからの心配性のせいか。
とにかく、司には一刻も早く帰国してもらい、牧野の心を解きほぐしもらわねば。
牧野が進むこれからの道は、もう二度と孤独でありはしないよう、明るい道を指し示してやって欲しい、そう願わずにはいられない。

「あきら、悪い。後は頼む」
「あぁ、任せろ」

出発時刻がギリギリに迫り、司たちが会場を後にする。
その背中を見送ると、先ほどから何も口にしていない牧野を気にかけ、ブュッフェスタイルで並んでいる料理の所へと行き、適当に見繕って皿に乗せていく。
少しばかり盛りすぎてしまった皿を持って牧野の元へと戻るが⋯⋯⋯⋯何故だ。牧野がいない。

重い皿を片手に、ぐるぐると部屋の隅から隅を見回すが、どこにも牧野の姿はなかった。







やっと牧野が仕事に一区切りついたってのに、なんだってこんな時にNYなんか行かなきゃなんねぇんだよ。

不満を燻らせながらも、しかし足だけは前へと向き、まだまだ続く労いのために設けた会を後にする。

ここで出張なのは手痛いが、牧野が手掛けたプロジェクトだ。その価値を広げられるチャンスがあるなら、行くしか選択肢はねぇ。

嘆いている暇があったら一刻も早く帰国し、牧野の元へ向かうしかない。
牧野が納得しようがしまいが、治療には一緒に付き添うつもりでいるし、既に評判の良いカウンセラーの手配も済んでいる。
治療だけじゃない。その先の人生も二人三脚で歩んでいけるよう、牧野が嫌がろうが傍に居続けてやる。
そんな決意を胸に歩いている時だった。

「道明寺!」

間違えるはずもねぇ愛しい声に、勢いよく振り返る。
傍を歩いていた滋も佐々木も反応し、俺と同じように声の主を目で追った。
他の連中がいるところでは、決して呼び捨てなんてしなかった牧野が、走って追い掛けてきたのか、息急き切って遠くから俺の名を呼ぶ。

「どうした?」

離れた距離を詰めようと牧野に近づきかけ、だが⋯⋯、

「道明寺⋯⋯、ありがとう!」

息を呑むと同時、雷にでも打たれたかのような衝撃に、足の動きがピタリと止まる。

────牧野が笑ってる。

嘘、じゃねぇよな。俺の見間違いなんじゃ⋯⋯。
自分の視力に疑念を持つほどそれは懐かしく、もう二度と目にできないんじゃないかと、そう思ったこともある笑顔だった。
制服を着た牧野が良く見せた、俺を捉えて止まない弾けた笑顔が、12年後の今のこの時にある。

「道明寺。⋯⋯もう一度、道明寺に会えて良かった。だから、ありがとう!」

満面の笑みで話す牧野に視線は釘付け。何の構えもない不意打ちでそんな顔見せられたら、言葉だって忘れる。思考もどこかに飛んだ。

「司様」

そんな俺を強引に引き戻したのは、背後から声を掛けてきた西田だった。

「申し訳ございません。司様、お時間がございません」

振り返り、八つ当たりとも言える恨めしげな目を、頭を下げる西田の後頭部に突き刺した。

何でこんな時にNYなんだよ!
牧野も、よりによってこのタイミングで笑顔なんて、んな顔見ちまったら、ますます行きたくなくなるじゃねぇか!

いや、待て。いっそ、牧野を連れて行っちまえばいいか。
そう思い直し牧野に視線を戻すが、既に牧野は背を向け会場へと向かって遠ざかっていた。

「司様のお気持ちは重々承知しておりますが、飛行機の時間が迫っております」

牧野を追い掛け抱きしめたい衝動に駆られながら、それをぐっと呑み込み西田の指示に従う。

牧野が去って行った方向と逆に歩き出せば、

「牧野って、あんな風に笑える奴だったんですね」

呟きとも取れる小さな声が訊こえてきた。佐々木だ。

「あんな顔、俺は初めて見ましたよ」

佐々木を見れば、口元に形だけの笑みを乗せてはいるが、顔は切なげに曇っている。
その隣にいる滋が、佐々木の落ちた肩に手を置いた。

「つくしはね、昔はいつもあんな風に笑ってたんだ。笑うだけじゃないんだよ。怒ったり、恥ずかしがったり、表情がコロコロ変わってね。そんなつくしをみんな大好きだったの。
佐々木くんからすれば、そんなつくしは想像出来ないかもしれないけど、あれが本当のつくしだよ」

涙ぐみながら話す滋に耳を傾けていた佐々木は、しかし、何も言わずに口を噤んだ。



機上でも、俺は何度も牧野を思い出しては、笑顔の意味を探る。
あの笑顔は、俺を受け入れてくれたと思っていいのか?
それとも別の意味が⋯⋯。

NYへ向かうジェットの中、眠気にも襲われずひたすら牧野だけを思う。
笑顔を見た瞬間は、もう一度目にすることが叶った喜びと、その眩しい威力にやられ思考は停止にも近い状態だったが、時間が経つにつれ、やはり何かおかしいと胸が騒ぐ。

どうして無理してでも牧野を追い掛けなかったんだ、俺は。

正常な判断が出来なかった自分を悔いながら、不安の高まりは募る一方だった。








牧野がプロジェクトから離れた翌日。
出社した俺は机の上を見て絶句した。

何だよ、これ⋯⋯マジかよ。

こうしちゃいられない。
俺は心臓をバクつかせながら、直ぐさま牧野を呼ぶよう秘書に指示を出す。と、タイミングを計ったようになるスマホ。相手は司だ。

「司か、無事NYに着いたか?」

『あぁ。それより、牧野に変わった様子はないか?』

相変わらず野生の勘を持っている男だ。

「大ありだ」

机の上に置かれ穴が空くほど見たそれは、牧野の退職届。

「社に来てみたら、俺のデスクに牧野の退職届が置いてあった。それで今、牧野を呼びつけたところだ。来たら詳しく事情を訊く」

『辞めるってどういうことだっ! 辞めてどうすんだ、あのバカ女っ!』

耳がキーンとして受話器を一度離す。

鼓膜が破けんだろうが!
俺だって何が何だか分からないから、これから事情を訊くつもりでいるっていうのに。

昨日の送迎会での牧野は、一時姿が見えずに心配もしたが、直ぐに戻ってきたし、戻って来てからも普段と様子は変わらなかった。辞める素振りすら全くなかったんだ。

「司、とにかく落ち着けって。まずは牧野から話を訊くから⋯⋯あ、司。牧野が来たみたいだ。このままで電話繋いだまま話訊いとけ」

『分かった』

通話を繋げたままのスマホを対面からは見えない位置に置き、「入れ」と、ノックがされた扉に向かって言う。

「失礼します」

一礼してから入ってきた牧野が、俺のデスクの前に立つ。

「何で呼ばれたか分かってるよな? これはどういうことだ」

デスクの上の退職届を指先で叩く。

「私も副社長にお話しするつもりでいました。急な申し出で勝手は充分承知していますが、申し訳ありません。本日を最後に辞めさせて下さい」

「理由は?」

「一身上の都合⋯⋯。いえ、体調不良と言えば分かって頂けますか?」

体調不良。それは充分過ぎるほど分かっている。牧野の病を知って治療を受けるよう勧めたのは俺たちなんだから。
体力的にきついのもあるだろうが、プロジェクトを離れた牧野は、俺の直属の部下の位置づけだ。治療を受けるにしても問題なく対応できるし、仕事も身体に無理のない範囲で調整するつもりでもいた。

「治療をちゃんと受けるんだな?」

「はい」

「なら、これは司が帰国するまで一旦保留だ」

今はまだ、牧野を一人にするわけにはいかない。

「道明寺支社長は関係ありません。私は既にプロジェクトチームを離れましたし、私の上司は美作副社長です」

「だったら、ここからはダチとして訊く。何で司の居ないときに決断した? 司の気持ちは分かってるだろう? 俺だって、おまえを目の届かない場所には置いておけない。
なぁ、牧野。おまえは、また俺たちの前からいなくなるつもりなんじゃないのか?」

牧野は力を抜き口元を緩めた。
それは牧野が日本に帰ってきてから初めてみせる顔で、憑き物が落ちたみたいに翳りのない、静かな笑みだった。

「私、自分の気持ちに漸く気づいたの。それに、自分が病気なんだってことも、今はちゃんと受け入れている。これから場所を落ち着けて、一人で治療をしていくつもり」

「辞めなくても治療は出来る。牧野には無理のない仕事についてもらうつもりだ。そこは俺が責任持ってフォローする。おまえ一人で治療なんて、みんなの心配が分からないのか? 何より、司の気持ちをもう少し汲んでやれよ」

俯いてしまった牧野はいつもの歯切れの良さはなく、慎重に言葉を重ねていく。

「私ね⋯⋯、体力的に限界って言うのは本当なの。最近は、毎晩夢に魘されて⋯⋯。夢で目が覚めた後は、もう眠れないし。流石にこの歳にもなると、睡眠不足もきつくてね」

「牧野。その夢っていつから見てるんだ?」

「道明寺が刺されて⋯⋯、退院した直後からかな」

そんな前からだったのか。
一人で抱えてきた長年の苦悩に改めて胸を衝かれ、言葉を失くす。

「昔は、ここまで頻繁でもなかったし、私も若かったから⋯⋯。でも今は、いよいよ限界かなって。だから、ちゃんと治療を受けて自分をやり直すつもり。だけどそこに道明寺を巻き込みたくない。⋯⋯迷惑、掛けたくないの」

「司が迷惑だなんて思うはずないだろ? 寧ろ、頼ってくれたらどれだけ喜ぶか」

目を伏せている牧野が物悲しげに微笑む。

「うん。道明寺のことだから、きっと迷惑だなんて思わないでくれるだろうけど⋯⋯。でもね、私が嫌なの。私が自分を許せない。⋯⋯私、ずっと道明寺を憎んできた。12年もの間、ずっと」

そこまで話した牧野は、口元の笑みを何とか保ってはいるものの、目には涙が薄く滲む。
それを零さないために、口元に弧を描き必死に堪えているように見えた。

「美作さん。12年よ? こんなにも長い間自分を見失っていたなんて。⋯⋯今まで私、一体何やってきたんだろう」

とうとう重力に負けた涙が頬を伝う。

「牧野、人は必ずやり直せる。やり直したいと強く思えば、人は変われる。だが、やり方を間違えるな。人に頼ることも覚えろ。おまえは一人じゃない。司がいる。俺たちダチがいる。今度こそ判断を間違っちゃいけない」

「私、自分に自信がない。今の自分が凄く嫌い。人を憎んで生きてきた自分が許せない。だから、自分を好きになれるように頑張るから。だからお願い、一人で行かせて欲しい。落ち着いたら、今度は必ず連絡も入れる。
美作さんには、本当に良くしてもらって感謝してるの。今までありがとうございました。
それと、迷惑ついでに道明寺に伝えてもらえる?
私、道明寺に言ったことがあるの。私に悪いって、一生後悔し続けながら生きればいいって。自分でも分からないくらい理性をなくして口にしたけど、あれは本心じゃなかったって今なら分かる。なかったことにされたくなかったの、私の存在を。
ただ、忘れて欲しくなかっただけだって、そう伝えてくれる? お願いします。
私、そろそろ戻るね。今日中に仕事を片付けないとならないから」

あれだけ頑なだった牧野に、どんな心境の変化があったのかは分からない。
が、初めて訊く司への想いに俺は更に一歩踏み込み、出て行こうとする後ろ姿に問いかける。
NYでも訊いた同じ台詞をもう一度⋯⋯。

「牧野。司のことどう思ってる?」

牧野は立ち止まり、くるりと振り返った。その顔は、かつて制服を着ていた少女が良く見せた一点の曇りもない弾けた笑顔で、

「誰よりも大切な人」

迷いを捨て言い切った牧野は、真っ直ぐに伸ばした背を向け颯爽と出て行った。

ドアが閉まり、繋がっているはずのスマホを耳に当てる。
しかし、もう通話は切れていた。
牧野の気持ちを訊いた司は、牧野を確保すべく直ぐに動き出したんだろう。
大丈夫だ。牧野が自分を取り戻しつつある今なら、この先は司がきっと何とかする。

頑張れよ、司。そう心でエールを送りつつ、司のNY滞在は何時間になるんだ? と苦笑する。
司の事だ。今すぐ帰ると大騒ぎしてるに違いない。ハードなスケジュールだが、無理をしてでもジェットを飛ばし帰ってくるはずだ。
NY滞在時間、丸一日あるかどうか。かなりきつい行程だ。
でもまぁ、司なら大丈夫か。
普通の人間とは違って体力はバカみたいに有り余ってるんだ。何せ、何においても規格外の男だし。
牧野のために無駄に動き回りながら帰国するだろう司は、絶対に牧野を手に入れる。逃すはずがない。

明るい未来しか想像できなくなった俺は、堪えきれず誰もいない部屋で一人笑った。

「あははは!」

二人を思う度にいつも付きまとっていた不安は、もう俺の中のどこにもなかった。


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いつもありがとうございます。
明日、最終話です。
  • Posted by 葉月
  •  2

手を伸ばせば⋯⋯ 50



なんて言った⋯⋯?
何を言い出したんだ、牧野は。

唐突に吐かれた突拍子もない台詞に一瞬頭が空白になり、咄嗟に出せる言葉がない。

「私が言ったこと、そんなに可笑しい? 今までだって好きでもない男と寝たし、時間潰しみたいなもんだった。それは、道明寺だからって変わらない。それを確かめたかっただけよ。
でも無理ならいいわ。沢山の美女たちを相手にしてきた道明寺だものね、私が相手じゃ無理かもしれないしね」

「違ぇよ! そんなんじゃねぇ!」

今度は反射で大きな声が出た。

「好きな女目の前にして抱きたくないはずねぇだろうが。⋯⋯けど、それ以上に、俺はもう牧野を傷つけたくねぇ」

牧野を傷つけるのが何よりも怖ぇ。
自分が仕出かした罪の大きさを身に染みて分かってるからこそ、牧野に傷が増えることを何より恐れる。

「何よ、今更。私が傷つく? 私が傷ついたのは17の時だけよ。
⋯⋯道明寺、あなたに教えてあげる」

牧野は言葉を区切り顔を俯かせた。

「あの頃の私が一番傷ついたのは、忘れられたことでも、無理やり抱かれたことでもない。忘れられてからずっと私が恐れてたのは⋯⋯、道明寺に捨てられることだった」

「牧野⋯⋯」

「だから怯えたのよ。無理やり抱かれたことに。あんな風に抱かれてしまったら、後は捨てられるだけじゃない。飽きたおもちゃを捨てるようにね! それが何よりも怖くて絶望したのよ! 
でもね、もうそんな思いは消えてなくなった。今の私は、道明寺を憎んでる私でしかない!」

きつく睨み上げてくるのに、その顔は苦しそうに歪み泣きそうにも見えて、当時の心のままを告げられた俺もまた、胸の奥から迫り上がるものが喉を圧迫する。
それを逃すように、肩で大きく息をした。

「あの時、俺はおまえを自分だけのものにしたかった。あの日、おまえが類に抱きしめられてるのを見て、俺は嫉妬したんだ。おまえに別れを切り出されて、やっぱ類のとこに行くのかって。他の男に取られるくらいなら俺のものにしてやるって、勝手な感情を抑制できなかった。
だからって許されることじゃねぇのは分かってる。俺がどうしようもなく愚かだったんだ。ちゃんと自分の気持ちをぶつけもしねぇで暴挙に出た俺が悪い」

「そんなの嘘よ! あなたは私を性の捌け口にしただけよ!」

違う! そんなわけあるはずねぇだろ!
心で叫ぶが、そう思わせたのは他でもない俺だ。

唇を戦慄わななかせる牧野に近づき華奢な体を腕に閉じ込める。

「おまえをそんな風に見たことなんて一度もねぇよ。昔からおまえだけは俺にとって特別なんだ。あの時だって、今だって。記憶が戻った今、もっとおまえを愛してる。
そんな自分の命より大事な女に酷ぇことして、辛い誤解をわざと与えた俺が全部悪い。それでも俺は、おまえを諦められねぇ。牧野、俺にはおまえだけだ」

「信じない。あんたの言うことなんて信じない!」

拒絶する大きな声が震えている。

「嘘じゃねぇ。本当だ」

「じゃあ、なんでよ。⋯⋯何で忘れたのよ! 島でだって、もう離れないって約束したじゃない。なのに⋯⋯、なのに私だけ忘れて⋯⋯。
あんたの言葉なんてもう信じない。私にはもう道明寺は必要ない!」

必要ないと言い放ちながら、心で泣く声なき悲鳴を訊いているようだった。
本音を隠すために必死に藻掻いてるように見えてならねぇ。
そう思うのは俺の思い上がりかもしれない。それでも、心を武装していた牧野が、愛情と憎しみの相反する想いに揺れていると感じずにはいられない俺は、即座に弱気は捨てた。
迷わず牧野の気持ちに攻め入る行動に出る。
信じないというなら、もう一度信じさせるまで。牧野の全部を取り戻してみせる。

俺は牧野を抱え上げると寝室に向かった。
ベッドに静かに下ろした牧野を横たえ、その上から見下ろす。

「愛してる、牧野。どうしようもなく惚れてるからおまえを抱きてぇ。だが、嫌なら絶対に無理はするな。逃げるなら今のうちだ」

「⋯⋯逃げるわけないじゃない」

「本当にいいんだな?」

「何度も言わせないで」


────俺は、ネクタイの結び目に指を掛けた。







触れる傍から「愛してる」と囁く道明寺は、何度もキスを落としてくる。
大きな手は力だって強いはずなのに、まるで壊れ物でも扱うように私に優しく触れ、初めてでもないのにその手は僅かに震えていた。
嫌でも遠い日の記憶が呼び覚まされる。
もう忘れていたと思っていた、初めて結ばれた日の記憶が⋯⋯。

あの日と同じように、触れあう肌の温もりと共に伝わるのは、道明寺からの想い。
肌から染み込むように、大切にされている、そう思ってしまう。私を傷つけた後悔までもを感じ取ってしまう。
時折、薄い涙の膜を張った切なげな瞳で「愛してる」と囁く男は憎むべき相手のはずなのに、守られるように包まれる腕の中に安らぎ、心地良さを覚えてしまうもう一人の自分。
あの時のように身体を貫く痛みはもうないけれど、胸の奥がずきんと痛むのは⋯⋯何故?

大きな手が、広い胸の温もりが、愛を語る声が、全部で私の心を掻き乱し、この男を否定したいのに、それは出来ないと抗いたくなる。

何層にも覆った憎しみが、一枚、また一枚と剥がれ落ち、心を裸にされた私に残るのは────連綿と続いていた、道明寺のへの想い。

私はずっと道明寺を求めて⋯⋯いた?
大きな手も、広い胸の温もりも、愛を語る声も、道明寺の全部を、きっと私は、もうずっと前から──────。

そうか。求めていたのか、私は。いつだって道明寺だけを⋯⋯。

道明寺と繋がった今、自分の心と身体が漸く一つになる感覚に包まれる。同時に、道明寺を憎んでいなかった自分の愚かさを思い知る。

自分の心から目を逸らし己を騙し続けて、私は12年もの間、一体何をしてきたのだろう。

ふと、『一つのことに囚われるあまり、大切なものを見失ってはいけません』以前、楓社長から言われた言葉を思い出した。

憎しみにばかり囚われていた。そうやって無意識に道明寺を失う恐怖を追いやっていたのかもしれない私は、見失っていたんだ。自分自身を⋯⋯。

愛する人から逸らした目から、一筋の涙が流れ落ちる。
────そして。
高みに登らされ頭が真っ白になる寸前。初めて結ばれた10代の時の私たちが、額を突き合わせて幸せそうに笑う姿が、一瞬、脳裡に浮かんだ気がした。



あれから私はシャワーを借りると直ぐ、道明寺の部屋を後にした。
遅いから泊まっていけと言う道明寺に、

『⋯⋯一人で考えたい』

すっかり力の入らなくなった声音で伝えれば、車を用意してくれた道明寺は大人しく引き下がった。
完全に威勢を失くした私に、無理は通せなかったのかも知れない。

玄関を出る間際、小さな箱を手渡してきた道明寺は、『おめでとう』と言い、その言葉で日付が変わった今日が、自分の誕生日であると気づく。

『新たな時を刻めるよう願って、腕時計だ。おまえの誕生日を一番に祝えて良かった』

道明寺の眼差しは、どこまでも優しい。その優しさを疑う術はもうない。
だからこそ考えたい。自分の気持ちに気づいた今、どうすれば良いのかを。

自宅に戻ってから一晩中考えを巡らせ、やがて気持ちを固める。

自分の心を封印して過ごしてきた、この12年。
だけど、自分を偽っていたとも呼べるこの時間も、確かに私が歩んで来た道だ。
自分で選び、突き進み、そして得てきたものがある。
だからこそ、このプロジェクトだけは全うしたい。12年の道のりも無駄にしないためにも。
今は余計なことは考えず、その後の身の振り方は全てが終わってから。時間をかけて自分に向き合えば良い。

私は、道明寺への想いを封印するのではなく大事に胸に据え置いて、しかし、目先の仕事に没頭すべくビジネスモードに切り替えた。

この仕事が終わるまで。全てはその後で⋯⋯。







牧野を抱いた翌日。
会社のエレベーターに向かう途中、向こうから歩いてくる牧野を見つける。
俺とすれ違う手前で立ち止まり、

「おはようございます」

一礼する牧野からは、昨夜帰り際に見せた、今にも倒れそうな弱々しさは感じられない。

足を止めてじっくり牧野を観察してみても、やはりいつもと変わらなかった。

「何か? 何もないようでしたら急ぎますので失礼します」

再会してからずっと見てきた無表情で、近寄りがたい隙のなさも同じだ。
まるで、昨夜の出来事はなかったかのように。
でも、俺には分かる。
なかったことにしたわけじゃねぇ。取り繕うことも出来ずにあんなに弱り切った姿が一晩で変わるんだとしたら、それは考えて導き出した結果だ。
根が真面目な女だ。一人で考えたいと言った言葉通りに頭を悩ませ、そして改めて決めたに違いねぇ。固い決意をもって、この仕事だけは遣りきると。

「牧野」

遠ざかろうとする背中を呼ぶ。
その他のものは後回しにし、今は仕事を第一優先とする牧野の構えは分かった。
だが、これだけは言っておく。

再び立ち止まった牧野との距離を詰め、断言する。

「おまえがプロジェクトを遣りきったら、俺は、おまえの全てを全力で取り戻しにかかる」

それだけ告げると、互いに別々の方向へと歩き出した。

その後の俺たちは仕事以外で会うこともなく、年末年始も吹っ飛ばす勢いで仕事に全てを注いだ。
実際、最後まで牧野の力は必要だったし、たった一人で築き上げてきた実力を、思いのままに発揮させてもやりてぇ。

そして全てが終わったとき。今度こそ俺は全力で動く。そう決意を胸に懐いて。

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  • Posted by 葉月
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